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平成25年版 防災白書|第1部 第3章 3 発生が危惧される災害種別ごとの対策取組状況


3 発生が危惧される災害種別ごとの対策取組状況

3-1 地震・津波災害対策

(1)地震・津波想定の適切な見直し

東日本大震災の経験を踏まえ,防災対策で対象とする地震・津波災害について,想定すべき地震動,津波高等を見直し,地震津波対策を進めていく必要がある。

このため,政府では,地震・津波の発生メカニズムや被害の把握・分析を行い,さらに,地震動推定・津波高等の推計,被害想定,対策の検討に取り組んでいる。

<1> 地震・津波の想定及び対策の全般的な見直し

これまでの想定をはるかに超える巨大な地震・津波が発生し,甚大な人的・物的被害が生じたことから,中央防災会議では,東北地方太平洋沖地震を教訓とした地震・津波対策に関する専門調査会(以下「地震・津波対策専門調査会」)を平成23年4月に設置した。

この地震・津波対策専門調査会では,地震・津波対策の全般的な見直しについて検討し,想定地震・津波の考え方,地震・津波による被害の軽減対策,大規模地震への備え等の今後の災害対策の基礎となる提言を取りまとめた(平成23年9月)。この中で今後,地震・津波の想定に当たっては,津波堆積物調査等の科学的知見に基づき,「あらゆる可能性を考慮した最大クラスの巨大な地震・津波を検討していくべきである」とし,「想定地震,津波に基づき必要となる施設設備が現実的に困難となることが見込まれる場合であっても,ためらうことなく想定地震・津波を設定する必要がある」と指摘している。

これを踏まえ,中央防災会議において,後述するように,南海トラフ巨大地震及び首都直下地震の被害想定の見直しと対策の検討を行っている。

<2> 地震に関する評価方法及び地震調査研究の在り方の見直し

文部科学省が事務局を務める地震調査研究推進本部地震調査委員会では,東日本大震災の発生を踏まえ,地震の発生する場所,規模,確率の評価(長期評価)手法の改善及び海溝型地震の長期評価について,順次,改訂していくこととしており,平成25年5月には南海トラフの地震活動の長期評価を公表した。さらに,津波による被害軽減に資するよう,長期的な観点から津波の将来予測を行うため,平成25年2月に津波評価部会を設置した。同部会は,同年3月に第1回会合を開催し,今後は津波の長期発生予測のための手法の検討や,津波の長期的発生予測について議論する予定となっている。

また,地震調査研究推進本部では,東日本大震災の教訓や課題を踏まえ,今後10年間の地震調査研究の方針を示した「新たな地震調査研究の推進について(平成21年4月策定)」を平成24年9月に改訂した。地震・津波等による被害の軽減に確実に貢献する地震調査研究を目指し,海域の地震・津波観測網の着実な整備や,地震調査研究成果の普及・啓発等を図ることとしている。

(2)南海トラフ巨大地震対策

<1> 南海トラフ巨大地震対策の必要性

駿河湾から九州にかけての太平洋沖のフィリピン海プレートと日本列島側のユーラシアプレートが接する境界に南海トラフは形成されている。南海トラフでは,100年から150年程度の周期でマグニチュード8クラスの海溝型地震が発生しており,東海,東南海,南海地震の三つの震源域が同時あるいは一定の時間差をもって動くことによる地震が過去生じている。

近年では,安政元年(1854年)に安政東海地震と安政南海地震が,昭和19年(1944年)に昭和東南海地震が,昭和21年(1946年)に昭和南海地震が発生している。東海地震の領域は発生から159年が経っており,また,東南海・南海地震については前回地震から60年余りが経過していることから,今世紀前半にもこの地域での地震の発生が懸念されている(図表1-3-33)。

図表1-3-33 1600年以降に南海トラフで発生した巨大地震 図表1-3-33 1600年以降に南海トラフで発生した巨大地震の図表

<2> 最大クラスの地震・津波の考え方

従来の南海トラフで発生する大規模な地震の想定は,過去に発生した地震と同様な地震に対して備えることを基本として,過去数百年に発生した地震の記録を再現することを念頭に地震モデルを構築してきた。しかし,地震・津波対策専門調査会の考え方に基づき,最大クラスの地震・津波について検討を進めていくことが必要となった。これにより,科学的知見に基づき想定すべき最大クラスの地震・津波を検討するため,内閣府に「南海トラフの巨大地震モデル検討会」を設置した(平成23年8月)。

検討会では,まず,南海トラフで発生した過去の地震について,古文書調査,津波堆積物調査,遺跡の液状化痕跡調査及び地殻変動調査をもとに検討し,宝永4年(1707年)の宝永地震時を上回る津波が2000年前に発生している可能性があること等を整理した。

一方で,現時点の資料では,過去数千年間に発生した地震・津波を再現しても,それが今後発生する可能性のある最大クラスの地震・津波とは限らないため,地震学的知見を踏まえ,あらゆる可能性を考慮した巨大地震モデルを構築することとした。具体的には,プレート境界の形状等の断層モデルに係る科学的知見を踏まえ,最大クラスの想定震源断層域を設定することとした。

この考え方に基づいて,平成23年12月の中間取りまとめでは,南海トラフの巨大地震の新たな想定震源断層域を設定し,中央防災会議が平成15年に公表した従前の東海・東南海・南海地震の想定震源断層域よりも大きく拡大することとなった(図表1-3-34)。

図表1-3-34 南海トラフの巨大地震の新たな想定震源断層域 図表1-3-34 南海トラフの巨大地震の新たな想定震源断層域の図表

<3> 最大クラスの震度分布・津波高

内閣府の「南海トラフの巨大地震モデル検討会」は,平成24年8月29日に,最大クラスの震度分布・津波高・浸水域等(10mメッシュ)の推計結果を第2次報告として取りまとめた。

推計した震度分布・津波高・浸水域等は,地震・津波対策専門調査会の報告書の考え方に沿ったものである。特に,津波高・浸水域は,地震・津波対策専門調査会の報告書に示されている二つのレベルの津波のうち,「発生頻度は極めて低いものの,発生すれば甚大な被害をもたらす最大クラスの津波」に相当するものを推計している。

今回の推計は,東北地方太平洋沖地震のデータを含め,現時点の最新の科学的知見に基づき,発生しうる最大クラスの地震・津波を推計したものである。この最大クラスの地震・津波は,南海トラフ沿いにおいて次に起こる地震・津波を予測したものではなく,その発生時期を予測することは出来ないが,その発生頻度は極めて低いものであることに留意する必要がある。

<4> 震度分布の推計結果

震度分布は,強震波形計算による震度分布4ケース及び経験的手法による震度分布,計5つの震度分布を推計した。防災対策の前提とすべき震度分布は,これらの震度の最大値の分布図とした。その結果は,図表1-3-35のとおりで,関東から四国・九州にかけて極めて広い範囲で強い揺れが想定される。

具体的には,震度6弱が想定される地域は21府県292市町村,震度6強が想定される地域は,21府県239市町村,震度7が想定される地域は10県151市町村である(市町村数には政令市の区を含む(以下同じ))。

図表1-3-35 震度の最大値の分布図 図表1-3-35 震度の最大値の分布図の図表

<5> 津波高及び浸水域等の推計結果

東北地方太平洋沖地震や世界の巨大地震の特徴等を踏まえ,最大クラスの津波断層モデルを設定し,最小10m間隔で構築した地形データを用い,海岸の津波高,陸上への浸水を推計した。

推計は,「基本的な検討ケース」(計5ケース)と「その他派生的な検討ケース」(計6ケース)の計11ケースで行った。結果を概観すると,津波高は,大きな断層すべりの領域(大すべり域,超大すべり域)が設定された地域が他に比べ高くなっている。ケース<1>の津波高の平均値(満潮位)の高さ別市町村数は,5m以上は124市町村(13都県),10m以上:21市町村(5都県)である。

浸水域は,極めて広い範囲が想定され,最大となるケースは約1,015km2である。「駿河湾~紀伊半島沖」に大きな被害が想定されるケース<1>の浸水面積別市町村数は,1,000ha以上2,000ha未満が17市町村,2,000ha以上3,000ha未満が5市町村,3,000ha以上が2市町村である。

図表1-3-36 最大クラスの津波高 図表1-3-36 最大クラスの津波高の図表

<6> 今後の推計予定

「南海トラフの巨大地震モデル検討会」では,超高層ビルや大型石油備蓄タンクと共振して被害をもたらすおそれのある,長周期地震動等について検討を進めている。

<7> 現在の取組

「南海トラフの巨大地震モデル検討会」による震度分布や津波高等の推計結果を受けて,中央防災会議「防災対策推進検討会議」の下に新たに「南海トラフ巨大地震対策検討ワーキンググループ」を設置した(平成24年3月7日)。このワーキンググループにおいて,7月に津波に強い地域構造の構築や安全で確実な避難の確保等を内容とする中間報告を,8月に人的被害・建物被害の想定結果を,平成25年3月に経済被害等の想定結果(図表1-3-37)を,5月に最終報告を取りまとめた(図表1-3-38)。今後,南海トラフ巨大地震対策大綱,地震防災戦略等を策定し,ハード・ソフト一体となった防災対策を推進していく予定である。

また,国,地方公共団体,ライフライン・インフラ事業者等の官民の関係機関が,平素から幅広く集まり,相互の連携を確実にしておくことが必要であることから,「南海トラフ巨大地震対策協議会」を設置し,第1回協議会を開催した(平成24年6月4日)。

図表1-3-37 南海トラフ巨大地震による被害想定(第二次報告)について 図表1-3-37 南海トラフ巨大地震による被害想定(第二次報告)についての図表
図表1-3-38 南海トラフ巨大地震対策について 最終報告 概要 図表1-3-38 南海トラフ巨大地震対策について 最終報告 概要の図表
(3)首都直下地震対策

<1> 首都直下地震対策の必要性

首都圏において,大規模な首都直下地震が発生し,政治,行政及び経済の中枢機能に障害が生じた場合,我が国全体にわたって国民生活及び経済活動に支障が及ぶとともに,海外への被害の波及が懸念される。

また,首都圏に集中している膨大な人的・物的資源への被害も懸念されるところである。

首都圏では,大正12年に発生した関東地震(関東大震災)のような海溝型のマグニチュード8クラスの巨大地震が200~300年間隔で発生するものと考えられている。現在,関東地震から約90年を経過したところであり,次の海溝型巨大地震の発生は,今後100年から200年程度先と考えられている。一方,次の海溝型の地震に先立って,マグニチュード7クラスの「首都直下地震」が数回発生することが予想されており,その切迫性が指摘されている。

図表1-3-39 1600年以降に南関東で発生した地震(M6以上) 図表1-3-39 1600年以降に南関東で発生した地震(M6以上)の図表

<2> 最大クラスの地震の考え方

中央防災会議「首都直下地震対策専門調査会」(平成15年5月~平成17年7月)では,18パターンの首都直下地震を想定し,切迫性が高い地震であること,都心部の揺れが強いこと,震度6弱以上の強い揺れの分布が広域であること等から,北米プレートとフィリピン海プレートとの境界で発生する「東京湾北部地震」を中心に被害想定及び対策の検討を行った。

しかし,南海トラフ巨大地震と同様に,地震・津波対策専門調査会の報告書の考え方を踏まえ,これまで想定対象としてきたマグニチュード7クラスの地震の検証・見直しを行うとともに,相模トラフ沿いで発生する規模の大きなマグニチュード8クラスの地震も想定対象に加えることとした。これらの検討を行うために,内閣府に「首都直下地震モデル検討会」を設置(平成24年5月)し,新たな震度分布・津波高等の検討を進めている。

<3> 首都中枢機能の継続性の確保

中央省庁等の首都中枢機関は,首都直下地震対策大綱において,首都直下地震等の発災時に首都中枢機能の継続性を確保する観点から,業務継続計画を策定することとされている。

東日本大震災の課題と教訓を踏まえ,業務継続計画の更なる充実・強化を図るため,平成24年3月,5月及び8月に,各省庁間において,非常時に優先して実施すべき業務の絞込みや,これら業務を実施するための要員の確保等に関し,申合せを行った。

各省庁において,これらの申合せを踏まえ,業務継続計画の見直しを進めているとともに,今後,政府全体として,業務継続に関する省庁横断的な事項や各省庁の業務継続計画の作成の基準となるべき事項を定める業務継続計画を策定することとしている。

<4> 帰宅困難者等対策

東日本大震災時には,首都圏において約515万人(内閣府推計)の帰宅困難者が発生した。このことは,首都直下地震発生時に備え,帰宅困難者等対策を一層強化する必要性を顕在化させた。

帰宅困難者等対策は,一斉帰宅の抑制,一時滞在施設の確保,帰宅困難者等への情報提供,駅周辺等における混乱防止,徒歩帰宅者への支援,帰宅困難者の搬送等,多岐にわたる。また,膨大な数の帰宅困難者等への対応は,首都直下地震による多数の死傷者・避難者が想定される中にあって,行政機関による「公助」だけでは限界があり,「自助」や「共助」も含めた総合的な対応が不可欠である。

このため,帰宅困難者等対策を強化するためには,国,地方公共団体,民間企業等が連携・協働して取組を進めることが重要である。

内閣府と東京都は,帰宅困難者等対策について,国,地方公共団体,民間企業等が,それぞれの取組に係る情報を共有するとともに,横断的な課題や取組について検討するため,関係機関の協力を得て,平成23年9月に「首都直下地震帰宅困難者等対策協議会」を設置した。また,その下に具体的な対策を検討する幹事会,個別の課題を検討する3つのワーキンググループを設置した。

約一年にわたり平時における事前準備や災害時における行動の在り方について活発な議論を重ね,平成24年9月に最終報告を取りまとめた(図表1-3-40)。

最終報告の内容は以下のとおりである。

i.一斉帰宅の抑制

「むやみに移動を開始しない」という基本原則を徹底するため,第2回協議会において決定した「一斉帰宅抑制の基本方針」の下で,関係機関等は「企業等における施設内待機」及び「大規模集客施設や駅等における利用者保護」の取組を進める。

ii.一時滞在施設の確保

帰宅困難者等を一時的に受け入れるための「一時滞在施設」の運営方法を明確にすること等により,「一時滞在施設」を可能な限り確保する。

iii.帰宅困難者への情報提供

帰宅困難者等へ適時・適切な情報を提供するため,情報提供に関し,関係機関等の連携や平時からの取組等を推進する。

iv.駅周辺等における混乱防止

地方公共団体は,駅周辺の事業者や学校等からなる「駅前滞留者対策協議会」の設置を推進する。

v.徒歩帰宅者への支援

長距離を徒歩で帰宅せざるを得ない帰宅困難者を支援するため,「災害時帰宅支援ステーション」の充実や認知度向上,「帰宅支援対象道路」の拡大や地域での取組等を推進する。

vi.帰宅困難者の搬送

災害時要援護者を基本とした帰宅困難者の搬送について,今後,「帰宅困難者搬送マニュアル(仮称)」を策定する。

vii.ガイドラインの策定

帰宅困難者等の対策について,五つのガイドライン(「事業所における帰宅困難者対策ガイドライン」,「大規模な集客施設や駅等の利用者保護ガイドライン」,「一時滞在施設の確保及び運営のガイドライン」,「帰宅困難者等への情報提供ガイドライン」,「駅前滞留者対策ガイドライン」)を策定した。

最終報告を踏まえ,残された課題や新たに顕在化する課題について情報を共有するとともに,対応策を検討するため,平成25年1月に「首都直下地震帰宅困難者等対策連絡調整会議」を設置し,実務的な検討を継続して行っている。

また,帰宅困難者対策も含めた都市の防災機能の向上を図るため,平成24年度に「都市再生特別措置法」が改正され,都市再生安全確保計画制度が創設された。今後,大規模な地震の発生に備え,退避経路,退避施設,備蓄倉庫等の整備等のハード対策,退避施設への誘導,災害情報・運行再開見込み等の交通情報の提供,備蓄物資の提供及び避難訓練等のソフト対策を定めた都市再生安全確保計画の作成により,官民の連携による都市の安全確保対策を進めることが重要である。

図表1-3-40 首都直下地震帰宅困難者等対策協議会「最終報告」概要 図表1-3-40 首都直下地震帰宅困難者等対策協議会「最終報告」概要の図表

<5> 現在の取組

首都直下地震対策については,東日本大震災を踏まえて,これまでの切迫性の高いマグニチュード7クラスの地震に加えて,相模トラフで発生するマグニチュード8クラスの地震も対象地震として,新たな対策を検討していくこととしている。そのため,中央防災会議「防災対策推進検討会議」の下に「首都直下地震対策検討ワーキンググループ」を設置し(平成24年3月7日),第1回会合を4月25日に開催した。切迫性の高い首都直下地震については,できる対策を早期に進めて行くことが重要であることから,首都中枢機能確保対策等を中心として,平成24年7月に,中間報告(図1-3-41)を取りまとめたところであり,「首都直下地震モデル検討会」における震度分布・津波高の検討を踏まえ,被害想定や首都直下地震対策の見直しを行う予定としている。

また,国,地方公共団体,ライフライン・インフラ事業者等の官民の関係機関が,平素から幅広く集まり,相互の連携を確実にしておくことが必要であることから,「首都直下地震対策協議会」を設置し,第1回協議会を開催した(平成24年4月23日)。

図表1-3-41 首都直下地震対策について 中間報告 概要 図表1-3-41 首都直下地震対策について 中間報告 概要の図表
(4)津波避難対策の強化

<1> 津波警報の改善

東北地方太平洋沖地震で発表した津波警報等においては,津波警報の第1報で推定した地震規模の過小評価,広帯域地震計の測定範囲を超える地震波の発生による更新報発表の遅れ等様々な教訓があった。気象庁は,これらの教訓を踏まえ,津波警報の改善に向けた検討を進め,津波警報の技術的改善を図るとともに,より避難行動に結びつくよう情報文の内容を改善し,平成25年3月7日正午から新しい津波警報等情報文の運用を開始した。

津波警報は,避難に要する時間をできるだけ確保するよう地震発生後3分を目標に発表する従来の方針は堅持し,津波の波源の推定に不確定性があるうちは安全側に立った第1報を発表し,その後得られる地震及び津波観測データ等の解析に基づき,より確度の高い津波警報に更新する。また,地震発生直後の停電等により津波警報が伝わらないことが想定されることや,情報を待って避難が遅れることのないよう「強い揺れを感じたら自らの判断で避難する」ことの基本を周知徹底したうえで津波警報を効果的に機能させることを基本方針とした。

具体的には,マグニチュード8を超えるような巨大地震や津波地震では,地震規模を3分程度で正確に推定することは困難であることから,推定した地震規模の過小評価の可能性を速やかに認識する監視・判定手法を導入し,推定した地震規模が過小である可能性がある場合は,当該海域で想定されている最大の地震規模又は想定断層を用いて津波警報の第1報を発表する。この場合,通常の地震とは異なる非常事態であることを伝えるため,予想される津波の高さを「巨大」(大津波警報の場合),「高い」(津波警報の場合)と表現することとした。

また,大きな揺れでも振り切れにくい広帯域強震計を整備・活用し,巨大地震であっても地震発生約15分程度後までにマグニチュードを適切に求め,これを用いてより確度の高い津波警報の更新報を発表する。この場合の予想される津波の高さは数値で発表する。

発表する津波の高さ予想の区分は,津波予測の誤差やとりうる防災対応の段階等を考慮し,従来の8段階(0.5,1,2,3,4,6,8m,10m以上)から5段階(1,3,5,10m,10m超)に変更した。

実際に津波を観測した際には津波観測に関する情報を発表するが,初期段階の小さな津波の観測値をそのまま発表した場合,今回の津波は小さいものとの誤解を与えるおそれがあることから,観測された津波の高さが予想より十分低い段階では「観測中」として発表する。さらに,沖合の津波観測施設において実際に津波を観測したことをいち早く伝えるため,沖合の津波観測に関する情報を新たに設け,GPS波浪計のほか,より沖合に設置しているケーブル式・ブイ式海底津波計による津波の観測値及び観測値から推定される沿岸での津波の高さ等を発表することとした。なお,推定される沿岸での津波の高さが予想より高い可能性があるときは,直ちに津波警報を更新する。

<2> 地震・津波の観測・調査

文部科学省では,地震・津波の観測・監視体制の強化を目的として,東南海地震想定震源域では「地震・津波観測監視システム(DONET)」の整備を完了し,南海地震想定震源域においても平成27年度の本格運用を目指し,整備を進めているところである。東北地方太平洋沖を中心とした日本海溝沿いにおいても,ケーブル式海底地震・津波計(「日本海溝海底地震津波観測網」)を,平成27年度の本格運用を目指し,整備を進めているところである。いずれの観測網においても,平成24年度は観測機器の製造や敷設ルートの事前調査等を行った。これらの観測網のデータは,緊急地震速報や津波警報等の地震発生時の災害情報の高度化に貢献するとともに,地震・津波の将来発生予測等に活用される予定である。

また,「東海・東南海・南海地震の連動性評価研究(プロジェクト実施期間:平成20~24年度)」では,東海・東南海・南海地震の想定震源域において,地震・津波・地殻変動等の観測やシミュレーション研究,被害予測研究等を行った。本プロジェクトの成果はこれらの地震が将来連動して発生する可能性等に関する政府の検討や,内閣府が作成する想定震源域のモデルの検討に貢献した。

<3> 津波避難対策に関する検討の推進

中央防災会議「防災対策推進検討会議」に設置した「津波避難対策検討ワーキンググループ」において,平成24年7月,最終報告を取りまとめた(図表1-3-42)。

具体的には,素早い避難は最も有効で重要な津波対策であること,津波による人的被害を軽減するためには,住民等一人ひとりの迅速かつ主体的な避難行動が基本となること,その上で,海岸保全施設等のハード対策や確実な情報伝達等のソフト対策は,全て素早い避難の確保を後押しする対策と位置付けるべきものであることを基本的考え方とし,揺れたら避難といった「主体的な避難行動の徹底」,多様な情報伝達手段の整備等の「避難行動を促す情報の確実な伝達」,避難場所・避難施設の整備等の「より安全な避難場所の確保」,地域性を考慮した具体的な津波避難計画の策定,徒歩避難の原則と自動車避難の限界等の「安全に避難するための計画の策定」,防災教育を行う人材の確保等の「主体的な避難行動を取る姿勢を醸成する防災教育の推進」を内容とする今後の津波避難対策を取りまとめた。

図表1-3-42 津波避難対策検討ワーキンググループ 報告概要 図表1-3-42 津波避難対策検討ワーキンググループ 報告概要の図表

<4> 市町村における津波避難対策の推進

消防庁では,東日本大震災を踏まえ,今後発生が懸念される巨大地震等に起因する津波に対する地方公共団体の取組を推進するため,平成24年6月から有識者や地方公共団体関係者等を委員とする検討会を開催し,「津波避難対策推進マニュアル検討会報告書」を公表するとともに,地方公共団体に通知した(平成25年3月)。

報告書では,平成14年3月に作成した都道府県が市町村に示す「市町村における津波避難計画策定指針」及び「地域ごとの津波避難計画策定マニュアル」について,東日本大震災の教訓や知見,それに基づく制度の見直しのほか,2市町において実施したワークショップや津波避難訓練の内容を反映している。

今後は,津波避難の専門家を市町村に派遣するなど,引き続き市町村における津波避難計画の策定を促進していくこととしている。

内閣府,農林水産省及び国土交通省は,平成16年3月に,市町村等における津波及び高潮ハザードマップの作成を支援するため,「津波・高潮ハザードマップマニュアル」を作成した。

東日本大震災において広域に大津波が発生し,大きな被害をもたらしたことを踏まえ,平成23年12月に「津波防災地域づくりに関する法律」が制定され,津波災害警戒区域を含む市町村において津波ハザードマップの作成が義務付けられた。また,「津波避難対策検討ワーキンググループ」報告(平成24年7月)において,東日本大震災では,津波ハザードマップの浸水想定を超えて浸水した地域が多かったことや住民の認知度が必ずしも高くなかったこと等の課題が示され,同マニュアルの見直しの必要性が指摘された。

これらを踏まえ,同マニュアルについて,あらゆる可能性を考慮した最大クラスの津波・高潮による浸水想定を基本とすることや,住民の認知・理解を促進するハザードマップの利活用方法の充実等を内容とする改訂を進めている。


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