1−5 防災情報体制



1−5 防災情報体制

(1)e−Japan重点計画における防災分野の施策
 世界規模で生じている情報通信技術(IT)による産業・社会構造の変革の恩恵を全ての国民が享受でき,かつ国際的に競争力ある高度情報通信ネットワーク社会を形成するため,政府は平成13年3月29日に,迅速かつ重点的に実施すべき施策を明らかにした「e−Japan重点計画」を決定した。更に,年度毎に重点計画を更新し,確実な目標達成を図っている。同計画の重点政策5分野の一つとして防災分野の情報が掲げられており,防災において情報の迅速な収集・伝達等を図り,国民が安心して暮らすことのできる社会を実現するために,防災情報共有プラットフォームの構築,情報収集体制の高度化,信頼性の高い通信体系の整備と高度化などの施策が位置づけられている。
(2)主な防災情報関連施策
 防災情報共有プラットフォームは,防災機関が横断的に共有すべき防災情報の形式を標準化し,国,地方公共団体等の各機関や,住民等の情報を共通のシステムに集約し,その情報にいずれからもアクセスし,入手することが可能な共通基盤である( 図2−1−2 図2−1−3 )。防災情報共有プラットフォームの整備等により,被災の全体像を即座に把握するコンピューター推計情報と人工衛星や航空機による観測情報や官民を問わず各機関が保有する情報を組み合わせ,災害時の被災全体像の迅速な把握が可能になる。また,災害現場における被災情報や各機関の活動情報を共通の地図情報として,横断的なわかりやすい形で共有することが可能になる。このような情報の共有の実現により,防災関係機関の情報の集約や伝達に係る労力を省力化するとともに,物資調達,緊急輸送ルート確保,医療搬送,救助などの基幹オペレーションの効率的な実施が可能となり,大規模災害に対する災害対応能力の向上につながる。

防災情報共有プラットフォームの構築
防災情報共有プラットフォームのイメージ(緊急輸送ルート選定支援の例)
 住民等との情報の共有にあたっては,インターネット上で様々な防災情報の窓口を集約した防災情報ポータルサイトの設置や防災情報共有プラットフォームを通じたマスメディアへの情報提供と連携などを進め,国民の誰もが必要な防災情報に容易にアクセスできる環境の整備を進める。
 夜間や悪天候などの悪条件下においても確実に情報を収集するための情報収集体制の高度化として,人工衛星や航空機等の画像情報の活用や官民を問わず様々な施設管理情報や位置情報を活用して被災の全体像を迅速・確実に把握する技術の開発,これらの高度な防災情報システムを支える信頼性の高い大容量データ通信体系の整備や通信回線の高度化等の施策を推進し,ITを活用した高度な防災情報体制を構築することとしている。
(3)防災・通信体制の整備
a 情報収集・伝達システム
 大規模な災害が発生した際,政府として迅速な災害応急対策がとれるよう,気象庁からの地震・津波情報,関係省庁等からのヘリコプターによる被災映像,指定公共機関,地方自治体,その他防災関係機関からの被害情報など,災害に関する情報を総合的に収集し被害規模を把握するとともに,これらの情報を直ちに総理大臣官邸,指定行政機関等へ伝達するためのシステム整備が進められている。
 地震・津波情報については,気象庁が設置した全国約600地点の震度計と180地点の津波地震観測施設から情報を収集し,地震活動等総合監視システム(EPOS),地震津波監視システム(ETOS)により処理・解析されている。さらに,本年1月からは,東海,東南海,南海の各地震が想定される震源域周辺を中心とした80箇所の観測点に緊急地震速報の提供を可能とする地震計を配備,これまでより短時間に震源地や主要動到達時刻を推計するシステムを運用中である。
 また,消防庁が,全国約3,400地点に設置された地震計から観測される震度情報を消防庁本庁へ即時送信する「震度情報ネットワークシステム」を整備して情報収集している。一方,独立行政法人防災科学技術研究所が全国約1,000ヶ所に強震計を設置し,地震情報を通信ネットワークで収集・配信するための整備が図られており,地震発生時の初動対応等に活用されている。
 雨量・積雪等の情報については,気象庁が各地の気象官署や局地的な気象状況の観測を行う地域気象観測システム(AMeDAS)や,衛星を利用して雲の分布・高度などを観測する静止気象衛星システム(GMSS)を活用して情報を収集し,気象資料総合処理システム(COSMETS)により解析,予測等が行われている。
 また,国土交通省が,一級河川等を対象として,雨量・水位テレメータ及びレーダ雨量計並びに情報処理設備からなる河川情報システムを整備して雨量・水位の情報を収集している。気象庁で処理・解析された情報は,気象庁本庁に設置された全国中枢気象資料自動編集中継装置(C−ADESS)を介して内閣府,防衛庁,消防庁,海上保安庁等の中央府省庁に,また,各管区気象台等に整備されている気象資料伝送網(L−ADESS)や防災情報提供装置を介して,国土交通省地方整備局及び地方公共団体等に伝達されている。
b 災害対策用の無線通信ネットワーク
 防災関係機関では,災害時の有効な通信手段として各機関毎に専用の無線通信網を整備している。これらの無線通信網のうち専ら災害対策に用いられる無線通信ネットワークとしては,中央防災無線網,消防防災無線網,都道府県防災行政無線網,市町村防災行政無線網,防災相互通信用無線等がある。その概要は次のとおりである( 図2−1−4 )。

防災関係通信網の概念図
(a)中央防災無線網
 中央防災無線網は,大規模な災害が発生して一般公衆回線が途絶したり,電話の殺到により通信回線が輻輳したりして,その利用が著しく困難な事態に陥った場合においても,非常災害対策本部,総理大臣官邸,指定行政機関,指定公共機関等との間で災害情報の収集・伝達が行えるようにすることを目的として整備している。この防災無線網は,大別して固定通信回線(画像伝送回線を含む。),衛星通信回線,移動通信回線から構成されている( 図2−1−5 )。

中央防災無線網通信系統図
 [1] 固定通信回線
 固定通信回線は内閣府からの一斉指令をはじめ,電話,ファクシミリ,災害映像,地震防災情報システム等,各種防災情報を中継・伝送する基幹的な通信回線であり,指定行政機関24機関,総理大臣官邸等の政府関係機関5機関,指定公共機関17機関及び立川広域防災基地内の関係機関10機関を結んでいる。
 また,国土交通省の専用回線と相互接続し,都道府県の災害対策本部と総理大臣官邸及び国の災害対策本部を含む防災関係省庁との間で直接連絡がとれるよう通信体制を確立している。
 [2] 衛星通信回線
 内閣府から遠隔地にあるため,直接固定通信回線を結ぶことが困難な指定公共機関等34機関との間に衛星を利用した通信回線で結んでいる。また,首都直下の大規模な地震により,中央防災無線網を支える庁舎等が損壊して,固定通信回線が使用できなくなった場合のバックアップとして,総理大臣官邸をはじめ内閣府等の指定行政機関,都下に所在する指定公共機関等の46機関に可搬型の衛星通信装置を配備している。
 さらに,国の災害対策本部と現地災害対策本部との間で,迅速に通信回線が確保できるよう全国9拠点にあらかじめ可搬型の衛星通信装置を配備している。緊急時には,これを設置することで衛星による通信回線が確保される。
 [3] 移動通信回線
 移動通信回線は,移動時あるいは未就業時においても,災害対策要員等との間で連絡することができるように整備しているもので,都内4ヶ所に基地局を設置し車両,災害対策要員等の自宅のほか,関係省庁の事務室に無線電話装置を配備して通信の確保を図っている。
(b)消防防災無線網
 消防庁と都道府県との間を結ぶ無線網で,地上系及び衛星系で構成されている( 図2−1−6 )。

消防防災無線網概念図
 [1] 地上系
 国土交通省の無線設備と設備共用して通信回線を確保されており,消防庁から全都道府県に対し電話,ファクシミリによる一斉伝達を行うほか,災害情報の収集・伝達に活用されている。
 [2] 衛星系(地域衛星通信ネットワーク)
 地域衛星通信ネットワークを利用して消防庁と全国44都道府県の間を結んでいる。
 地域衛星通信ネットワークは,通信衛星を利用して消防庁及び全国約4,455の地方公共団体等(平成15年8月末現在,都道府県等:890,市町村:2,734,消防:564,ライフライン等:277)を相互に結ぶ通信網で,通常の音声通信のほか,一斉伝達,データ通信,映像伝送等が可能で地上系の補完する無線通信網として位置づけられている。
(c)都道府県防災行政無線網
 都道府県とその出先機関,市町村,防災関係機関等との間を結ぶ無線通信網で,地域防災計画に基づき災害情報の収集・伝達を行うために,固定通信網を中心とする地上系,地域衛星通信ネットワークによる衛星系又は両方式により構成されている( 図2−1−7 )。

都道府県防災行政無線網系統図
(d)市町村防災行政無線網
 市町村が災害情報を収集し,また,地域住民に対し災害情報を周知するために整備している無線通信網で,市町村庁舎と屋外拡声子局や家庭内の戸別受信機を結ぶ同報系,市町村庁舎(基地局)と車載型・可搬型の無線電話装置又は無線電話装置相互間で運用される移動系及び市町村庁舎,学校,病院等の防災関係機関・生活関連機関をネットワークする地域防災系から構成されている( 図2−1−8 )。

市町村防災行政無線網概念図
 平成15年9月に発生した十勝沖地震災害において,同報無線により地域の住民に的確な避難情報等を提供し,人的被害の発生防止に効果をあげている。
(e)防災相互通信用無線
 地震災害,コンビナート災害等の大規模災害に備え,災害現場において警察庁,消防庁,国土交通省,海上保安庁等の各防災関係機関との間で,被害情報等を迅速に交換し,防災活動を円滑に進めることを目的とした無線通信であり,国,地方公共団体,電力会社,鉄道会社等に導入されている。
(f)その他
 総務省においては,地方公共団体等における被害情報の収集や災害応急対策の実施に必要な通信手段の不足に備え,全国の総合通信局等に衛星携帯電話,携帯電話,簡易無線等の無線設備を配備し,要請に応じ貸与できる体制を整備している。
c 映像情報の活用
 ヘリコプター等による災害現地の映像情報は,災害の全容を的確に把握する上で極めて有効であることから,ヘリコプター映像受信設備等の整備を進める警察庁,防衛庁,消防庁,国土交通省及び海上保安庁の協力を得て,ヘリコプター災害映像を全国のどこからでも内閣府に伝送できる映像伝送システムの充実・強化を図っている。
 さらに,送られてきた現地災害映像情報を総理大臣官邸及び各省庁に配信するための映像伝送回線を整備するとともに,あわせて被害箇所を適切に特定できるようにヘリコプターの位置情報を集配信するためのヘリコプター位置情報システムを導入した。
 平成15年7月の梅雨前線豪雨災害及び9月の十勝沖地震災害においては,ヘリコプターによる河川の氾濫,民家の被害状況の映像を総理大臣官邸・関係省庁等に配信し災害対策活動に活用された。
d 放送による情報伝達
 災害情報を住民に周知するためには,防災無線網のほか放送の活用が有効であることから,日本放送協会及び一般放送事業者との間で災害時における放送要請に関する協定を結び,災害対応に関する協力体制を築いている。
e 安否確認の情報伝達
 災害が発生したときは,多くの人が家族や知人の安否を確認するが,迅速な安否情報の提供はその後の救援活動,復旧活動を円滑に進める上で極めて重要となる。NTTは,ネットワーク技術を活用して日本中に記録装置を分散し,全国で約800万件の安否情報の蓄積が可能な“「災害用伝言ダイヤル」サービス”を用意して安否確認情報を提供している。
f 情報・通信体制の整備に係る今後の課題等
 阪神・淡路大震災の教訓を踏まえ,各防災関係機関においては,大地震に耐え得るよう通信施設の耐震・免震対策,商用電源の停電等に備えた非常用電源の確保,通信回線の多ルート化及び映像伝送等の機能拡充などの整備を一層推進するとともに,最近のIT技術を導入することにより通信回線の広帯域化,大容量化を図る。
 また,各防災関係機関の通信網相互の連携,防災情報の共有化・標準化の推進及び運用方法を確立するため,中央防災無線網を使用して災害映像を配信する際の運用管理をルール化してきたが,一層の連携と推進を図るために運用方法・活用の周知の徹底及びこれに基づく訓練の実施等の課題に取り組む必要がある。
 一方,中央防災会議で東海地震応急対策活動要領が策定されたことから,東海地震予知情報の発出時,早急に国の現地警戒本部を立ち上げるために,十分な通信回線を確保することが急務の課題となっている。


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