4 民間と市場の力を活かした防災力向上
(1)検討着手の経緯
平成14年4月の中央防災会議において,会長である小泉内閣総理大臣から,災害対策の分野においても市場のスピードを活かした民間の知恵と力を活かしていくことが重要であるとの趣旨の発言がなされ,これを受けて,内閣府は,平成14年12月に防災担当大臣主宰による「企業と防災に関する検討会議」を設置し,翌年4月にその報告書である「企業と防災〜課題と方向性〜」を取りまとめた。
一方,日本経団連が設置した「防災に関する特別懇談会」は,平成15年7月に「災害に強い社会の構築に向けて」を公表し,災害に強い社会をつくるため,企業が社内的に取り組むべきことに加え,地域の防災力強化のために企業が地域や社会に対する貢献の一環として行うべきこと,さらに,防災行政のあり方,企業とNPOの協力について提言を行った。
また,これらを踏まえ,内閣府と日本経団連の共催で「企業と防災に関するシンポジウム」(平成15年7月29日)が開催され,上記の2つの会議・懇談会の報告や提言内容を幅広く周知し,企業と防災に関する諸課題を中心に今後の検討のあり方が議論された。
(2)「民間と市場の力を活かした防災力向上に関する専門調査会」の設置
同専門調査会では,2つの分科会,すなわち,NPO,地域住民などが連携し活動することにより地域の防災力を向上する施策を検討する「防災まちづくり分科会」と,企業の取組みを推進し市場の力による防災力向上を図るための施策を検討する「市場・防災社会システム分科会」を設けて議論を進め,平成16年10月に次の提言をとりまとめた。
(3)「民間と市場の力を活かした防災戦略の基本的提言」の内容
この提言では,冒頭,次のような国民へのメッセージを記している。
○ 地震などの大災害に備えるためには,自助,共助,公助の適切な連携・組合せが必要。防災は,行政はもちろん,社会の構成員が全員で取り組むべき課題である。
○ これまで自治会,商店街,PTAや各種NPOなどがどのように連携して地域の力を発揮するかについてあまり議論されてこなかった。また,日頃からいかに準備をして災害に強い社会を作るのかという議論より,災害発生後の行政の危機管理やボランティアなどの議論に集中しがちであった。
○ 社会の防災力を高める上で,可能な限り平時の社会システムの一部として防災を定着させていくことが重要である。
○ 災害は,それを迎え撃つ社会のあり方によって態様が大きく変わってくる。また,私たちの社会が災害にどう立ち向かおうとしているかという姿勢を諸外国に示すことが,国際的な信頼を得る意味からも重要である。
b 基本的提言の構成
同提言の構成は,次のとおりである。
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(基本的提言本文は下記ホームページ参照)
http://www.bousai.go.jp./pdf/kihonteigen.pdf (PDF形式:1.3MB)
c 「おわりに」
また,同提言の「おわりに」では,次のように述べられている。
○ 民間と市場に係る防災分野でも政府による「公助」の役割が大きいことは,委員共通の認識である。
〇 本提言であげた具体の方策のうち幾つかでもすぐに取り組まれ,実現されることが大事であり,かつ,誰が主体となり何から取り組むかがしっかり判断されるべきだと考える。
〇 企業,地域の諸団体,NPO等も,国や地方自治体が主導する防災対策を受身として実施するのではなく,主体的に対策を講じることが必要であると考える。
〇 政府側には,具体の支援策の実施や明確な方向づけのほか,大目標だけでなく中目標,小目標とできるだけ分かりやすい目標を作り,民間側の各主体が取り組みやすくすることを期待する。また,行政の縦割りを排すべきことについて改めてここで指摘し,各部局の相互協力の必要性を強調する。
〇 本専門調査会は1年間程度継続し,外部の有識者を加えたワーキンググループも設置し,幅広い議論を続けていく。
a 企業における防災の取組みの推進
まず,概念整理をすると,次のとおりである。
従来の企業の防災の取組みは, 図3−4−1 の下側のコスト要因に該当するものが中心であったと考えられるが,今後は, 図3−4−1 の上側の収益要因(あるいは積極的な評価要因)についても取組みを進めるべきである。すなわち,「防災(減災)ビジネス」の市場が十分育ち,「業務継続計画」(後述)や「リスク軽減投資」の取組みが十分に行われることが必要であり,かつ,そうした取組みを行う企業が適切に市場や地域社会において評価されることが望まれる。
b 企業と市場の力をよりよく発揮させるための方策
(a)企業の業務継続の支援
業務継続計画(BCP:Business Continuity Plan)」とは,バックアップシステムの整備,バックアップオフィスの確保,要員の確保,安否確認の迅速化などにより,災害時に事業活動が中断した場合に可能な限り短期間で重要な機能を再開させ,業務中断に伴う顧客取引の競合他社への流出,マーケットシェアの低下,企業評価の低下などから企業を守るための経営戦略である。
BCPを策定することの重要性は,同時多発テロ以降つとに指摘されている。しかし,わが国企業は,米国企業と比べ,導入している企業の割合が低い(KPMGビジネスアシュアランス(株)によれば,平成15年のアメリカの主要企業ではBCP策定済み企業が56%,策定中が28%であるのに対し,平成16年においても日本の大企業では策定済みが22%,策定中が23%)。
したがって,業務継続計画導入のためのガイドラインを官民連携して早急に策定する等により,企業の業務継続を支援すべきである( 図3−4−2 )。
(b)企業の地域貢献等の「民間の力」の活用方策
災害発生時における地域貢献は,企業にとってコストの要因と認識されがちである。したがって,地域にとって必要な企業の貢献は,地域防災計画や協定により地方公共団体との位置づけを行い,企業の一方的な負担とならないように工夫することが必要である。
また,災害時の企業の取組み(例:生活必需品供給業務等の円滑な継続)に関し,何らかの規制等が障害になっていないかどうか,政府として現状の把握が必要である。
(c)ビジネスとしての防災対策促進
防災ビジネス市場を育成していくため,耐震性に優れた建築物,防災性能が高い商品・サービスを開発し提供する企業の情報などを広く社会に伝える仕組みの構築等,防災ビジネス市場の育成方策を政府も民間とともに検討していくべきである。
(5)企業評価・業務継続ワーキンググループの取組み
a 事業(業務)継続ガイドライン
企業は,災害や事故で被害を受けても,取引先等の利害関係者から,重要業務が中断しないこと,中断しても可能な限り短い期間で再開することが望まれている。企業自らにとっても,重要業務中断に伴う顧客の他社への流出,マーケットシェアの低下,企業評価の低下などから企業を守る必要がある。
この事業継続(または業務継続)の取組みは,事業内容や企業規模に応じたものでよく,多額の出費を伴わずとも一定の対応は可能なことから,すべての企業に相応した取組みが望まれる。
ワーキンググループでは,企業の事業継続の取組みが,従来の防災対策と異なる以下の特徴を持っていることを認識しつつ,ガイドラインの検討を進めている。
b 企業と市場の力をよりよく発揮させるための方策
[1] 災害後に活用できる資源に制限があると認識し,継続すべき重要業務を絞り込む。
[2] 各重要業務の担当ごとに,どのような被害が生じるとその重要業務の継続が危うくなるかを抽出して検討を進める。結果としてあらゆる災害が想定される。
[3] 重要業務の継続に不可欠で,再調達や復旧に時間や手間がかかり,復旧の制約となりかねない重要な要素(ボトルネック)を洗い出し,重点的に対処する。
[4] 重要業務の復旧目標時間を設定し,その達成に向け知恵を結集し事前準備をする。
[5] 緊急時の経営や意思決定,管理などのマネジメント手法の1つに位置づけられ,指揮命令系統の維持,情報の発信・共有,災害時の経営判断の重要性など,危機管理や緊急時対応の要素を含んでいる。
b 企業の防災の取組みの評価
企業の防災活動の促進には,防災活動に積極的に取り組んでいる企業が市場や地域社会から適切に評価されることが必要である。そこで,客観性のある評価手法の構築が求められるが,ワーキンググループでは,評価手法の検討を次のような考え方に沿って行っている。
[1] 防災力向上を目指す企業が自己評価するための指標として使えるものとするほか,企業が自らの防災力を市場やステークホルダーにアピールまたは証明する際に使えるものとする。
[2] 災害時における地域との協力という観点も入れ,被災地への支援活動,地元の自治体との災害協定なども評価に加える。
[3] 評価項目については企業経営に即したものとする必要があるため,企業における事例やアイディア,過去の災害事例などを踏まえたものとする。
[4] 評価については,事業継続ガイドラインの考え方と統一感がとれたものとし,業種や企業形態,企業規模による違いも考慮する。