3−6 経済被害の軽減に向けた企業防災の役割



3−6 経済被害の軽減に向けた企業防災の役割

 災害による被害を軽減するには,企業の防災に関する取組みも不可欠である。 災害時に企業が自らの事業の継続を確保することはもちろん,被災地の雇用やサプライチェーンを確保するなど地域の経済社会の被害を軽減する上でも, 「災害に強い企業」であることが望まれる。   
 しかしながら,企業による防災の取組みの評価がいまだ十分明確になっていないこともあり, 企業が率先して取り組むインセンティブがうまく働かない面があるとみられる。 このため,官民が共同して,積極的に防災に取り組む企業が適切に市場や地域社会において評価される環境整備を推進する必要がある。 
(1)企業の業務継続の確保のための戦略的取組み
 中央防災会議に設置された「民間と市場の力を活かした防災力向上に関する専門調査会」が昨年10月にまとめた基本提言においては,企業の災害時業務継続計画(Business Continuity Plan; BCP)の策定を支援するためのガイドラインの作成や,企業の防災対応が投資家から評価される仕組みの構築等の具体的な方策の実現を目指すことが示された。さらに,同専門調査会は,これら提言の具体化に向けた検討を進めるためにワーキンググループを設置し,業務継続及び企業の活動評価に関する検討を進めている。
 企業の業務継続の取組みは,本質的には,災害時に可能な限り重要な業務を継続させ,早期に操業レベルを回復し,中断に伴う顧客取引の競合他社への流出,マーケットシェアの低下,企業評価の低下などから企業を守るための経営戦略であり,バックアップのシステムやオフィスの確保,即応した要員の確保などが典型である。
 企業が計画的・組織的に災害への備えを行っていることが取引先の企業や市場から徐々に高く評価されてきている中で,業務継続の取組みは,企業価値を高める観点から,欧米において先行して進められている。経済の国際化が進む中,我が国においても,業務継続を重視した事前の備えを充実する取組みの促進が急がれる。
 地震防災戦略でも,経済被害の軽減策として,10年後までに,大企業でほぼすべて,中堅企業において過半がBCPを策定することを目指すという具体目標を掲げている。

業務継続計画の概念

 一方,広域的な自然災害被害を受けやすい我が国企業の災害対応については,地域と強調した取組みを加味することが求められることにも留意する必要がある。また,災害時の顧客や従業員の安全確保,二次災害の防止は企業にとって最優先の課題であり,これを含め,一歩進めた事前の備えが進められるよう,社会の認識と環境整備を進める必要がある。

(2)首都直下地震による経済的中枢機能の被害軽減
 業務継続の取組みとして,特に緊急的に進めなければならないのは,国家予算の約1.4倍に及ぶ約112兆円もの経済被害が想定される首都直下地震への対応である。首都に高度に集積する経済的中枢機能が被災した場合には,地震により直接的な被害が及ぶ地域のみならず,全国,海外へと広域に影響が波及するおそれがあることから,我が国の安全への信頼性を高めるためにも,その影響を最小限に食い止める取組みを官民挙げて実践していかなければならない。
 相当の間接的被害が見込まれる経済被害を軽減するには,企業自らの防災力の確保に負うところが大きい。中枢機能のバックアップやライフライン系統の多重化など備えの充実が期待されるところであり,企業の側での地震防災戦略となるBCPの策定促進は喫緊の課題である。
 今後,公表された被害想定に基づく首都直下地震の対策大綱や地震防災戦略の策定を進めることとしているが,中枢機能の業務継続を最優先課題の一つとして取り組んでいく必要があり,国としても,BCP策定を支援するガイドラインの作成・周知や企業の防災への投資を積極的に評価する仕組みの検討を通じて,企業の自発的な取組みと一体となった対策を講じていく必要がある。


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