平成25年版 防災白書|第1部 特集 2 (1)耐震化に向けた取組


(1)耐震化に向けた取組

(住宅・建築物の耐震化)

阪神・淡路大震災では,地震による犠牲者の約9割が住宅・建築物の倒壊によるものであり,今後発生が懸念される大規模地震でも,建築物の倒壊を原因とする犠牲者の発生が予測される。地震から命を守る上で最も効果的な対策は,住宅・建築物の耐震化により,人々が生活している空間をより安全にすることであり,住宅・建築物の耐震化を推進してきた。

耐震改修促進法に基づく国の基本方針では,住宅や多数の者が利用する建築物の耐震化率を平成15年の75%から平成27年までに少なくとも9割とする目標を定めるとともに,政府の「新成長戦略」(平成22年6月18日閣議決定),「住生活基本計画」(平成23年3月15日閣議決定)及び「日本再生戦略」(平成24年7月31日閣議決定)においては,住宅の耐震化率を平成32年までに95%とする新たな目標を定めた。また,「首都直下地震の地震防災戦略」(平成18年4月21日中央防災会議決定)では,多数の者が利用する建築物(特定建築物)の耐震化率を平成27年までに90%とする目標を定め,計画的な耐震化の促進を図っている。

国土交通省が取りまとめたところでは,平成20年時点の耐震化率は,住宅が約79%,多数の者が利用する特定建築物が約80%となっているが,目標達成に向けてさらなる努力が求められている。耐震化の促進は,住民や利用者の命を守るとともに,その倒壊等により救急救助活動等の支障とならないようにするためにも喫緊の課題である(図表1-0-10)。

図表1-0-10 住宅及び特定建築物の耐震化の状況 図表1-0-10 住宅及び特定建築物の耐震化の状況の図表

(学校の耐震化)

学校施設は,児童生徒等の学習・生活の場であるとともに,災害が発生した場合には,地域住民等の緊急時の避難場所(以下「緊急避難場所」という。)又は地域住民等が一定期間滞在するための避難所(以下「避難所」という。)としての役割も果たすことから,その安全性の確保は重要である。

文部科学省では,平成23年5月24日に「公立の義務教育諸学校等施設の整備に関する施設整備基本方針」を改正し,公立学校施設の耐震化について,平成27年度末までのできるだけ早い時期に完了させるという目標を打ち出している。

文部科学省が取りまとめたところでは,例えば,公立小中学校の耐震化率は,平成24年4月1日現在で84.8%(平成22年度比13.9ポイント増)となっており,耐震化が推進されているが,災害時に学校施設が緊急避難場所及び避難所(以下「緊急避難場所等」という。)としての機能を果たすことに鑑みれば,なお一層の耐震化の促進が必要である(図表1-0-11)。

図表1-0-11 公立小中学校施設の耐震化の状況 図表1-0-11 公立小中学校施設の耐震化の状況の図表

(病院の耐震化)

病院の耐震化については,地震発生時の病院の倒壊・崩壊を防ぎ,入院患者等の安全を確保すると共に被災者に適切な医療を提供していく観点から,重要な課題となっており,厚生労働省において,病院の耐震改修状況の調査を行うとともに,各種補助事業により病院の耐震化を促進してきた。

厚生労働省の平成24年の「病院の耐震改修状況調査」によれば,病院の全ての建物に耐震性のある病院は61.4%(平成21年比5.2ポイント増),一部の建物に耐震性がある病院は23.6%(平成21年比6.5ポイント減)となっており,これらの合計は85.0%(平成21年比1.3ポイント減)である(図表1-0-12)。

一方,病院のうち,災害拠点病院及び救命救急センターについては,平成24年3月21日に指定要件の見直しを行い,経過期間を設けながら,診療機能を有する施設の耐震化を義務付けており,災害拠点病院及び救命救急センターの耐震化率は,病院の全ての建物に耐震性のある病院は73.0%(平成21年比10.6ポイント増),一部の建物に耐震性がある病院は25.2%(平成21年比9.1ポイント減)となっており,これらの合計は98.2%(平成21年比1.5ポイント増)である(図表1-0-13)。

災害拠点病院及び救命救急センターについては,ほぼ全ての建物について耐震化が進んでいるが,今後は,病院全体について,全ての建物に耐震性のある病院の割合を高めるとともに,一部の建物に耐震性がある病院を含め,耐震化を推進することが必要である。

図表1-0-12 病院の耐震化の状況 図表1-0-12 病院の耐震化の状況の図表
図表1-0-13 災害拠点病院及び救命救急センターの耐震化の状況 図表1-0-13 災害拠点病院及び救命救急センターの耐震化の状況の図表

(社会福祉施設等の耐震化)

社会福祉施設等(社会福祉施設のほか,グループホーム,福祉アパート等を含む。以下同じ。)については,地震発生時に自力で避難することが困難な者が多く利用するため,その耐震化を推進してきており,社会福祉施設等の耐震化について初めて調査を行った厚生労働省の「社会福祉施設等の耐震化状況調査」によれば,社会福祉施設等の耐震化率は,平成22年4月時点で81.3%となっている。

厚生労働省では,調査結果を踏まえ,都道府県等に対し,社会福祉施設等について,計画的に耐震化整備を進め,福祉避難所としての機能も期待される社会福祉施設等が地域の防災機能の向上に資するものとなるよう取組を進めることを要請した。

(防災拠点となる公共施設等の耐震化)

防災拠点となる公共施設等は,災害が発生した場合には,緊急避難場所等になる等重要な役割を果たすことから,その耐震化を推進してきた。

消防庁の「防災拠点となる公共施設等の耐震化推進状況調査」によれば,社会福祉施設,文教施設,庁舎等地方公共団体が所有又は管理する公共施設全体のうち,災対応急対策を実施するに当たり拠点(防災拠点)となる施設等の耐震率は,平成23年度末で79.3%(平成20年度末比13.5ポイント増)となっているが,その役割の重要性に鑑み,なお一層の耐震化の促進が必要である(図表1-0-14)。

図表1-0-14 防災拠点となる公共施設等の耐震率の推移 図表1-0-14 防災拠点となる公共施設等の耐震率の推移の図表

(国の庁舎の耐震化)

国の庁舎は,災害時には,災害から人命を守り,災害応急対策活動を行う施設としての機能を有する必要があることから,その耐震化の推進を進めてきた。

国土交通省の取りまとめによると,平成24年3月現在で,国の庁舎(規模の小さい建築物等を除く,一般会計の行政機関の事務庁舎)の耐震化率は,83%(平成21年比8ポイント増)と耐震化が進んでいるが,大規模災害が発生した際に政府の業務継続を確保するためには,更なる耐震化の促進が必要である(図表1-0-15)。

図表1-0-15 国の庁舎の耐震化の状況 図表1-0-15 国の庁舎の耐震化の状況の図表

(公共インフラ等の耐震化)

道路や港湾,空港等の公共インフラは,災害時の応急活動を支える重要な基盤となるものであり,その耐震化を進めることが重要である。国土交通省の取りまとめによると,その耐震化の状況については,平成23年度末で,道路が79%(平成21年度比5ポイント増),鉄道(新幹線)が約100%(平成21年度比増減なし),鉄道(在来線)が約93%(平成21年度比1ポイント増),空港が57%(平成21年比17ポイント増),港湾が68%(平成21年度比4ポイント増),下水道施設33%(平成21年度比7ポイント増)となっている。公共インフラは,未だ耐震化が十分とはいえない状況にあり,重点的に取組を進めていく必要がある(図表1-0-16)。

図表1-0-16 公共インフラ等の耐震化の状況 図表1-0-16 公共インフラ等の耐震化の状況の図表

(地震時等に著しく危険な密集市街地)

地震防災対策上多くの課題を抱える密集市街地の改善整備は都市の安全確保のため喫緊の課題であり,平成18年9月19日に閣議決定された住生活基本計画(全国計画)では,地震時等において大規模な火災の可能性があり重点的に改善すべき密集市街地(平成14年度約8,000ha)を,大規模火災に対する最低限の安全性が確保される市街地として平成23年度までに概ね100%まで整備することを目標としていた。

その後,平成21年度時点において重点的に改善すべき市街地が約5,000haまで減少したことを受け,「住生活基本計画(全国計画)」の変更(平成23年3月15日閣議決定)において,新たに「地震時等に著しく危険な密集市街地」(密集市街地のうち,延焼危険性や避難困難性が特に高く,地震時等において,大規模な火災の可能性,あるいは道路閉塞による地区外への避難経路の喪失の可能性があり,生命・財産の安全性の確保が著しく困難で,重点的な改善が必要な密集市街地)の面積約6,000ha(平成22年度時点)を平成32年度までに概ね解消するとの目標を定めている。

国土交通省が,全国の市区町村を対象に調査を実施し,平成24年10月に取りまとめた「地震時等に著しく危険な密集市街地」は,全国に197地区(5,745ha)存在し,平成32年度までの目標を達成するためには,これまで以上の取組が必要である(図表1-0-17)。

図表1-0-17 「地震時等に著しく危険な密集市街地」の面積 図表1-0-17 「地震時等に著しく危険な密集市街地」の面積の図表

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