平成25年版 防災白書|第1部 特集 1 はじめに


第1部 災害の状況と対策

特集 指標等からみる我が国の防災対策

1 はじめに

我が国は,その位置,地形,地質,気候等の自然的な条件から,暴風,竜巻,豪雨,豪雪,洪水,崖崩れ,土石流,高潮,地震,津波,噴火,地滑り等による災害が発生しやすい国土となっている。世界で発生するマグニチュード6以上の地震の約2割が我が国周辺で発生しているほか,分かっているだけでも約2,000の活断層が存在している。さらに,世界の活火山の約7%にあたる110の活火山が分布している(図表1-0-1,1-0-2,1-0-3,1-0-4,1-0-5)。

図表1-0-1 世界のマグニチュード6以上の震源分布とプレート境界 図表1-0-1 世界のマグニチュード6以上の震源分布とプレート境界の図表
図表1-0-2 世界の火山の分布状況 図表1-0-2 世界の火山の分布状況の図表
図表1-0-3 我が国の海溝と活断層の分布 図表1-0-3 我が国の海溝と活断層の分布の図表
図表1-0-4 我が国の活火山の分布 図表1-0-4 我が国の活火山の分布の図表
図表1-0-5 市町村別の土砂災害危険箇所の状況 図表1-0-5 市町村別の土砂災害危険箇所の状況の図表

このような国土の特性から,我が国は,これまで多くの自然災害に見舞われてきたが,災害を経験する度に,それを教訓に防災体制の整備・強化,国土保全の推進,気象予報精度の向上,災害情報の伝達手段の充実等に取り組み,災害脆弱性の軽減,災害対応力の向上に努めてきた。

戦後間もない昭和20年代から30年代前半には,1,000人以上の人命が失われる大災害が頻発し,昭和21年の南海地震を契機として昭和22年に災害救助法,昭和22年のカスリーン台風等水害の多発を契機に昭和24年に水防法,昭和23年の福井地震を契機として昭和25年に建築基準法が制定された。

昭和34年の伊勢湾台風は死者・行方不明者が5,000人を超す未曾有の被害をもたらした。これを契機に,総合的かつ計画的な防災行政の整備及び推進を図るため,災害対策基本法が昭和36年に制定された。その結果,災害の予防から応急対策,復旧・復興まで一貫した災害対策を実施することが可能となるとともに,内閣総理大臣を議長とする中央防災会議の設置,防災基本計画を土台とする防災計画体系が位置付けられ,総合的かつ体系的な災害対策が実施されることになった。また,災害対策基本法の制定以降も,昭和48年の桜島噴火を契機として制定された活動火山周辺地域における避難施設等の整備等に関する法律(現,活動火山対策特別措置法),昭和53年の宮城県沖地震を契機とする建築基準法の改正等により防災体制の充実・強化に努めてきた。そのような努力もあって,平成7年の阪神・淡路大震災までは,毎年の自然災害による死者・行方不明者数は数十名から数百名で推移していた。

平成7年の阪神・淡路大震災では地震動による建築物の倒壊等により6,400人以上の犠牲者が出たが,この教訓を踏まえ地震防災対策特別措置法,建築物の耐震改修に関する法律,災害対策基本法の一部改正等各種法令の制定・改正,防災基本計画の大幅な修正,各種情報システムの整備や初動対応の強化等様々な分野における災害対策の充実・強化が図られてきた(図表1-0-6,1-0-7,1-0-8)。

図表1-0-6 自然災害による死者・行方不明者数 図表1-0-6 自然災害による死者・行方不明者数の図表
図表1-0-7 我が国における昭和20年以降の主な自然災害の状況 図表1-0-7 我が国における昭和20年以降の主な自然災害の状況の図表
図表1-0-8 戦後の防災法制度・体制の歩み 図表1-0-8 戦後の防災法制度・体制の歩みの図表

このような取組が進む一方,我が国を取り巻く社会経済状況も大きく変化している。我が国は,人口減少社会に入っており,少子・高齢化が進む中で,大都市部への人口集中,地方部の過疎化等が進展し,国・地方とも厳しい財政状況にある。また,地球温暖化による気候変動等による災害リスクの高まりにより,世界中で自然災害の発生件数及び被災者数が増加傾向にある。例えば,2007~2011年の世界の自然災害発生件数の年平均は,1972~1976年の年平均の約6.2倍となっている。近年では,スマトラ島沖地震,米国のハリケーン・カトリーナ,タイの洪水等で大きな被害が発生している(図表1-0-9)。

図表1-0-9 世界の自然災害発生頻度及び被害状況の推移(年平均値) 図表1-0-9 世界の自然災害発生頻度及び被害状況の推移(年平均値)の図表

平成23年の東日本大震災は,我が国観測史上最大のマグニチュード9.0という巨大地震とそれによる津波に加え,原子力発電施設の事故も伴い,広域にわたって大規模な被害が発生するという未曽有の複合災害となった。

東日本大震災は,我が国の防災対策に多くの教訓を残した。特に,災害の発生を防ぎきることは不可能であること,大規模な災害が発生した場合は人命を守ることが重要なこと,災害対策のあらゆる分野で,予防対策,応急対策,復旧・復興対策等の一連の取組を通じてできるだけ被害の最小化を図る「減災」の考え方を徹底して,防災政策を推進すべきことが再認識させられた。

こうしたことを踏まえ,中央防災会議防災対策推進検討会議最終報告では,<1>一つの災害が他の災害を誘発し,それぞれが原因となり,あるいは結果となって全体の災害を大きくすることから,災害予防,応急期,復旧・復興期のあらゆる側面で,このことを認識した対策が講じられるべきであること,<2>災害による被害を最小限にするためには,最新の科学的知見を総動員し,起こり得る災害及びその災害によって引き起こされる被害を的確に想定し,可能な限りの備えを行っていくことが必要であること,<3>起こり得る災害とその被害想定に基づき,あらゆる行政分野について,防災の観点からの総点検を行い,防災対策の充実・見直しを優先順位をつけて着実に行っていくべきこと,<4>自然の猛威は実施可能なハード対策の防災力を上回り,それだけでは被害を防ぎきれない場合があることから,計画を上回る災害にも粘り強い効果を発揮するハード対策に加え,都市計画,土地利用施策,警戒避難対策,防災教育・訓練等のソフト施策の組合せにより災害に強い国土,地域づくりを行う必要があること,<5>災害対応において,行政による対応には限界があり,住民,企業,ボランティア等の民間主体と連携し,災害時には,地域で市民同士が助け合い,行政と連携しつつ市民の協働による組織・団体が積極的・主体的に地域を守るような社会づくりを進めていく必要があること,<6>災害により生産活動や流通が停止すると,広域的な経済活動へ影響が生じることから,企業・組織の事業継続や供給網の管理,保険制度や相互支援の取組などを通じて,災害リスクにしたたかな市場の構築が必要であること,<7>防災対策に関しては,「楽観」を避け,より厳しい事態を想定し,不断の努力により防災に関する可能な限りの備えを進めるべきこと,などが防災政策の基本原則として提言されている。

特に,首都直下地震や南海トラフの巨大地震の発生が懸念される中,これらの大規模広域災害への備えを強化・促進することが急務であり,東日本大震災を教訓とした災害に強い国づくり地域づくりのため,ハード対策とソフト対策を組み合わせた事前防災とともに,地域社会の特性に応じた効果的できめ細やかな防災体制を構築するため,自主防災組織をはじめとして企業やボランティア,地域に関係する団体等が連携し,地域コミュニティの防災力を向上させていく必要がある。

今回の特集では,これまで災害による被害を軽減するために行ってきた様々な取組について,国及び地方公共団体だけでなく,住民,地域コミュニティ,企業,ボランティア等の多様な主体に関する既存の指標等や先進事例を使って,可能な範囲で国民に対して客観的に示し,防災の取組の着実な推進に資するものとする。


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