1−5 防災情報体制



1−5 防災情報体制

(1)防災情報の共有化に関する専門調査会等における防災情報分野の施策
 防災に関する情報は,平常時,災害時を問わずあらゆる防災活動の基礎であり,その共有化は防災協働社会の前提条件となる。
 また,各種行政機関の防災情報システムの有機的な連携のあり方等を明確化したグランドデザインである行政内部における情報共有化の総合的な推進方策については,我が国を「世界最先端のIT国家」とすることを目標と掲げる「e−Japan戦略」として,政府が実施すべき毎年度の計画である「e−Japan重点計画2002」(平成14年6月18日)においても,2002年度の早期に作成することを求められたところである。
 このため,平成14年10月,中央防災会議の下に「防災情報の共有化に関する専門調査会」を設置し,防災情報共有化のあり方について審議を行い,平成15年3月18日,中央防災会議において「防災情報システム整備の基本方針」を決定した。
 その後,防災関係機関における情報共有化に加え,行政と住民,住民等同士の間における防災情報の共有,科学的防災情報の提供についても審議を重ね,平成15年7月16日,「防災情報の共有化に関する専門調査会報告」をとりまとめた。
 また,「e−Japan重点計画2004」(平成16年6月15日)において,加速化5分野の1つ及び重点政策5分野の1つとして,防災分野の情報化が掲げられた。
 これらに基づき,防災情報共有プラットフォームの構築,情報収集体制の高度化,信頼性の高い通信体系の整備と高度化などの施策を推進している。
(2)主な防災情報関連施策
  防災情報共有プラットフォームは,防災機関が横断的に共有すべき防災情報の形式を標準化し,国,地方公共団体等の各機関や,住民等の情報を共通のシステムに集約し,その情報にいずれからもアクセスし,入手することが可能な共通基盤である(図2−1−2 ,図2−1−3 )。内閣府は,国の防災関係機関との防災情報の共有を行うプラットフォームを平成17年度までに構築する。

防災情報共有プラットホームの構築
防災情報共有プラットホームのイメージ(緊急輸送ルート選定支援の例)
 防災情報共有プラットフォームの整備等により,被災の全体像を即座に把握するコンピューター推計情報と人工衛星や航空機による観測情報や官民を問わず各機関が保有する情報を組み合わせ,災害時の被災全体像の迅速な把握が可能になる。また,災害現場における被災情報や各機関の活動情報を共通の地図情報として,横断的なわかりやすい形で共有することが可能になる。このような情報の共有の実現により,防災関係機関の情報の集約や伝達に係る労力を省力化するとともに,物資調達,緊急輸送ルート確保,医療搬送,救助などの基幹オペレーションの効率的な実施が可能となり,大規模災害に対する災害対応能力の向上につながる。
 住民等との情報の共有にあたっては,インターネット上で様々な防災情報の窓口を集約した防災情報ポータルサイトの設置や防災情報共有プラットフォームを通じたマスメディアへの情報提供と連携などを進め,国民の誰もが必要な防災情報に容易にアクセスできる環境の整備を進める。
 夜間や悪天候などの悪条件下においても確実に情報を収集するための情報収集体制の高度化として,人工衛星や航空機等の画像情報の活用や官民を問わず様々な施設管理情報や位置情報を活用して被災の全体像を迅速・確実に把握する技術の開発,これらの高度な防災情報システムを支える信頼性の高い大容量データ通信体系の整備や通信回線の高度化等の施策を推進し,ITを活用した高度な防災情報体制を構築することとしている。

(3)情報・通信体制の整備
a 情報収集・伝達システム
 a 情報収集・伝達システム
   大規模な災害が発生した際,政府として迅速な災害応急対策がとれるよう,気象庁からの地震・津波情報,関係省庁等からのヘリコプターによる被災映像,指定公共機関,地方自治体,その他防災関係機関からの被害情報など,災害に関する情報を総合的に収集し被害規模を把握するとともに,これらの情報を直ちに総理大臣官邸,指定行政機関等へ伝達するためのシステム整備が進められている。
   気象庁は全国約600地点に震度計と180地点に津波地震観測施設を設置してオンラインで地震の観測データを収集し,地震活動等総合監視システム(EPOS),地震津波監視システム(ETOS)により処理・解析して,地震・津波情報を発表している。
   また,消防庁が全国約3,400地点に設置した地震計から観測される震度情報を消防庁本庁へ即時送信する「震度情報ネットワークシステム」を整備して情報収集している。一方,独立行政法人防災科学技術研究所が全国約1,000ヶ所に強震計を設置し,地震情報を通信ネットワークで収集・配信するための設備の整備が図られており,地震発生時の初動対応等に活用されている。
   雨量・積雪等の情報については,気象庁が局地的な気象情報の観測を行う地域気象観測システム(AMeDAS)や,衛星を利用して雲の分布・高度などを観測する静止気象衛星を活用して観測データを収集し,気象資料総合処理システム(COSMETS)により解析,予測等が加えられている。
   気象庁で処理・解析により作成された情報は,気象庁本庁に設置された全国中枢気象資料自動編集中継装置(C-ADESS)を介して内閣府,防衛庁,消防庁,海上保安庁等の中央府省庁に,また,各管区気象台等に整備されている気象資料伝送網(L-ADESS)を介して,国土交通省地方整備局及び地方公共団体に伝達されている。
   また,国土交通省が,一級河川等を対象として,雨量・水位テレメータ及びレーダ雨量計並びに情報処理設備からなる河川情報システムを整備して雨量・水位の情報を収集している。
b 災害対策用の無線通信ネットワーク
    防災関係機関では,災害時の有効な通信手段として各機関毎に専用の無線通信網を整備している。これらの無線通信網のうち専ら災害対策に用いられる無線通信ネットワークとしては,中央防災無線網,消防防災無線網,都道府県防災行政無線網,市町村防災行政無線網,防災相互通信用無線等がある。その概要は次のとおりである(図2−1−4 )。

防災関係通信網の概念図
(a)中央防災無線網
 中央防災無線網は,大規模な災害が発生して電気通信事業用の回線が途絶したり,電話の殺到により通信回線が輻輳したりして,その利用が著しく困難な事態に陥った場合においても,非常災害対策本部,総理大臣官邸,指定行政機関,指定公共機関等との間で災害情報の収集・伝達が行えるようにすることを目的として整備している。この防災無線網は,大別して固定通信回線(画像伝送回線を含む。),衛星通信回線,移動通信回線から構成されている(図2−1−5 )。

    防災関係通信網の概念図
[1] 固定通信回線
 固定通信回線は内閣府からの一斉指令をはじめ,電話,ファクシミリ,災害映像,地震防災情報システム等,各種防災情報を中継・伝送する基幹的な通信回線であり,指定行政機関22機関,総理大臣官邸等の政府関係機関5機関,指定公共機関18機関及び立川広域防災基地内の関係機関11機関を結んでいる。
  また,国土交通省の専用回線と相互接続し,都道府県の災害対策本部と総理大臣官邸及び国の災害対策本部を含む防災関係省庁との間で直接連絡がとれるように通信体制を確立している。
[2] 衛星通信回線
 内閣府から遠隔地にあるため,直接固定通信回線を結ぶことが困難な指定公共機関等41機関との間については衛星を利用した通信回線で結んでいる。
  また,首都直下の大規模な地震により,中央防災無線網を支える庁舎等が損壊して,固定通信回線が使用できなくなった場合のバックアップとして,総理大臣官邸をはじめ内閣府等の指定行政機関,都下に所在する指定公共機関等の46機関に可搬型の衛星通信装置を配備している。
  さらに,国の災害対策本部と現地災害対策本部との間で,迅速に通信回線が確保できるよう全国9拠点にあらかじめ可搬型の衛星通信装置を配備している。緊急時には,これを設置することで衛星による通信回線が確保される。
[3] 移動通信回線
 移動通信回線は,移動時あるいは未就業時においても,災害対策要員等との間で連絡することができるように整備しているもので,都内4箇所に基地局を設置し車両,災害対策要員等の自宅等に無線電話装置を配備して通信の確保を図っている。
(b)消防防災無線網
 消防庁と都道府県との間を結ぶ無線網で,地上系及び衛星系で構成されている(図2−1−6 )。

消防防災無線網概念図
[1] 地上系
 国土交通省の無線設備と設備を共用して通信回線を確保しており,消防庁から全都道府県に対し電話,ファクシミリによる一斉伝達を行うほか,災害情報の収集・伝達に活用されている。
[2] 衛星系(地域衛星通信ネットワーク)
 地域衛星通信ネットワークを利用して消防庁と全国44都道府県の間を結んでいる。
  地域衛星通信ネットワークは,通信衛星を利用して消防庁及び全国の地方公共団体等(平成16年9月末現在,都道府県等:890,市町村:2,811,消防:562)を相互に結ぶ通信網で,通常の音声通信のほか,一斉伝達,データ通信,映像伝送等が可能で地上系の補完する無線通信網として位置づけられている。
(c)都道府県防災行政無線網
 都道府県とその出先機関,市町村,防災関係機関等との間を結ぶ無線通信網で,地域防災計画に基づき災害情報の収集・伝達を行うために,固定通信網を中心とする地上系,地域衛星通信ネットワークによる衛星系又は両方式により構成されている(図2−1−7 )。
  平成16年10月の新潟県中越地震では無線設備の非常用電源が使用できない事例があり,その対策が課題となっている。

都道府県防災行政無線網系統図
 
(d)市町村防災行政無線網
 市町村が災害情報を収集し,また,地域住民に対し災害情報を周知するために整備している無線通信網で,市町村庁舎と屋外拡声子局や家庭内の戸別受信機を結ぶ同報系,市町村庁舎(基地局)と車載型・可搬型の無線電話装置又は無線電話装置相互間で運用される移動系及び市町村庁舎,学校,病院等の防災関係機関・生活関連機関をネットワークする地域防災系から構成されている(図2−1−8 )。
  平成16年7月の新潟・福島豪雨では,同報無線など住民の避難情報の伝達手段の必要性が再認識された。  

市町村防災行政無線網概念図
 平成15年9月に発生した十勝沖地震災害において,同報無線により地域の住民に的確な避難情報等を提供し,人的被害の発生防止に効果をあげている。
(e)防災相互通信用無線
 地震災害,コンビナート災害等の大規模災害に備え,災害現場において警察庁,消防庁,国土交通省,海上保安庁等の各防災関係機関との間で,被害情報等を迅速に交換し,防災活動を円滑に進めることを目的とした無線通信であり,国,地方公共団体,電力会社,鉄道会社等に導入されている。
(f)その他
 総務省においては,地方公共団体等における被害情報の収集や災害応急対策の実施に必要な通信手段の不足に備え,全国の総合通信局等に衛星携帯電話,携帯電話,簡易無線等の無線設備を配備し,要請に応じ貸与できる体制を整備している。
c 映像情報の活用
 ヘリコプター等による災害現地の映像情報は,災害の全容を的確に把握する上で極めて有効であることから,ヘリコプター映像伝送設備等の整備を進める警察庁,防衛庁,消防庁,国土交通省及び海上保安庁の協力を得て,ヘリコプター災害映像を全国のどこからでも内閣府に伝送できる映像伝送システムの充実・強化を図っている。
  さらに,送られてきた現地災害映像情報を総理大臣官邸及び各省庁に配信するための映像伝送回線を整備するとともに,あわせて被害箇所を適切に特定できるようにヘリコプターの位置情報を集配信するためのヘリコプター位置情報システムを導入している。
平成16年7月の梅雨前線豪雨災害や10月の台風第23号など7月から10月にかけての台風災害及び10月の新潟県中越地震災害においては,ヘリコプターによる河川の氾濫や民家の被害状況の映像を総理大臣官邸・関係省庁等に配信し,災害対策活動に活用された。
d 放送による情報伝達
 災害情報を住民に周知するためには,防災無線網のほか放送の活用が有効であることから,日本放送協会及び一般放送事業者との間で災害時における放送要請に関する協定を結び,災害対応に関する協力体制を築いている。
e 安否確認の情報伝達
 災害が発生したときは,多くの人が家族や知人の安否を確認するが,迅速な安否情報の提供はその後の救援活動,復旧活動を円滑に進める上で極めて重要となる。こういった要請に応えるものとして「災害用伝言ダイヤル」サービスや「災害用伝言板サービス」が提供されている。

COLUMN   災害用伝言ダイヤル,災害用伝言板サービス
 地震などの災害時には,安否確認等のための通話が被災地域に集中し電話がかかりにくい状況(「ふく輳」という)になる。これを軽減し,かつ,円滑に被災者の安否情報を提供できるように導入されたのが災害用伝言ダイヤルである。これは「171番」の番号でサービスされており,ガイダンスにしたがって音声メッセージを録音しておくと,それを家族などが「171番」をダイヤルすることで聞くことができるようになっている。このサービスでは被災地から離れた地域の設備を使ってメッセージを録音・再生することから,被災地の電話の利用を減らすことができ,より多くの方が円滑に安否確認を行うのに役立つ。
  このサービスは,ほとんどの固定電話,携帯電話からも利用することができる。
一方,災害用伝言板サービスは携帯電話のインターネット接続サービスを利用してテキストメッセージの安否情報を登録・閲覧するもので,伝言板にメッセージを登録しそれを他の人に閲覧させることで安否確認を行うものである。
  安否情報の閲覧は,携帯電話のほかインターネットが利用できるPC等からも行うことができる。

災害用伝言ダイヤル(171)の概要

災害用伝言ダイヤル,災害用伝言板サービス(その1)

携帯インターネットによる災害用伝言板サービスの概要

災害用伝言ダイヤル,災害用伝言板サービス(その2)

 
f 情報・通信体制の整備に係る今後の課題等
 阪神・淡路大震災及び新潟県中越地震等の教訓を踏まえ,各防災関係機関においては,大地震に耐え得るよう通信施設の耐震・免震対策,商用電源の停電等に備えた非常用電源の確保,通信回線の多ルート化及び映像伝送等の機能拡充などを一層推進するとともに,最近のIT技術を導入することにより無線通信回線等の広帯域化,大容量化を図る。
また,各防災関係機関の通信網相互の連携,防災情報の共有化・標準化の推進,中央防災無線網を使用した災害映像の効果的な活用のために,各省庁との一層の連携と運用方法・活用の周知の徹底及びこれに基づく訓練の実施等を強力に行う必要がある。
一方,中央防災会議で東海地震応急対策活動要領が策定されたことから,警戒宣言の発出時に,早急に国の現地警戒本部を立ち上げるために,十分な通信回線を確保することが急務の課題となっている。


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内閣府政策統括官(防災担当)

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