2−5 災害応急対策の実施



 2−5 災害応急対策の実施

(1)災害発生時の措置,応急対策
 災害発生時においては,発災直後の情報の収集・連絡,活動体制の確立と並行して,人命の救助・救急,医療,消火等の応急対策活動を迅速かつ的確に講ずることが求められる。
 災害応急対策は,一次的には基礎的な地方公共団体である市町村において災害対策本部を設置して対応することとなるが,災害の状況に応じ,国の機関,地方公共団体,公共機関がそれぞれ相互に緊密な連携のもとに協力して実施することとなる。
 国においては,以下のとおり体制を整備し,災害応急対策を講ずることとしている。
a 情報収集・連絡等体制
 応急対策を講ずるうえで最も重要となる情報収集・連絡体制に関しては,内閣総理大臣官邸の内閣情報集約センターが窓口となり,24時間体制で情報の収集・伝達等の対応に当たることとし,関係省庁における情報の共有化を図っている。
 大規模災害や社会的影響の大きい災害が発生した場合,緊急参集チーム(関係省庁の局長等の幹部)が官邸危機管理センターに緊急参集し,政府としての初動措置に関する情報の集約等を行うこととしている。
 また,内閣府においては,被害規模の早期把握に関して,地震発生直後,概ね30分以内に被害の大まかな規模を把握するための「地震被害早期評価システム(EES)」を整備し稼働させている。一方,被害規模の早期把握のため,各省庁はそれぞれの立場において現地の関係者からの情報を集約するほか,警察庁,防衛庁,消防庁,海上保安庁においては,一定規模以上の地震の場合における航空機,船舶等を活用した情報収集体制の整備を行っている。
 さらに,被災地のより詳しい状況把握と的確な災害応急対策を講ずるため,状況により,防災担当大臣又は内閣府副大臣を団長とし,関係省庁の要員で構成する政府調査団を派遣することとしている(緊急災害対策本部が設置されている場合等は,内閣総理大臣が団長となることがある)。
b 災害応急対策の広域活動体制
 地方公共団体の対応能力を超えるような大規模災害の場合,警察,消防,自衛隊及び海上保安庁の実働部隊を広域的に派遣し,災害応急対策活動を行う。
 警察庁及び都道府県警察においては,都道府県の枠を越えた広域的な災害対策の専門部隊として,警察広域緊急援助隊(規模:約4,700人(警備部隊約2,600人,交通部隊約1,500人,刑事部隊約600人))を確立している。警察広域緊急援助隊については,平成18年3月,新たに刑事部隊を設置し,遺族等への安否情報の提供や迅速的確な検視等を実施できるよう体制を整備した。
 消防庁においては,全国から高度な資機材を装備した消防隊が,大規模な災害に出動し効果的な消防応援活動を行うため,全国の消防機関による緊急消防援助隊(規模:3,397部隊約1万9千人)が登録され,広域的な派遣体制を確立している。
 また,防衛庁・自衛隊においては,都道府県知事等の要請に基づく災害派遣により,救出・救助等の災害応急対策活動を行うこととしている。
  なお,平成16年度の自衛隊の災害派遣は884件に上り(救急患者の搬送件数も含む。),延べ約16万2千人の人員が派遣された。
 これらの機関の職員の総数は,以下のとおりである( 表2−2−2 ) 。
c 広域医療搬送
(a)広域医療搬送の目的と概要
 重傷者のうち,被災地内での治療が困難であって,被災地外の医療施設において緊急に手術や処置などを行うことにより,生命・機能予後の改善が十分期待され,かつ搬送中に生命の危険の少ない病態の患者を,被災地外の医療施設まで迅速に搬送し治療することを目的としている。
 広域医療搬送は,①地震発生後速やかに広域医療搬送活動に従事する災害派遣医療チーム(DMAT)等が被災地外の拠点に参集し,航空機等により被災地内の広域搬送拠点へ移動,②被災地内の広域搬送拠点へ派遣された災害派遣医療チーム(DMAT)等は,拠点内に患者を一時収容する広域搬送拠点臨時医療施設(SCU)の設置を補助するとともに,一部は被災地の都道府県が調整したヘリコプター等で被災地内の災害拠点病院等へ移動し,広域医療搬送対象患者を選出し,被災地内の災害拠点病院から被災地内広域搬送拠点まで搬送,③搬送した患者を広域搬送拠点臨時医療施設(SCU)へ収容し,広域搬送の順位を決定するための再トリアージ及び必要な追加医療処置を実施,④搬送順位にしたがって,広域搬送用自衛隊機で被災地外の広域搬送拠点へ搬送し,広域搬送拠点から救急車等により被災地外の医療施設へ搬送して治療するという流れになっている。


 災害派遣医療チーム(DMAT) とは,災害現場で救命措置等に対応できる機動性を備え,専門 的なトレーニングを受けた医療チーム(医師,看護師,業務調整員)のことで,Disaster Medical Assistance Team の略である。
 平成16 年度末から,国立病院機構災害医療センター(立川市)で研修を行っており,平成18 年 4月19 日現在116 チーム(1チーム5名)の研修が終了している。
 
(b)広域医療搬送計画
 広域医療搬送は,関係省庁,地方公共団体,災害拠点病院などが緊密に連携して実施する必要があるため,大規模災害発生後,速やかに実施できるよう,事前計画を策定している。
 広域医療搬送活動に従事する救護班などの派遣を含めた事前計画としては,平成16年6月29日に策定した「東海地震応急対策活動要領」に基づく具体的な活動内容に係る計画が最初であり,この計画において,広域搬送拠点,派遣する救護班の規模と参集場所,広域搬送目標患者数,患者搬送先などを設定している。首都直下地震,東南海・南海地震などについても,それぞれの応急対策活動要領の策定に併せ,事前計画を策定することとしている。
 また,広域医療搬送の体制などに関する検討を関係省庁などが連携して行っており,その結果は図上訓練,総合防災訓練などを活用して検証し,改善などに努めている。

 


d 災害対策本部の設置
 災害の規模その他の状況により,国が災害応急対策を推進するため特別の必要があると認めるときは,災害対策基本法第24条第1項の規定に基づき,防災担当大臣を本部長とする「非常災害対策本部」を,また,著しく異常かつ激甚な非常災害が発生した場合においては,同法第28条の2第1項の規定に基づき,内閣総理大臣を本部長とし,全閣僚等を本部員とする「緊急災害対策本部」を内閣府に設置することとしている。
 非常災害対策本部又は緊急災害対策本部は,政府の災害対策本部と被災地方公共団体との連絡調整等を行い,災害応急対策の円滑な実施の支援・協力を行う。
 このため,必要に応じ,被災地等に内閣府副大臣を本部長とする現地災害対策本部を設置し,迅速な災害応急対策を講ずることとしている。
 なお,過去10年間における国の非常災害対策本部等の設置状況は 表2−2−3 のとおりである。平成18年4月1日現在において,災害対策基本法に基づく非常災害対策本部は,「平成16年(2004年)台風第23号非常災害対策本部」と「平成16年(2004年)新潟県中越地震非常災害対策本部」が設置されている。
e 大規模災害発生時における国の被災地応急支援のあり方検討会
 大規模災害においては,国が現地対策本部,現地支援対策室等の現地組織を被災地に立ち上げ,国,都道府県,市町村等を中心に関係機関等が連携しつつ,災害応急対策を進めていくことが重要となっている。
 そのため,有識者からなる検討会を立ち上げ,学識経験者,関係省庁,地方公共団体等の様々な関係者等とともに,平成12年3月に発生した有珠山噴火や平成16年10月の新潟県中越地震等の現地組織を立ち上げて災害対応を進めた事例等も踏まえながら検討を進めた。そして,平成18年3月,大規模災害時における国の現地組織の意義を明らかにし,現地組織の意義を十分に発揮させるための取組の方向性を盛り込んだ報告書をとりまとめた。本報告書では,①総合的かつスピーディーな現地組織の設置,②国の現地組織の運営能率の向上,③支援物資に関する広報活動と被災地支援の迅速化,④人材の育成などが重要であるとされている。
 これらの検討成果については,策定後直ちに地方公共団体等へ通知し,国及び地方公共団体は,本報告書を基に,今後さらに被災地方公共団体の災害対策本部の運営支援について検討を深めるとともに,人材の育成を着実に進め,将来の大規模災害時における連携方策の向上に引き続き取り組んでいくこととしている。
(2)防災に関する人材の育成・活用について
 災害発生時に迅速・的確な対応ができるかどうかは,災害対応に携わる人材に依るところが大きい。特に,国,地方公共団体の防災担当職員は,災害発生時においては,想定外の事態へも即座に対処する能力や,様々な関係機関との調整・連携能力等,平常時と異なる状況下での対応が求められる。
 このような防災に関する人材の育成・活用方策全般について調査審議するため,平成14年7月,中央防災会議に「防災に関する人材の育成・活用専門調査会」が設けられ,検討が行われた(平成15年5月に報告取りまとめ)。
 上記専門調査会の報告を受け,内閣府では,平成15年度から,各省庁の防災担当職員を対象とした合同研修を実施し,平成17年度は,平成17年12月5日から6日までの2日間,都内において,16省庁等から48名が参加して行われた。
○平成17年度防災担当職員合同研修
【目的等】
 各省庁の防災担当職員を対象とした集合研修を行うことにより,災害への対応能力の向上を図るとともに,政府全体として施策に取り組めるよう,研修員相互の理解と信頼を促進することを目的とし実施した。
 対象者としては,大規模災害発生時に政府本部(非常災害対策本部,緊急災害対策本部)の事務局要員として災害応急対策活動に当たることが見込まれる各省庁の課長補佐以下クラスの防災担当職員とした。
【内容】
 災害発生時に災害応急対策に従事する職員に求められる,多種多様な災害及びその応急対策等についての知識を習得し,災害発生時に必要なさまざまな機関との調整業務や即断即決を求められる事態への対処能力の養成に重点をおいた。
 また,地方公共団体の防災担当職員・消防職団員や地域の防災リーダー等に対しては,消防大学校や都道府県等において研修等が実施されているが,さらに,平成15年度からは消防庁において,地方公共団体の首長等幹部職員に必要な災害対応能力の強化を図るための消防大学校における「危機管理セミナー」や,住民や地方公共団体の防災担当職員に対する防災に関する体系的な知識等の修得機会を増大させるためのe−ラーニング教材の作成によるインターネットを活用した防災・危機管理教育を実施している。
 さらに,平成17年度から大規模災害を想定した図上型防災訓練の実施を通して,市町村長等のリーダーシップによる的確な意思決定と応急体制の点検,住民と行政との信頼関係に基づく地域の防災力の強化を図ることを目的とした,防災危機管理ブロック・ラボを全国3ブロックに分け実施している。

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内閣府政策統括官(防災担当)

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