2−3 世界の早期警戒能力の向上



2−3 世界の早期警戒能力の向上

 世界で大規模災害が頻発する中,自然災害に対する早期警戒能力の向上が強く求められている。2004年12月のインド洋における地震津波災害では,インド洋周辺諸国に津波が押し寄せ,合計で約23万人の死者・行方不明者が発生するなど,未曾有の被害がもたらされた。この災害では,インド洋地域に津波早期警戒体制が整備されていなかったことが教訓とされた。このため,津波早期警戒体制の構築に向け,国連防災世界会議で発表されたインド洋災害の「共通の声明」を踏まえ,関係国の主体的な取組とこれを支える様々な国際支援・調整活動が進められている。
 また,自然災害に対する早期警戒は,兵庫行動枠組において,防災に関する優先行動のひとつに位置づけられている。G8グレンイーグルズ・サミットにおいて採択された「インド洋災害へのG8の対応及び災害リスク削減に係る将来の行動」では,自然災害リスクに対する世界的な早期警戒能力の向上への支援の必要性が確認された。
 日本では,古より,地震,津波,火山噴火,台風,豪雨,洪水,土砂災害,豪雪等の多様な災害による甚大な被害を経験してきた。そうした犠牲を教訓に,多様な災害に応じた早期警戒体制を整備してきている。この経験と知識,技術を最大限活用し,世界の早期警戒能力の向上に貢献するため,2005年10月には,政府の関係省庁及び防災関係機関からなる国際防災連絡会議早期警戒部会を設置し,早期警戒分野での国際協力を一層推進する体制を整えた。
 自然災害に対する早期警戒体制が,災害リスクに直面している人々にとって,真に被害軽減に役立つためには,①様々な自然現象のより正確でリアルタイムな観測や科学的なデータ分析に基づく迅速かつ的確な早期警戒情報の発表のみならず,②警戒情報の関係機関での共有や国民への伝達体制の整備,また,③警戒情報に基づいた適時適切な防災行動をとるための防災意識の啓発や防災知識の普及が不可欠である。
(1)インド洋津波早期警戒体制の構築
 1960年のチリ地震津波災害を教訓とした太平洋における津波早期警戒に関する地域協力の経験を活かしつつ,国連は,UNESCOの政府間海洋学委員会(IOC)を中心に,UN/ISDRや世界気象機関(WMO)と連携しつつ,インド洋津波早期警戒体制(IOTWS: Indian Ocean Tsunami Warning and Mitigation System)の構築に向けた国際調整活動を展開している。
 2005年3月(パリ)及び同年4月(モーリシャス)には,インド洋諸国及び日本を含む関係国・機関による国際調整会合を開催し,インド洋地域の自然的,社会的特性に応じた地域協力枠組の構築についての検討を開始した。特に,この地域では,1つの地域センターから関係各国に一元的に情報提供するような津波に関する技術的,社会的な環境整備,ノウハウの蓄積が十分にはなされておらず,まずは各国内の気象部門や防災部門の能力向上が不可欠であること,また,広範囲の地域に遠地津波の被害をもたらす地震の震源域が,スマトラ島沖を含むスンダ海溝と,インドからパキスタン,イランの沖合のマクラン沈み込み帯の2地域に特定されることなどが確認された。こうした地域特性を踏まえつつ,まずは,津波早期警戒に関する各国の現状と課題についての国際的なアセスメントを実施し,その成果を踏まえ,能力向上への支援,地域間の協力枠組のあり方について議論を深めることとなった。
 2005年6月(パリ)のUNESCO/IOC総会ではインド洋津波早期警戒体制の構築のための政府間調整グループ(ICG/IOTWS)が設置され,同年8月には第1回会合(オーストラリア・パース)が,同年12月には第2回会合(インド・ハイデラバード)が開催された。
 インド洋津波早期警戒体制の構築に向け,日本は主に次のような資金的・技術的支援を実施している。
①国連による国際調整活動に対する400万ドルの資金拠出
 国連による国際調整活動及び早期警戒システム構築の促進を図るため,日本は,UN/ISDRやUNESCO/IOC等の活動に対する400万ドルの資金拠出を行った。
②同調整活動に対する技術的ノウハウ・助言等の提供
 国連による様々な調整会合における技術的ノウハウの提供を行うとともに,UNESCO/IOCがUN/ISDRやアジア防災センター等と連携して実施した各国のアセスメントに対し,日本からも専門家が参画し,各国の能力向上に資する技術的な助言を行った。
③国連主催の津波防災研修等への支援及びJICA地域別研修「インド洋津波早期警戒体制構築セミナー」の実施
 国連を中心とした国際調整活動と各国内での津波早期警戒体制の構築を効果的に進めるためには,関係国において津波早期警戒の基本的な知識・ノウハウを普及させ,調整活動のための共通認識を醸成する必要がある。このため,国連主催事業として,津波被災国を含むインド洋周辺諸国や国連関係機関の高官を集めた政策対話(2005年2月)やスタディツアー(2005年7月)を日本で開催し,その中で,日本の津波防災体制のノウハウ・技術の移転を行った。
 また,インド洋周辺諸国の気象や防災の担当官クラスを対象としたJICA地域別研修として,津波に関する基礎知識から,観測,情報伝達,ハザードマップ,教育・訓練等の様々な分野について,関係府省庁及びアジア防災センター等の関係機関が連携した総合的な研修を実施した(第1回(2005年3月),第2回(2006年1〜2月))。
④IOC事務局への津波専門家の派遣
 IOC事務局に新設された全球海洋監視災害警戒オペレーションユニットに,2005年9月末より2年間の予定で気象庁の専門家を派遣した。同専門家はインド洋をはじめとする国際的な津波警戒体制の構築に関する業務を担当している。
⑤スマトラ型巨大地震・津波災害の軽減策に関する調査研究及び「2004年インド洋巨大地震・ 津波国際会議」の開催
 インド洋災害を踏まえ,東京大学地震研究所,独立行政法人防災科学技術研究所,独立行政法人海洋研究開発機構をはじめとする研究機関や気象庁などの行政機関が,アジア地域に有効な地震・津波防災システムを提言することを目的に,スマトラ型巨大地震・津波の発生メカニズムの解明と将来予測,地震・津波に対する防災力向上のための人材育成に関する研究,津波警報システムの有効な活用と津波被害軽減に関する研究などを,国際的な連携のもとに実施している。その一環として,2005年12月に「2004年インド洋巨大地震・津波国際会議」を東京で開催し,日本をはじめインドネシア,インド,マレーシアなどの被災国を含む世界各国の研究者が参加した。
⑥津波監視情報の提供
 インド洋諸国が主体となった本格的な津波早期警戒体制の構築までの暫定的な措置として,我が国の気象庁と米国ハワイの太平洋津波警報センター(PTWC)が協力して,インド洋諸国の要請に基づき,2005年3月末より24時間体制で津波監視情報を提供している。これは,既存の地震・潮位観測網及び通信網を活用し,インド洋でマグニチュード6.5以上の地震が発生した場合に,その発生時刻,震源位置,マグニチュード及びこれらから推定される津波の発生可能性の有無に加え,津波発生のおそれがある場合には,インド洋沿岸を43に分割した沿岸区域へ津波が到達するまでの予想時間を伝えるものである。2006年3月末時点での提供先はインド洋26カ国,発表回数は9回である。
⑦地震観測網の運用
 独立行政法人防災科学技術研究所は,アジア・太平洋地域において,インドネシア,オーストラリア他5ヶ国と協力し,国際的に連携した広帯域地震観測網を展開し,インターネット等を用いて即時的にデータを交換するための技術開発を進めている。このうち,インドネシアでは,2005年度において15箇所の広帯域地震観測点を衛星テレメータ化し,同国の津波早期警戒体制の構築に貢献している。また,気象庁において,このデータの津波監視情報への活用を試験的に進めている。
⑧「稲むらの火」の物語を活用した津波教育教材の提供
 国連防災世界会議で小泉内閣総理大臣が紹介した「稲むらの火」の物語を活用して津波防災教育を推進するため,内閣府は,紙芝居や人形劇等を掲載した英語版CD-Rを作成したほか,アジア防災センターを通じ,インドネシア,スリランカなど,アジア8カ国において,現地NGOと協力し,物語の内容を現地にわかりやすいように翻案した子供向け絵本と大人向け冊子を作成・配布した。これらは,当該NGOによる防災教育等の現場に活用されている。
(2)早期警戒に関する第3回国際会議
  2006年3月27日から29日にかけて,ドイツのボンにおいて,早期警戒に関する第3回国際会議が開催された。本会議は,国連防災世界会議でドイツ政府より開催が表明され, UN/ ISDRの協力を得て開催された。会議では,「概念から行動へ」をテーマとして,多様な災害に関する早期警戒能力の向上のための具体的なプロジェクトの提案,科学技術分野の取組が紹介されるなど,各国や関係機関の防災関係者や研究者等による情報共有が進められ,早期警戒がエンドユーザーである災害リスクに直面している人々の避難行動などの防災活動に効果的に活用されるための体制づくりとそのためのコミュニティレベルの取組の重要性が確認された。我が国からは,政府の国際防災連絡会議早期警戒部会でとりまとめた「日本における早期警戒体制と国際協力の取組」のパンフレットを配布し,各国の取組の参考に供した。また,会議では,クリントン国連津波復興特使が参加し,インド洋における地震津波災害からの復興やインド洋津波早期警戒体制の構築に向けた継続的な支援を呼びかけた。

所在地 〒100-8914 東京都千代田区永田町1-6-1 電話番号 03-5253-2111(大代表)
内閣府政策統括官(防災担当)

Copyright 2017 Disaster Management, Cabinet Office.