平成25年版 防災白書|第1部 第3章 2 2-6 国際防災協力


2-6 国際防災協力

(1)世界における最近の災害

世界では,多数の死者・被災者,経済被害等を伴う災害による被害が毎年のように発生している。世界で過去30年間(1982~2011年)に発生した災害のうち,件数で約4割,死者数で約5割,被害額で約5割,被災者数で約9割がアジア地域で発生している(図表1-3-31)。

また,平成24年度に世界で発生した主な自然災害は図表1-3-32のとおりである。

図表1-3-31 地域別に見た1982年~2011年の世界の自然災害 図表1-3-31 地域別に見た1982年~2011年の世界の自然災害の図表
図表1-3-32 2012年度に起こった主な自然災害 図表1-3-32 2012年度に起こった主な自然災害の図表

<1> イラン北西部における地震

平成24年8月11日現地時間午後4時53分(日本時間8月11日午後9時23分),イラン北西部の東アゼルバイジャン州を震源とする,マグニチュード6.7(米国地質調査所発表)の地震が発生した。その11分後,マグニチュード6.3(米国地質調査所発表)の地震が再び北西部を襲い,地震による死者は306人,負傷者1,836人,被災者が15万7,403人(3万4,200世帯)に達する甚大な災害となった。

被災地では多くの家屋が倒壊し,戸外での避難を余儀なくされていたことから,日本政府はイラン・イスラム共和国に対し,国際協力機構(JICA)を通じ,約1,800万円相当の緊急援助物資(簡易トイレ・シャワー)の供与及び9,000万円の緊急無償資金協力(仮設住宅)を実施した。

<2> ハリケーン「サンディ」

平成24年10月22日(現地時間)にカリブ海で発生した熱帯低気圧「サンディ」は,その後ハリケーンに発達し,カリブ海諸国,北米に大きな被害をもたらした。ハイチ,キューバ,バハマ,ドミニカ共和国,ジャマイカ及び米自治領プエルトリコ等カリブ諸国での死者数は少なくとも69人,18万人以上が被災した。アメリカ東海岸地域では,106人が死亡し,大規模停電,交通網の遮断等都市機能が麻痺し,経済活動にも大きな影響を及ぼした。

日本政府は,ハリケーン「サンディ」の被災者支援として,ハイチ共和国に対し,国連児童基金(UNICEF)を通じ約9,700万円の緊急無償資金協力(水・衛生,栄養分野),キューバ共和国に対し,JICAを通じ約3,200万円相当の緊急救助物資(スリーピングパッド,毛布)供与を実施した。

<3> ナイジェリア洪水

ナイジェリア連邦共和国では,雨期(7〜10月)の大雨による洪水で,北東部アダマワ州と中部コギ州等の地域を中心に国土の大半に被害が及び,363人が死亡,約60万棟の家屋が損壊し,約200万人が避難を強いられた。

被災地では多くの家屋が浸水し,戸外での避難を余儀なくされていたことから,日本政府はJICAを通じ,ナイジェリア連邦共和国に対し,約5,200万円相当の緊急援助物資(テント,毛布,浄水器等)の供与を実施した。

<4> パキスタン洪水

パキスタン・イスラム共和国では,8月中旬からの豪雨により,パキスタン北部のパンジャブ州,ハイバル・パフトゥンハー(KP)州,シンド州及びバロチスタン州等で,大雨による鉄砲水,地滑りのため455人が死亡,2,884人が負傷し,約28万棟の家屋が全壊,約19万棟の家屋が半壊した。

日本政府はパキスタン・イスラム共和国に対し,JICAを通じ約3,500万円相当の緊急援助物資(テント,毛布等)の供与及び国連世界食糧計画(WFP)等を通じ約3億8,000万円の緊急無償資金協力(食料,水・衛生等)を実施した。

<5> フィリピン台風

パラオ南方を通過した台風ボーファ(Bopha:フィリピン名Pablo,日本名台風第24号)が平成24年12月4日,フィリピン南部ミンダナオ島・ダバオ地方に上陸し島を横断し,9日に熱帯低気圧となった。台風ボーファは,最低気圧 930hPa,風速 51.4 m/sを記録し,死者1,067人,負傷者2,666人,行方不明者834人の人的被害とともに,約8万棟の家屋が全壊し,約10万棟の家屋が一部損壊した。

日本政府はフィリピン共和国に対し,JICAを通じ約4,500万円相当の緊急援助物資(テント,スリーピングパッド等)の供与及び国連世界食糧計画(WFP)等を通じ約3億4,000万円の緊急無償資金協力(食料,シェルター等)を実施した。

(2)国際防災協力への取組

我が国は,多くの災害の経験や教訓により培った防災に関する知識や技術を活用し,世界の災害被害の軽減に向けた国際防災協力を積極的に進めてきており,防災協力は我が国の顔の見える国際貢献の重要な分野となっている。

我が国は,国連国際防災戦略事務局(UNISDR),国連人道問題調整事務所(UNOCHA)といった国際機関の活動支援を通じた協力,アジア防災センターを通じた防災情報の共有や人材育成等を行う多国間防災協力,日中韓やAPEC等における防災協力の推進を図る地域内防災協力等に取り組んでいる。東日本大震災に際しては,163の国及び地域並びに43国際機関から支援の申出を受け,24の国と地域から緊急援助隊,医療支援チーム及び復旧支援チームを受け入れ,国際機関も我が国において活動を実施した。また,128の国及び地域並びに機関から物資・寄付金を受領した(物資:64件,寄付金:95件(総額約175億円以上)・一部重複あり)。

東日本大震災により得られた知見や教訓は,我が国のみならず国際社会の防災力の向上にも資するものであり,大震災に際して寄せられた多大な支援に報いるためにも,国際社会に対して広く情報を発信し,共有することによって,国際防災協力を推進する大きな責務がある。

<1> 国連や国際会議の開催を通じた防災協力の推進

i.防災グローバル・プラットフォーム会合

「防災グローバル・プラットフォーム会合」は,平成17年に「第2回国連防災世界会議」(開催地:兵庫県神戸市)で採択された国際社会における防災活動の基本的な指針である「兵庫行動枠組2005-2015」(HFA)の進捗状況を点検・評価し,今後の推進方策を検討するため,2年に一回開催される国連主催の国際会議である。

平成25年5月19日から23日にかけてスイス・ジュネーブで開催された「第4回防災グローバル・プラットフォーム会合」には,「明日の安全のための今日の投資~Resilient People, Resilient Planet~」をテーマとし,閣僚級等を含む172ヵ国の政府機関,国連機関代表の他,地方公共団体,民間団体等から,前回を上回る3,500名以上が参加した。同会議では,各国での防災取組事例の共有のほか,防災の主流化の推進,レジリエントな社会の構築の重要性,気候変動による災害発生頻度の増加への懸念,急速な都市化による都市災害の頻発,災害による経済損失リスクの上昇等様々な側面から防災に関する議論が行われた。

本会議の最終日の閉会式では,日本政府を代表して内閣府大臣政務官がスピーチを行い,その中で「第3回国連防災世界会議」を平成27年3月に仙台市で開催することを全世界に向けて発表した。

ii.世界防災閣僚会議 in 東北

我が国は,平成24年7月に,世界防災閣僚会議 in 東北を開催した。本会議は,外務省,内閣府,復興庁,国土交通省,JICAが主催し,国連開発計画(UNDP),UNISDR,UNOCHA,岩手県,宮城県,福島県,仙台市,一関市,石巻市,福島市が共催した。本会議は,東日本大震災を始め近年の大規模自然災害についての経験と教訓を各国と共有し,事前の備え,緊急対応,気候変動や都市化をはじめとする新たな災害リスクへの対応等様々な側面から防災に関する議論を行い,強靭な社会の構築に向けて,各国の開発計画及び国際協力における防災の主流化に貢献することを目的に開催されたものである。

本会議には,63か国,14国際機関の代表のほか,国際・国内NGO,民間セクターの代表等,約500名が参加した。我が国からは,内閣総理大臣をはじめとして関係閣僚や地方公共団体の長が出席し,議論に参加した。内閣府特命担当大臣(防災)は,閉会式で,国際防災協力の重要性が高まっており,世界各国がレジリエントな社会の構築に取り組まなければならないこと,防災の取組における目標値の設定,評価方法の確立,施策の体系化を検討する必要性,災害を完全に防ぐことは困難との認識に立った上で,減災を目指して,応急対応から復旧・復興までを含めた包括的な取組の重要性,防災の主流化を定着させるため,国際機関や専門機関のさらなる関与の必要性等が確認できたとの総括コメントを行った。

議長総括では,参加各国が,本会議で得られた成果を,平成27年に開催される「第3回国連防災世界会議」へと繋げ,兵庫行動枠組の後継枠組の策定をめぐる議論の重要な基礎とすべきとの認識で一致したと言及された。

iii.防災と開発に関する仙台会合

平成24年10月に第67回国際通貨基金(IMF)・世界銀行年次総会の特別イベントとして「防災と開発に関する仙台会合」が財務省,世界銀行の共催で宮城県仙台市にて開催された。本会合は,各国の財務省関係者や防災・開発担当者を東日本大震災の被災地に招へいし,我が国の震災,復興の経験を共有すると共に,防災の重要性を訴え,途上国の経済・社会開発の中で防災の取組が強化されることを目指したものである。

本会議の成果として,日本の震災・復興の経験を共有するとともに,途上国の開発のあらゆる側面において,防災の観点を取り込むことを求める「仙台ステートメント」が,財務大臣と世界銀行総裁により共同で発出された。今後,途上国の開発においても防災の主流化が進められることが期待される。

iv.アジア防災閣僚級会議

「アジア防災閣僚級会議」(AMCDRR)は,兵庫行動枠組についてアジア各国の実施状況や推進方策を議論するとともに,アジアにおける災害被害の軽減のための取組の成果と課題を総括するため2年に一度開催される国際会議である。「第5回アジア防災閣僚級会議」は,平成24年10月にインドネシア・ジョグジャカルタ市にて開催された。

日本政府からは,内閣府副大臣が出席し,東日本大震災で得られた教訓を発表し,防災の主流化の推進と,ハードとソフトを組み合わせた減災の重要性を訴えた。また,東日本大震災を経験した日本として,得られた知見や教訓を国際社会により積極的に発信していくこと,及び兵庫行動枠組の後継枠組の議論に積極的に取り組んでいくことについて決意を述べた。

v.国際復興支援プラットフォーム(IRP)

「第2回国連防災世界会議」で採択されたHFAでは,災害復興過程における災害予防の観点の取り込みの必要性が位置付けられ,このための国際支援の枠組みの強化を図ることが盛り込まれた。これを踏まえて,平成17年5月,我が国をはじめ,UNDP,UNISDR,UNOCHA,国際労働機関(ILO),アジア防災センター,世界銀行,国際赤十字・赤新月社連盟(IFRC)等との連携により,より良い災害復興のための国際支援の枠組みとして,IRPが設立されている。

平成25年1月にIRPは,内閣府,兵庫県,アジア防災センター等と共に,「国際復興フォーラム2013」を兵庫県神戸市で開催した。本年のテーマは,「都市の力強い復興~防災を取り入れた復興・開発計画づくり~」とし,東日本大震災等,世界各地で発生した災害の経験と教訓を,2015年以降の国際的な防災枠組に役立てるための方策について,活発な意見が交わされた。

また,IRPでは,世界各地での復興における教訓や優良事例をまとめた「分野別復興ガイダンスノート」を作成しており,さらにこれを教材に利用し,各国政府職員を対象としたワークショップを世界各地で実施している。

vi.国連水と災害に関する特別会合

平成25年3月にニューヨークの国連本部において,国連事務総長,国連水と衛生に関する諮問委員会(UNSGAB)と水関連災害有識者委員会(HLEP/UNSGAB)の共催により,水と災害に特化した国連初の会合である「水と災害に関する特別会合」が開催された。同会合には,皇太子殿下がご出席になり,日本の災害の記録と現在の防災に関する知恵を結び付けることで,災害に対してより備えのできる社会を構築できる旨の基調講演をなさった。本会合では水関連災害で得られた教訓や優良事例が共有されるとともに,持続可能な開発に向けた水関連災害のリスク削減の方向性について議論がなされ,水と災害を国連における最重要事項に位置付けること,国連に水と災害の対話プロセスを創設すること,2015年より先の開発目標に災害リスク削減に関する具体的な目標を新たに設定すること等について共通認識が得られた。

<2> アジア・太平洋地域における防災協力

i.アジア太平洋経済協力(APEC)

「アジア太平洋経済協力」(APEC)において,防災分野は重要な分野の一つに位置づけられており,メンバー国・地域により緊急事態準備作業部会(EPWG)が組織され,防災の取組に係る情報交換や共同プロジェクトの実施等が定期的に行われている。

平成24年10月には,ロシア・ウラジオストックにおいて,APEC防災担当高級実務者会合が開催された。日本政府は,内閣府大臣官房審議官が出席し,東日本大震災の教訓,「災害対策基本法」及び防災基本計画の改訂の概要,国際防災協力について説明を行った。また,APEC地域における災害管理能力の向上及び優良事例,復興における民間部門との連携,地域の緊急事態への協力体制整備等をテーマとして,各国・地域から発表及び活発な意見交換が行われた。

ii.東アジア首脳会議(EAS)

東アジア首脳会議(EAS)は,東アジア地域及び国際社会の重要な問題について,首脳間で率直な対話を行うために,2005年に発足した。現在は,ASEAN10か国に日本,中国,韓国,豪州,ニュージーランド,インド,米国,ロシアを加えた18か国が参加している。

防災は,EASの優先協力分野の一つとされており,平成24年度は,9月に中国,12月にインドが,それぞれ防災ワークショップを開催した。各ワークショップには日本政府代表も参加し,日本の防災対策について発表したほか,メンバー各国との間で知見の共有並びに意見交換を行った。

iii.アジア防災センターの活動

アジア防災センターは,平成10年7月の設立以降,30か国(平成25年3月現在。平成24年12月にイラン・イスラム共和国が新規加入)に及ぶメンバー国とのネットワークを構築するとともに,様々な国連機関,国際機関等と積極的に連携して兵庫行動枠組の推進に取り組んでいる。

アジア防災センターでは,「防災情報の共有」,「メンバー国の人材育成」,「コミュニティの防災力向上」,「メンバー国,国際機関,地域機関,NGOとの連携」を4つの柱として活動を行っている。平成24年度は,メンバー国政府の防災関係職員8名を客員研修員として招へいしたほか,各国政府職員等への研修の実施,東日本大震災の復興状況等に関する調査,第5回アジア防災閣僚級会議等国際会議への参加及び大規模災害発生に伴う人工衛星による緊急観測要請22件への対応等を行った。

また,平成25年1月には,内閣府,UNISDRとの共催により,兵庫県神戸市で「アジア防災会議2013」を開催し,メンバー国や国際機関から約80名が参加した。内閣府からは内閣府大臣政務官が出席し,開会挨拶で東日本大震災から得た教訓を踏まえ,ソフト・ハード両面において災害に強い国づくりを行うことの重要性を強調した。さらに,防災の主流化の更なる推進や,日本の知見を国際社会に発信することによって,2015年に終期を迎える兵庫行動枠組の後継枠組の策定議論にも積極的に参加していきたいと,日本の決意を述べた。

また,同会議では,防災・減災における高度な衛星技術の活用や,民間セクター等多様な主体による災害リスク軽減の取組に関するプレゼンテーションが行われるとともに,災害リスク軽減に向けた世界的な議論及び兵庫行動枠組の後継枠組に向けての方向性が示された。

iv.東日本大震災に関する専門家会合

内閣府では,東日本大震災から得られた知見・教訓を共有するため,平成23年度に引き続いて「東日本大震災に関する専門家会合」を開催した。

第3回専門家会合は,世界防災閣僚会議 in 東北のサイドイベントとして,平成24年7月に宮城県仙台市で開催された。本会合では,仙台市の復興の現状について,同市復興事業局長が基調講演を行うとともに,大災害からの復興における諸問題並びに過去の災害教訓の役立て方について,国際機関の代表者が発表と意見交換を行った。

第4回専門家会合は,平成25年1月に兵庫県神戸市で開催された。本会合では,国際復興支援プラットフォーム(IRP)が中心となって作成を進める「東日本大震災復興状況報告」について,中間報告があった。また,過去の巨大災害から得た復興の教訓を,2015年以降の国際的な防災枠組の中でいかに役立てるかについても,参加者の間で議論がなされた。

<3> 日中韓等地域内防災協力

i.日韓防災会議

日本と韓国の二国間協力として,平成11年度から,日韓防災会議を両国で相互に開催しており,平成24年度は,11月に韓国で開催された。本会議は,近年の災害に対する双方の取組について意見交換を行うものであり,日本側からは,「東日本大震災の経験を踏まえた日本の防災対策の見直し」,「首都圏大規模水害対策」,「防災基本計画の修正」について説明を行った。

ii.日中韓防災協力

平成23年3月に東京で開催された「第4回日中韓サミット」の首脳宣言では,「支援提供・受入れ能力の向上のための,各国の援助実施及び受入れ担当当局及び防災・災害応急対策担当当局間の交流の促進」並びに「種々の災害のパターンを想定した机上演習等の実施の検討」が合意されている。

この合意事項に基づいて,平成25年3月,三国協力事務局の主催により,「第1回日中韓三国防災机上演習」が韓国で実施された。本演習には,日中韓各国政府の関係機関が参加し,韓国で大規模地震が発生したとの想定シナリオの下で,三国間の効果的・効率的な支援・受援の方法について議論を行った。本演習を通じて,平時からの三国間での防災協力の推進や関係者間のネットワークの強化等の重要性が確認された。

このように,我が国は東日本大震災をはじめ過去の災害を通じて蓄積してきた知見や教訓を従来から発信してきている。

平成24年12月の国連総会決議を受け,我が国は第3回国連防災世界会議を平成27年3月に仙台で開催することを決定した。同会議では,平成27年に終期を迎える兵庫行動枠組2005-2015の後継枠組の策定が行われる予定である。東日本大震災の被災地である仙台市で同会議を開催することは,被災地の復興の現状を世界に発信するとともに,防災に関する日本の経験と知見を国際社会と共有し,国際貢献を行う重要な機会である。

今後とも世界各国,特に自然災害に脆弱な開発途上国の人的・物的被害の軽減のため,我が国は国際防災協力の取組をさらに推進していく必要がある。


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