(3)被災者支援等に関する教訓


(3)被災者支援等に関する教訓

(避難所の設置・運営)

地区の集会所や個人の住宅等,避難所として指定されていない場所が避難所となった例が多いこと,ライフラインの途絶した場所にも避難所が設けられたことから,これらの場所への救援物資の供給等の支援が十分に行われなかった。

避難所になるべき施設に,避難所に必要な設備や,食料,水,燃料等の備蓄があらかじめ十分に備わっていなかった。

また,被災者が一時的に身の危険を回避した避難場所に長く滞在したこと,自宅や自宅に近い避難所での生活を望んでいる場合も少なくなかったこと,行政側が被災者のニーズの変化へ十分に対応できなかったこと,避難所での栄養管理や健康管理を十分にできなかったこと等から,避難生活の改善が遅れた。

日頃から行政と地域住民が一体となって訓練を実施していた避難所では,円滑な避難所運営が行われた一方,一部の避難所では,適切な運営が行われなかった。

このような状況を踏まえ,避難所の在り方について検討する必要がある。

(二次避難・広域避難)

地方公共団体は,一時的に難を逃れる場所としての機能と,長期にわたっての居住空間を提供する場所としての機能を峻別して,被災者を避難させることができなかった。

市町村や県を越える避難が必要となった場合があったが,そのような避難を想定した備えが十分でなかった。このため,他の地方公共団体による避難者の受入れや広域避難者に対する支援の実施までに時間を要した。

このような状況を踏まえ,長期間や広域にわたる避難者が発生する場合を想定した対策について検討する必要がある。

(応急仮設住宅)

応急仮設住宅の設置場所については,被災地の地形上やむを得ない面もあるが,砂利道の不便さ,室内の寒さ,玄関や風呂のバリアフリー,部屋の広さ等を改善する必要があった。

また,民間賃貸住宅を応急仮設住宅として活用する場合にあっては,迅速に対応できるようにするため,地方公共団体と不動産業者との間のルールをあらかじめ明確にしておく必要がある。

なお,建設された応急仮設住宅と比べて民間賃貸住宅の活用は,避難者の居住場所が分散するため,官民の支援を行いにくい面があった。

このような状況を踏まえ,応急仮設住宅の在り方について検討する必要がある。

(男女共同参画の視点)

避難所の運営等,災害現場での意思決定に女性がほとんど参画していなかったため,女性用の物資が不足したり,女性専用の物干し場や更衣室,授乳室が設置されない等,男女のニーズの違いを踏まえた対策が不十分であり,女性が避難生活に困難を抱えていた。

長引く避難生活や生活不安等の影響により,女性に対する暴力の増加や男性の孤立化の懸念が生じた。

このような状況を踏まえ,災害対応に関わる意思決定の場に女性が参画できるよう検討する必要がある。

(災害時要援護者への配慮)

障害者,高齢者,外国人,妊産婦等の災害時要援護者については,情報提供,避難,避難生活等について,対応が不十分な場面があった。

災害時要援護者名簿の整備については,個人情報保護の観点から懸念を示す地方公共団体が少なからず存在し,名簿等の有効活用ができなかった。

避難所,応急仮設住宅等がバリアフリー化されていなかった。また,災害時要援護者の中には,障害者用トイレが必要な者や多人数での共同生活が困難であり,少人数での居室が必要な者もいたが,これらに対応できない避難所が多かった。

このような状況を踏まえ,災害時要援護者への配慮の在り方について検討する必要がある。

(医療・健康確保・心のケア)

DMATの派遣等により災害応急期における体制整備が図られてきたところであるが,慢性疾患への対応や,想定より長期間の活動が必要であった。また,医療チーム間の引継ぎが十分でない事例があった。

復旧・復興段階では,婦人科,小児科,予防注射等のほか,うつ病,不安障害等の予防・治療や心のケアを行うための精神科が重要である。さらに,救助に当たった消防職団員,警察官,自衛隊員,地方公共団体職員等や遺族に対しても,心のケアが重要である。

また,生活不活発病や心の不調を訴える被災者が少なからずいたことから,保健師による巡回保健指導や,心のケアチームによる相談支援等が重要である。

このような状況を踏まえ,災害発生時の医療・健康確保・心のケアの在り方について検討する必要がある。

(絆・コミュニティの重視)

避難行動,避難所や応急仮設住宅での暮らしにおいては,被災者が孤立しないようにするため,絆・コミュニティが被災者の生活にとって欠かすことのできない重要なものである。また,被災した子どもを社会全体で責任を持って守り,育てていくことが必要である。

このような状況を踏まえ,被災地における絆・コミュニティの在り方について検討する必要がある。

(物資供給)

支援物資の供給は,これまで被災地方公共団体からの要請を待って調達するという需要追従型であったが,被災直後,被災市町村では著しく行政機能が低下し,通信途絶に陥っていたことから,政府においては,被災者に必要な物資に関する情報を得ることができず,「来ない情報」を待っていた。

そこで,政府では,被災地方公共団体の自助努力のみでは物資の調達が困難と判断し,国の予算の予備費を活用した物資の調達・支援スキームを構築し,県の集積拠点に,食料,水,毛布等の緊急的に必要となる生活支援物資を届けることとした。

しかし,避難所,避難者の状況把握に時間を要し,災害対応のフェーズに応じて変化する被災者の生活用品へのニーズの変化を十分汲み取った供給を適切なタイミングで行うことができなかった。

一方,県の集積拠点は,荷さばき・在庫管理のノウハウを持たない行政職員が対応したため,政府からの支援物資に加え,大量の民間からの義援物資で集積拠点はあふれかえり,物資が滞留する事態に陥り,市町村や避難所への移送手段の手間取りとあいまって,避難所等への配送が滞った。

今回の災害対応を通じ,調達・輸送のスキームの立ち上げ時期の判断,物資調達に係る費用負担や会計処理の明確化,発災後3日間,1週間等の時間の経過とともに変化する被災者ニーズの把握とそれへの対応,燃料不足による物資輸送の遅延への対応,政府,調達業者及び被災地方公共団体との間での物資調達・輸送に係る情報共有,物流事業者のノウハウ活用等が教訓として挙げられる。

(海外からの支援受入れ)

海外からの救助隊等の人的支援については,被災直後の混乱の中で被災地の被害状況や具体的な派遣ニーズが明らかになるまでに時間を要する等,マッチングが難しかった。派遣国に対しては,「自己完結」体制を要請したが,国によって準備状況に大きく違いがあった。

海外からの支援物資は,多種多様で輸送にも時間を要すること等から,被災地のニーズが日々変化する中で,マッチングを行うことが困難な場合があった。

救助隊等の海外支援隊等は,当初,被災地における地方公共団体・住民とのコミュニケーション,医療に係る国内法の問題等,国内における行動が難しかった。また,受入れ手続や事故等の補償が未整備であった。

このような状況を踏まえ,海外からの支援受入れの在り方について検討する必要がある。

(被災者支援制度の体系)

「被災者生活再建支援法」に基づく被災者生活再建支援金は,被災者に直接現金が給付される数少ないスキームであり,重要な役割を果たしている旨の意見がある一方,支援が住宅再建に重点がおかれ,真に生活再建に結び付くものとなっていないという意見がある。また,救命救助,生活再建支援及び自立の各段階での支援内容が必ずしも明らかでなく,被災者にとって全体像が分かりにくく,将来の見通しが立ちにくいという意見がある。

「災害救助法」による現物支給の原則やその水準が,現代の生活水準に見合ったものになっていない,避難生活が数か月にも及ぶことに見合ったものになっていないという意見がある。

大規模災害においては,「災害救助法」の救助費用を全額国庫負担とできないか,という意見がある。

支援した地方公共団体は,支援先の被災地方公共団体へ費用の請求を行う制度となっているが,事務手続が被災地方公共団体の負担になっているため,支援した地方公共団体から国へ直接請求できるような制度が有効ではないか,という意見がある。

また,被害認定から支援までの手続がかかり,り災証明の発行,被災者生活再建支援金,災害弔慰金及び義援金の支給が,総じて遅かった。

住家の被害認定に当たっては,被災地方公共団体に大きな事務負担が発生したことや一部にばらつきもみられた。

義援金については,事務を迅速に行うため,日本赤十字社の事務手続及びその事務費を場合によっては義援金から支弁することも含めて検討が必要である。また,義援金の支給基準について検討が必要である。

さらに,義援金の募集団体においては,寄附された義援金の使途や,義援金が寄附金控除を受けられるか等について,被災者や寄附者等へ分かりやすく説明する必要がある。

このような状況を踏まえ,被災者支援制度全体として,真に被災者の自立のために役に立つよう検討する必要がある。

(働く場の確保と産業振興)

経済上の問題のみならず,仕事がないことで気持ちが追い詰められ,閉じこもりやアルコール依存症になる被災者もいることから,気持ちの面でも仕事の確保が必要である。また,雇用者に限らず,自営業者,農林水産業者,中小企業者等についても,早い段階からの仕事の確保が重要である。

雇用確保や産業振興のための支援制度はもとより,早い段階から地方公共団体が使いやすい支援策が必要である。

このような状況を踏まえ,被災者の雇用確保と産業振興の在り方について検討する必要がある。

(復興の制度)

「災害対策基本法」に復興段階の制度的な枠組みがなく,その都度決定されるので時間を要する。

東日本大震災においては,時間の経過とともに変化する重点課題等に対処するため,様々な制度的な特別対策や運用上の改善・柔軟化が逐次図られたが,必ずしも迅速な対応が取れなかった措置もあった。

このような状況を踏まえ,あらかじめ,復興の基本的な枠組みや復興施策の制度化について検討する必要がある。

(災害廃棄物処理)

災害廃棄物は,本来市町村が処理することとされているが,市町村によっては膨大な量の災害廃棄物の処理に時間を要している。

被災地における災害廃棄物の集積場所においては,有機性の廃棄物の発酵や腐敗性のある廃棄物によって,火災,悪臭,害虫等が発生し,周辺住民の生活環境に悪影響を与えた。

このような状況を踏まえ,災害廃棄物処理の在り方について検討する必要がある。

(各主体との協働)

各種の対策本部等の組織に,学校,医療関係者を積極的に参画させる必要がある。

また,被災地では,民間の各主体による活動が有効であった例が多く見られた。企業,ボランティア,NPO・NGO等の多様な活動も考慮した広域応援体制の構築が必要である。

中央防災会議から地方公共団体の長等に対して,資料の提出,意見の開陳その他必要な協力を求めることができることとなっているが,地方から中央への意見提出の仕組みがない。災害対策において実態上大きな役割を担っている市町村等の意見について,防災基本計画等に反映できる仕組みについて検討する必要がある。

(事業継続計画)

被災した民間企業の事業停止が波及し,その産業へ広く影響が生じる例が多かった。

サプライチェーンの途絶,燃料供給の停滞等があったことから,企業の事業継続計画(BCP)の重要性が再確認された。

このような状況を踏まえ,事業継続計画(BCP)の策定及び改善を促進させる必要がある。

(防災ボランティア活動)

防災ボランティア活動の受援側である被災地においては,ニーズの把握・発信が容易にできない等,ボランティアの受入れ体制が速やかに整えられなかった。

一方,支援側である被災地外の各ボランティア団体においては,被災地情報の不足や車両の燃料不足等もあって,その活動方針や連携体制が速やかに整えられなかった。

このような状況を踏まえ,防災ボランティア等の活動に対する支援等について検討する必要がある。

(防犯)

被災地においては,無人となった家屋や店舗を狙った侵入窃盗が増加したほか,全国で義援金名目の詐欺や悪質商法等,大震災に便乗した悪質な犯罪が散見された。

このような状況を踏まえ,災害発生時における防犯対策について検討する必要がある。


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