3−5 新しい連携のネットワークの広がり



3−5 新しい連携のネットワークの広がり

(1)新しいネットワークの特徴
 これまで見てきたように,住宅地,商店街,業務市街地等において,新しい形で人々のつながりを求めるネットワークが広がりつつある。こうしたネットワークの特徴として,次の2つをあげることができる。
a 活動基盤を地域におきながら,人と人とのつながりは必ずしも地縁だけに頼ってはいないことである。早稲田商店会のように全国の商店街とネットワークを結ぶことで,早稲田発の取り組みを全国に広げていくとか,FUSION長池のように,インターネットを通じて地域外に住む多くの人たちがサポーターとして日常的に意見交換をしている事例がある。インターネットがこのような活動を普遍化している。
b 必ずしも「防災」だけを活動のテーマとしていないことである。むしろ,こうした活動をしている人たちは,日常的な活動が非常時の連携に繋がるという意識を強く持っていると思われる。誰に強制されるわけでもなく,自らが進んで日常的に参加できるような活動から,本当の人と人とのつながりが生まれるという考えである。
 こうした活動を通じて,新しい形のコミュニティが生まれつつある。地縁と不可分の関係にあった従来のコミュニティの仕組みから離れて,市民,企業,NPO等が,さまざまな形の「コミュニティ」に参加するという形態である。こうして多次元に展開する各種のコミュニティの活動を通じて,多様な主体の連携の可能性が開かれてきた。
 地域防災力を高めるのは,平常時からの人と人のつながりと信頼関係である。そのネットワークを広げるために,こうしたコミュニティ活動をゆるやかにつなぐ共通の舞台が生まれつつある。
 ここでは,インターネットを活用する例として,「東京いのちのポータルサイト」を,フェイス・トゥ・フェイスの集いの場の例として,「安全・安心まちづくりワークショップ」を紹介する。
●東京いのちのポータルサイト
 「東京いのちのポータルサイト」は,東京をはじめ首都圏各地域の様々な団体,個人が緩やかに連携し,共同でつくりあげるものとして,平成14年8月に立ち上がった(現在特定非営利活動法人申請中)。日頃はメーリングリストを活用して情報交換を行いながら,防災に関するシンポジウムやフォーラム,各種の調査研究活動を企画実施するほか,最先端のITを駆使した防災情報システムと連携することでポータルサイトを構築することを目指している (図3−3−6)

「東京いのちのポータルサイト」ホームページ画面
 「自分たちのまちは自分たちで守る!」「自分たちが死なないために!」をキーワードとして,首都圏の全ての地域社会,商店街,民間企業,NPO,大学,学校,行政関係者,更には全国,海外の人々にも連携を呼びかけている。
 ただ単にインターネットのHPをリンクするだけの「ポータルサイト」ではなく,「いのちのポータルサイト」とした所以は,東京をはじめ首都圏各地域でITを駆使して情報発信をしているグループがたくさんあり,これらの地域や民間の力をもとに,平常時と災害時の両方で機能する緩やかで大きな人と人とのつながり(市民ネットワーク)をつくることを目的としたためと説明している。
 平成15年2月には,東京・銀座において,「死なないために いまから,自分たちで,できること 大地震を迎え撃つ!」と題する「東京いのちのポータルサイト展」を開催した。地域コミュニティの役割,企業防災,耐震化推進等をテーマにした12の連続パネル討論会,最新の防災関連IT技術や「耐震ベッド」等に関する23の展示を行うなど,地域・民間主導の防災ネットワークを広げるための方策について多くの参加者と意見交換がなされた。
●安全・安心まちづくりワークショップ
 このワークショップは,平成14年11月16日,17日の両日,NPO法人地域交流センターと板橋区が共同で板橋区志村第三中学校において実施したもので,のべ1,200人が参加した。災害救助NPOや自治会,商店街,学校,企業,行政など,様々な立場の団体が防災をテーマに一同に会するのは全国で初めてである。
 ワークショップでは8つのテーマ別分科会に分かれて,75の事例報告とディスカッションが行われた。
【ワークショップ分科会のテーマ】
・防災教育 ・防災学習 ・水防・水辺の安全 ・安心活動・災害時のレスキューと医療
・企業防災活動 ・サバイバルの知恵 ・防災とコミュニティ・地域福祉活動
・防犯とコミュニティ ・商店街と地域ネットワーク(日常的な防災システム)
 報告された事例には,各地の商店街が連携して非常時に相互支援する体制づくりを進めている事例,自治会と中学校が協力して防災ジュニアチームを結成して取り組んでいる事例など様々な活動があり,安全・安心のまちづくりの広がりを期待させるものであった。
 こうした全国の事例の中から,ユニークな事例,地道だが効果的な事例,大いに参考にしたい事例を「優良事例」として選定したほか,学校の体育館で宿泊し避難所体験をしながら参加者同士の交流を深める等,安全・安心まちづくりの「仲間」のネットワークをつくっていくための,多様なプログラムが実施された (図3−3−7)

中学校の教室を活用して開催されたワークショップ

(2)行政,地域,住民の連携
 総合的な地域防災力の向上,強化のためには,行政,住民,企業,NPO等の様々な連携が不可欠である。
 地方公共団体の中には,新しい連携のネットワークの可能性を踏まえて,地域に育まれるあらゆる多様な活動主体の力を地域防災力向上に活かす方向で取り組みを強化する事例が増えている。
 東京都板橋区は,そういう観点から,区の防災対策の基本姿勢を明確にするため,平成14年4月1日に「防災基本条例」を施行した。制定にあたっては公募した区民が委員に参加し,一般区民の声を反映させている。
 この条例は,まず「災害からいのち,くらし,まちを,私たち自身の手で守るために,すべての者が防災に関する目標を共有し,それぞれの責務を自覚し,力を合わせて安全なまちを築いていかなければならない。そのためには,自らのことは自らが守るという自助,地域社会全体で地域を守るという共助,行政が区民の安全を確保するという公助の役割を念頭に,予防政策から応急対策及び復興対策に至るまでを一連の総合的な防災対策として捉え,地域防災の充実及び強化に努めていくことが大切である。ここに,この板橋を,自立と助け合いの精神に支えられ,すべての人が安全に暮らすことができる災害に強いまちとして創造するという決意を表明するため,この条例を制定する。」と宣言した上で,次のような柱を掲げている。
【防災ひとづくりの推進】
・防災に関する学習及び訓練
・防災に関する教育等
・地域相互支援ネットワークづくり
【防災まちづくりの推進】
・まちの安全点検と防災まちづくり
・防災まちづくり計画と事業の推進
・建築物の耐震性及び耐火性の確保
【要援護者への配慮】


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内閣府政策統括官(防災担当)

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