はじめに


第1部 東日本大震災を踏まえた災害対策

はじめに

今回の白書は,「災害対策基本法」に基づくいわゆる防災白書が昭和38年(1963年)に初めて世に出て50回目の節目を迎えるものである。半世紀前,我が国の災害による犠牲者が1,000人を超える年も少なくなかった。昭和34年(1959年)の伊勢湾台風を契機に,総合的かつ計画的な防災行政の整備及び推進を図るため,「災害対策基本法」が昭和36年(1961年)に制定された。その結果,毎年起こりえるような災害に対しては,災害対策が確立してきた。特に風水害による被害は減少してきた。そして今,私たちは,昨年発生した未曾有の大災害,東日本大震災の教訓を踏まえ,万全の災害対策を進め,「ゆるぎない日本」を構築することが求められている。

(自然豊かな我が国が抱える自然災害の脅威)

我が国は,おおむね温帯に位置し,春夏秋冬の四季を経験でき,豊かな自然に恵まれた風光明媚な国である。一方,四季の様々な自然現象として現れる台風,大雨,大雪等は時として甚大な被害をもたらすことがある。また,我が国は,プレート境界,環太平洋火山帯に位置しており,世界で発生するマグニチュード6以上の地震の発生回数の約2割,世界の活火山の約7%を占めている。同時に,災害をもたらす自然の力は,温泉や美しい風景,豊かな水資源等の恵みももたらしている。

人間の一生の長さと大地震,火山噴火等大災害の発生間隔には隔たりがあり,国民一人一人でみれば災害経験がなく,ややもすると災害に対する警戒心が欠如しやすい面もある。マグニチュード9.0という歴史的にも,世界的にも未曽有の大災害を経験した今,行政,民間及び国民一人一人が改めて災害対策の重要性を認識し,その一層の推進に努める必要がある。

(災害教訓を災害対策強化につなげる努力)

我が国は,災害を経験する度に,それを教訓に,災害対策を強化してきた。「災害対策基本法」の制定以降も,昭和48年(1973年)の桜島噴火を契機として制定された「活動火山周辺地域における避難施設等の整備等に関する法律」(現「活動火山対策特別措置法」),昭和53年(1978年)の宮城県沖地震を契機とする「建築基準法」の改正等により防災体制の充実・強化に取り組んできた結果,平成7年の阪神・淡路大震災までは毎年の自然災害による死者・行方不明者数は数十名から数百名で推移した。このように,防災体制の充実・強化,国土保全の推進等災害対策に取り組んできた成果は表れていた。

しかし,その後,地震に伴う二つの極めて大きな災害が発生した。一つは平成7年の阪神・淡路大震災で,もう一つは平成23年の東日本大震災である。

阪神・淡路大震災は6,400人以上の犠牲者が出た大災害で,特に地震動による建築物の倒壊等の被害が甚大であった。この教訓を踏まえ,「地震防災対策特別措置法」,「建築物の耐震改修に関する法律」,「災害対策基本法」の一部改正等各種法令の制定・改正,防災基本計画の大幅な修正,耐震の強化,初動対応の強化等様々な分野における災害対策の充実・強化が図られた。一方,津波被害は発生しなかったため,津波による災害への教訓は得られなかった。

東日本大震災を経験した今,この未曾有の大災害を検証し,教訓の総括を行ったうえで,災害対策全般を見直す必要がある。

(災害対策基本法制定後の社会環境変化)

「災害対策基本法」が制定された昭和36年(1961年)は,高度経済成長期であり,年齢構成も若者が多く,大都市圏に人口が流入し,都市構造や国土構造にも変化がみられた。その後,半世紀を経て,現在は,経済成長の鈍化,人口が大幅増加したのち人口減少局面へ転換,少子化・高齢化の進展,大都市部への人口・財の集中,地方部の過疎化等の社会環境等が大きく変化している。こうした変化を踏まえ,今後の災害対策を進めていくことが必要である。

図表1 自然災害による被害の推移と人口等の長期変動 図表1 自然災害による被害の推移と人口等の長期変動の図表

昨年の防災白書では,第1部において,東日本大震災について地震・津波被害の概要,応急対策対応及び今後の災害対策の問題意識を中心に記述した。

今年の防災白書では,第1部において,引き続き東日本大震災を取り上げ,現在の復旧・復興状況を報告するとともに,東日本大震災を踏まえた我が国の今後の災害対策の方向性等を提示する。


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