3−1 三宅島噴火災害



3 平成15年に発生した主要な災害とその対策

 平成15年は,5月に宮城県沖を震源とする地震,7月に宮城県北部を震源とする地震,さらに9月には十勝沖地震が発生し,震度6弱もしくは震度6強を観測,また,梅雨前線や台風等の風水害が7月から9月にかけて発生し,いずれも人的被害・住家等への被害をもたらした。台風については,発生数は21個と少なかったものの,早い時期から日本への接近があったこと,発生した台風の半分以上が日本に接近したなどの特徴があった。さらに,平成15年から平成16年にかけて降雪等による被害も発生した。また,林野火災による焼損面積は1,050haに達した。
 また,平成12年に発生した三宅島噴火災害については,火山活動は全体として低下傾向にあるものの,平成15年も依然として二酸化硫黄等の火山ガスが放出されており,島民は避難生活を余儀なくされている。内閣府,東京都,三宅村は,平成15年10月16日に「三宅島帰島プログラム準備検討会」を設置し,帰島に向けて必要となる各種対策と課題について検討を行い,平成16年3月30日に具体的な役割分担,スケジュール等を明示した報告書を取りまとめた。また,政府は,平成15年10月24日に第5回非常災害対策本部会議を開催し,帰島に向けての検討を行う「三宅島帰島プログラム準備検討関係省庁等連絡会議」を設置することとした。

3−1 三宅島噴火災害

(1)これまでの経過
 三宅島は,平成12年6月26日に地震が多発,「噴火のおそれがある」旨の緊急火山情報が出され,翌27日には三宅島西方約1km沖で海底噴火が確認された。その後いったん活動は低下したものの,7月4日頃から山頂で地震が増え始め,同月8日に山頂で噴火が起こった。以降,山頂噴火が繰り返され,8月10日,18日には,噴煙の高さがそれぞれ8,000m,14,000mに達する大規模な噴火が発生し,また,8月29日の噴火では,低温で勢いの弱い火砕流が発生した( 表1−3−1(その1) (その2) (その3) 参照)。

三宅島噴火災害に係るこれまでの経過(その1)
三宅島噴火災害に係るこれまでの経過(その2)
三宅島噴火災害に係るこれまでの経過(その3)
 同年9月からは二酸化硫黄等の火山ガスの大量放出が始まり,1日あたり50,000tを超える二酸化硫黄がたびたび観測され,平成12年11月16日には,1日あたり約80,000tの二酸化硫黄が観測された。長期的には低下傾向にあるものの,平成14年秋以降の二酸化硫黄の放出量は,1日あたり3,000〜10,000t程度と概ね横ばい傾向となっている( 図1−3−1 )。

三宅島の火山ガス放出量の状況
 一方,火山活動の状況を受けて,平成12年8月25日に三宅村の小中高校生の島外避難を決定したのに続き,9月2日には防災関係者を除く全島民に対して島外避難指示が発令され,9月4日までに避難が完了した。三宅島内における火山ガスの大量放出は未だ続いていることから帰島の目途は立っておらず,都営住宅等における避難生活が続いている。
 全島避難以降,島内においては,火山活動の状況を的確に把握するため,平成12年度予算の予備費も活用して(平成12年9月12日閣議決定)観測監視体制を強化し,平成12年11月までに主要な機器の設置を完了させたほか,火山ガス放出の収束の見通しが立ち,帰島の目途がついた場合に1日も早く帰島できるよう,電力・ガス等のライフラインの機能維持,仮橋の設置等による都道(島内周回道路)の全周に渡る通行の確保,泥流等による被害拡大防止のための対策等が講じられている。
 なお,当初これらの作業の実施にあたって,工事関係者は神津島に滞在し,漁船等で三宅島に渡島して日帰りでの作業を行っていたため,作業は日中の短い時間に限られていた。そこで,工事関係者が島内に夜間滞在して作業をより効率的に進められるよう,クリーンハウス(既存建築物等に二酸化硫黄等の除去装置を備えた施設)の整備を推進し,第一番目として,平成13年5月に東京都三宅支庁第二庁舎のクリーンハウス化が完成,防災関係者による夜間滞在の試行が開始された。また,同年7月には東京都三宅支庁第一庁舎,三宅村役場庁舎等が新たにクリーンハウス化されたことにより,工事関係者を含めた本格的な島内夜間滞在が開始され,平成16年1月現在においては,活動火山対策特別措置法に基づき設置されたものや,島内の旅館・民宿をクリーンハウス化したものも含め,21か所において約1,070人分のクリーンハウスが整備されている。
 また,都道の通行が確保されたことや,クリーンハウスの整備等により,一定の安全性が確保されたことから,家屋の被災状況の確認等のための島民の方々の日帰りの一時帰宅が平成13年7月より開始され,また,平成15年1月からは,八丈島への定期船の三宅島寄港が再開され,これを活用した日帰りの一時帰宅が行われるとともに,同年4月からは島内に宿泊する滞在型の一時帰宅も行われている。
三宅島噴火災害写真

(2)支援策の実施
 全島避難指示が出されてから3年半以上が経過し,三宅島民は島を離れて不自由な生活を余儀なくされていることから,これまで,政府・東京都・三宅村が一体となり,被災者生活再建支援金の支給や都営住宅等の無償提供,緊急地域雇用特別交付金等を用いた雇用の確保,中小企業者の既往債務に係る利子補給,旧都立秋川高校への児童生徒の受け入れ等をはじめとして,多方面からさまざまな支援策を講じている。これまでに講じられてきた対策については 表1−3−2(その1) (その2) (その3) のとおりである(平成16年3月現在)。

三宅島噴火災害の被災者に対してとった支援措置(平成16年3月1日現在)(その1)
三宅島噴火災害の被災者に対してとった支援措置(平成16年3月1日現在)(その2)
三宅島噴火災害の被災者に対してとった支援措置(平成16年3月1日現在)(その3)
(3)活動火山対策特別措置法の適用
 三宅島においては,帰島の目途は立っていないものの,火山ガスの放出量が長期的には低下傾向にあり,島民の方々が滞在型の一時帰宅を強く要望していること,また,復興に向けた計画の策定が進んでいることを受け,島民の方々の滞在型の一時帰宅を実現するとともに,本格的帰島後も突発的に火山ガスの放出量が高まる恐れがあることから,国としても島民の方々の安全確保のため,クリーンハウスの整備を支援することとし,平成14年7月5日,三宅島に活動火山対策特別措置法を適用し,全島を同法の避難施設緊急整備地域に指定した。
 地域指定を受け,東京都知事が当該地域の避難施設緊急整備計画を作成し,同年8月23日,同計画に対し内閣総理大臣が同意した。また,同日,消防庁は,同計画に基づく三宅村によるクリーンハウスの整備に,約715百万円の消防防災等施設整備費補助金の交付を決定した。
 平成15年3月31日,島北部の伊豆地区に300人規模のクリーンハウスが完成し,4月19日よりこれを活用した島民の方々の滞在型の一時帰宅が行われている。
(4)三宅島復興に向けた計画の検討及び火山ガスに関する検討
 三宅村においては,噴火災害からの早期復興を図るため,平成14年1月に学識経験者や三宅村議会議員,三宅村経済団体関係者等により構成される「三宅村復興計画策定委員会(委員長:林春男京都大学教授)」を設置した。同委員会においては,島民の方々の意見を反映させるため,島民からの意見募集結果も踏まえて検討を行い,同年12月4日に復興基本計画の最終答申を行った。これを受け三宅村は,同年12月19日に,三宅村復興基本計画を盛り込んだ「第4次三宅村総合計画」を策定した。
 また,火山ガスがどのような状況になれば島民の方々の帰島が可能になるか,安全確保対策の面から科学的に検討するため,平成14年9月30日に学識経験者や行政関係者により構成される「三宅島火山ガスに関する検討会(座長:内山巌雄京都大学大学院教授)」を,国と東京都との共同事務局で設置し,帰島を決める際の判断材料等について検討した。平成15年3月24日に二酸化硫黄ガスの健康影響について長期的影響(慢性影響)及び短期的影響(急性影響)それぞれのガス濃度の目安,健康影響を最小限にするために必要な安全確保対策等を内容とする最終報告がとりまとめられた。
 現在,報告にもとづき,三宅村において,島民に対し火山ガス等に関する知識の普及・啓発を行う「リスク・コミュニケーション」活動が実施されている。
(5)三宅島帰島プログラム準備検討会
a 検討会の設置
 上記火山ガス検討会報告で示された長期的目安(以下「目安」という。)を念頭におきながら,島内の観測点ごとの二酸化硫黄濃度を観察してきたところ,島内には,既に目安に達した地区,目安に概ね達しているが今後の推移を注意深く見守る必要がある地区,目安に達していない地区が存在する。今後,これらの測定結果をさらに見守る必要があるものの,本格的な帰島が可能な状況になった場合に,速やかに帰島が実現し島民の生活再建が行えるよう,今から具体的な準備や検討を行うことが必要ではないか,という認識から,平成15年10月,内閣府政策統括官,東京都副知事,三宅村長の三者会議が開催された。その結果,帰島に当たっては相当な準備期間が必要であることから,帰島が決定した際に速やかな帰島が実現されるよう,現時点において帰島に向けて必要となる各種対策や課題を検討するべく,内閣府,東京都,三宅村の関係部課長級職員で構成される「三宅島帰島プログラム準備検討会」が設置された。
 また,国においても,「平成12年(2000年)三宅島噴火非常災害対策本部」本部会議を開催,「三宅島帰島プログラム準備検討関係省庁等連絡会議」を設置することとし,上記検討会と並行して,関係省庁等において検討を進めることとした。
 同検討会では,帰島に際して必要となる各種対策や課題について,できる限り幅広く捉え,今後島民の方々が,帰島に向けた判断をされる場合に,参考にしていただけることも念頭において,帰島に際して必要と思われる対策,スケジュール,役割分担等について検討した。なお,検討会は,諸準備を着実に実施することで,帰島に向けて一歩でも二歩でも近づくために,国,都,村がなすべきことを検討したものであり,避難指示解除の判断そのものは,今後,本検討会における検討結果を踏まえた安全確保対策の実施状況やガスの状況を見つつ,村において総合的に判断されることとなる。
b 分科会における検討
 検討を進めるにあたっては,[1]火山ガスによる健康影響を最小限に抑えるために安全確保策を検討する「安全分科会」,[2]災害復旧の仕上げと居住環境の整備に係る事項を検討する「基盤分科会」,[3]帰島後における当面の生活に係る事項を検討する「生活分科会」の3つの分科会を設けた。
 各分科会では,帰島にあたって重要なことは,自らの安全を守るのは自分自身であること(自助),島民一人ひとりの主体的な取組みと島民相互が協力しあうこと(共助)であり,行政はこれらの取組みを支援する(公助)との基本認識を踏まえ,検討を進めた。
(a)安全分科会
 安全分科会は,14回の会議を開催し,火山ガス濃度の監視観測,情報伝達,避難体制の整備などについて検討を行い,必要となる対策や課題を取りまとめた。
(b)基盤分科会
 基盤分科会は,5回の会議,13回にわたるワーキンググループでの議論を実施し,居住地の安全確保,居住場所の確保,教育施設の復旧などについて検討を行い,必要となる対策や課題を取りまとめた。
(c)生活分科会
 生活分科会は,6回の会議,24回にわたるワーキンググループでの議論や関係機関に対する調査などを実施し,生活に関すること,福祉教育に関すること,住宅・災害廃棄物に関すること,産業・雇用に関することについて検討を行い,必要となる対策や課題を取りまとめた。
 こうして,検討会,分科会等を通じ,延べ65回にわたる精力的な検討を行った。平成15年12月に「中間報告」を行って,主な検討項目等を明らかにした後,各種対策等について,具体的な役割分担,スケジュール等を検討し,最終報告に反映させた。報告では,各分科会における検討結果を踏まえた各種の対策を,「必要と考えられる取組一覧」として明示した。この中で,実施時期について,避難指示解除に向けた一定の判断がなされ,具体的な帰島時期を視野に入れ,帰島に向けた本格的準備活動を行う「準備期間中」,その前の段階である「準備期間前」,さらに「帰島後」の3段階に分けて整理をした。
 報告書全文は, http://www.bousai.go.jp//kohou/oshirase/h16/040330miyakehoukokusyo.html に掲載している。
 c 報告書の概要
(a)安全分科会
 ○火山ガス監視・観測体制
 既設(10箇所)の測定器に加え,15年度中に測定機器の増設等(4箇所)を行い,火山ガスの状況を把握。
 ○避難体制の整備
 二酸化硫黄濃度が避難を必要とするレベルまで高まり,避難が呼びかけられた場合には,火山ガスの発生していない地域か安全な施設に避難する体制を整備。保育園,小・中学校,三宅高校については,火山ガスが発生しても緊急避難が不要となるよう脱硫装置の整備を含め,安全対策について検討。
 ○ハイリスク者等への対応
 比較的低濃度の時点から対応が必要となる高感受性者,要援護者に対しては,個人別通信手段を確保する等,特別な配慮について検討。(家屋へ脱硫装置を整備することについては,必要性も含め検討。)
 ○高濃度地区対策
 二酸化硫黄濃度の長期的影響の目安を上回る地域が存在している。仮にこうした状況の中で避難指示を解除する場合には,帰島までに当該地域の境界を決定し,一定の制限を行うなど,特別な対策が必要となる。そのため火山ガスの動向を見ながら帰島までに対応策を検討していく。
(b)基盤分科会
 ○居住地の安全確保
 平成17年度末までに51基の砂防ダム等を整備。大雨で泥流の発生する恐れのある区域を示す三宅島泥流防災マップを,帰島の時期に合わせて更新。
 ○居住場所の確保
 火山ガスの動向を見ながら,村営住宅の新設(60戸),被害を受けた既存村営住宅の補修,建替えを実施。泥流被害にあった家屋の堆積土砂排除等,その他宅地内に残された堆積土砂排除の実施に向けて,災害査定を実施。
 ○公共施設の復旧
 火山ガスの動向を見ながら,中央診療所,保育園等の復旧を進める。観光施設では,帰島後に,ふるさと体験ビレッジ,アカコッコ館を復旧し,観光客が誘致できるよう整備。
 ○生産基盤施設の整備
 帰島の意思があり,営農再開後,一定期間の営農継続の意思がある農家の農地を対象として,農地復旧を図る。伊ケ谷漁港等では,嵩上げ,泊地しゅんせつ等の災害復旧を実施する。
(c)生活分科会
 ○生活に関すること
 被災者生活再建支援金の長期避難解除世帯特例(70万円)を活用した支援を実施。制度の対象とならない世帯に対しての支援(都制度)が可能かどうかの検討。その他,融資・利子補給等を行い,生活の早期安定に向けた支援実施。
 ○住宅・災害廃棄物に関すること
 居住安定支援制度の活用を図るとともに,住宅の建設・補修等に係る融資・利子補給を実施。早期に廃自動車などの災害廃棄物を処理するなど生活環境の整備を図る。
 ○教育に関すること
 当面の小・中学校各1校体制に伴う通学手段の確保など,学校の再開に必要な体制を整備するとともに,児童・生徒の心のケアの実施,授業料減免などにより被災者の就学を支援。
 ○産業・雇用に関すること
 農業振興事業や磯根資源の回復,観光復興プログラムの策定,各種の融資・利子補給などにより産業の再開に向けた支援を行うとともに,復旧事業等を通じて島民の雇用創出を図る。
 d 今後の取組み
 本報告は,帰島に際して必要となる各種対策や課題について検討したものである。実際の帰島に当たって,本報告に掲げる各種対策の実施については,その際の状況を踏まえ,事業の必要性を検討した上で,財源の手当てを含めたより具体的な実施計画を策定し,推進していくこととなる。今回,時間的な制約や帰島に当たっての前提条件が明らかでないなどの理由から,十分な議論を尽くせなかった課題もある。避難指示解除の判断が現実のものとなった段階で,その時期や方法に合わせて,個々の対策について具体的な実施内容の検討や予算措置を含む意思決定がなされるべきものも含まれている。
 国,都,村としては,本プログラムに基づき,今から実施できる対策に直ちに取り掛かるとともに,今後,残された課題の検討や,帰島の時期や方法を含めた各種対策の準備を遅滞なく進めることとしている。また,村においては,今後,報告書の内容を島民に説明した上で,帰島に向けた島民の意向調査をする予定である。

コラム 検討会報告書公表に当たって
 検討会報告書公表(平成16年3月30日)に際し,内閣府政策統括官(防災担当),東京都副知事,三宅村長の三者は,連名で,次のようなメッセージを発表している。
 三宅島帰島プログラム準備検討委員会報告書が取りまとめられました。内閣府,東京都,三宅村の三者で,昨年の10月以来,精力的に検討してきた成果であります。
 帰島の時期等が不確定な段階で取りまとめたことから,若干抽象的な部分もありますが,帰島を視野に入れて,必要な取り組みを明確にしようとしたもので,帰島に向けた判断を行う上で,参考になるものと思います。
 火山ガスの放出は自然現象ですから,正確な予測をすることは困難ですが,当分の間は放出が続くものと予測されております。しかし,「三宅島火山ガスに関する検討会」報告で提言されているリスクコミュニケーションや安全確保対策を着実に実施することによって,一定の条件の下に,帰島ができる環境が整うと考えます。その際,島民の皆さんの自助,共助の取り組みも重要であると考えます。今後,安全対策を重点に,本報告に沿った検討や取り組みを進めてまいります。
 「一日も早く島に帰りたい」という,多くの願いを胸に,今後とも,島民の皆さんと行政との協働で,帰島を視野に入れた準備と環境整備を行っていきたいと思います。


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