2−4 企業と防災



2−4 企業と防災

 平成14年7月,「防災基本計画専門調査会」が中央防災会議に報告した「防災体制の強化に関する提言」においては,企業防災に関し,次の4項目を推進すべきであるとしており,以下,この4項目に沿って企業防災について説明する。
[1] 企業防災の推進
[2] 行政と企業との連携
[3] 企業の防災・危機管理を評価する社会システムの構築
[4] 市場における防災性能評価等の推進

(1)企業防災の推進
 阪神・淡路大震災の際には,企業の活動が目覚ましく,災害時における企業活動の重要性が再認識された。
 阪神・淡路大震災の際の企業活動の一例をあげると,以下のとおりである。
・ダイエーは,休日を返上し,生活必要物資を供給するため営業を再開した。物資を現地に輸送するため,ヘリコプター,フェリー等をチャーターした。
・長田区の三ッ星ベルトは,地元の住民と協力しながら消火活動を行い延焼をくい止め,更に,体育館を避難所として提供した。
・ダスキンは,西宮市の避難所等200か所の便所に山積みになった汚物の清掃,45,000世帯の被災者の下着の洗濯,衣類・食料等の生活必要物資の提供等を行った。
・サントリーはミネラル・ウォーター15万本を提供した。
 企業は,災害時には,従業員,顧客の安全を確保し,事業活動の維持を通じ社会経済の安定を図ることが重要である。特に,災害直後には,コンビニ,スーパー等の流通業,電力,電話,鉄道等ライフライン企業の事業等の維持が重要である。
 更に,企業は人材,ノウハウ,機材等の諸資源を有していることに鑑み,災害時には,その組織力を生かし地域防災活動に貢献することが期待されている。
 特に,現状では平日の昼間,東京で大地震が発生した場合,丸の内,大手町等では,大量の帰宅困難者が発生することが懸念されているが,一方で,企業の組織力・人材・ノウハウを活かし,当該地域における活動の主役である企業と行政とが連携して地域の応急対応活動にあたることが企業間で検討されている。

(2)行政と企業との連携
 行政と企業の連携の一つの形態として,近年,地方自治体と企業とが協定を結び,災害時に企業の地域防災活動が円滑にスタートするような仕組みを構築している事例が増加している。
 こうした協定について,内閣府は人口20万人以上の市及び特別区について調査を実施したが,主な協定例を類型別に記述すると,次のとおりである。
[1] 専門技術の提供
●建設業,自動車修理工場等
 災害時における道路障害物除去,破損箇所に対する応急措置等の応急対策活動に関する協定。企業は,必要な建設資機材を提供するほか,協力企業の作業員が「災害工作隊」「レスキュー隊」等として,障害物除去,破損箇所応急措置等の作業を実施する。
●医療等
 医師会,歯科医師会等との救急医療等に関する協定。
 接骨師会と応急手当等に関し協定を結んでいる事例もある。
[2] 物資の提供
●生活必需物資の調達
 コンビニ(本社)が飲食料品等を提供する協定のほか,更に,対象範囲を広げ,大手スーパー等が,寝具類,衣料,炊事用具,食器類,日用品雑貨,光熱材料等の生活必需品全般を提供する協定を結んでいる事例もある。
●飲料水
 飲料水メーカーがペットボトルの飲料水を提供する協定のほか,ビール工場がビールやジュースの原材料となる水を提供したり,酒造会社が井戸水を提供する協定を締結している事例もある。
[3] スペースの提供
●ホテルを一時収容場所として提供
 災害に伴う帰宅困難者等への一時収容場所としてホテルのスペースを提供する協定。ロビー,会議室等は無料で提供するが,客室を提供する場合は有料という事例がある。
●研修所等を避難場所として提供
 災害時における臨時避難場所として企業の研修施設等を提供する協定。
[4] 情報提供サービス等の提供
●緊急情報放送
 地元の放送局との緊急情報放送に関する協定。
●タクシー無線等の活用
 民間からの情報提供(被災状況等)と行政からの情報提供の双方に,タクシー無線を活用する協定。民間のアマチュア無線クラブと協定を結んでいる事例もある。
 以上,調査した約400件の協定を整理すると, 図3−2−6 のとおりであり,「専門技術」,「物資の提供」に関する協定が多いことが分かる。また,費用負担については,情報提供を除き,実費等を行政が負担するという内容が多い。

市区町村と企業との協定
 また,負担内容の詳細については,「別途協議する」という形になっているものもある。
 なお,協力企業の従業員の災害補償については,市区町村の負担とする例もあるが,使用者(企業)側の負担となっている例が多い。
 このような協定においては,「行政の要請を受けて企業が活動を開始する」と規定されることが一般的であるが,災害時には行政が適切な要請を行うことができない可能性もあることから,「行政の要請がない場合でも,企業側の判断で活動を開始することができる」旨を規定している事例も見受けられる。

〈参考〉建設業等による「レスキュー隊」の協定
 甲(注:行政)は,災害の実情に応じ,乙(注:協力組合)に対し,業務内容,日時,場所を指定して資機材および労力の出動を要請するものとする。
 ただし,乙は,災害の状況により応急対策が緊急性を要すると判断した場合は,甲と密接な連絡をとりながら,直ちに出動し,その業務に従事することができる。

 なお,こうした協定の締結に当たっては,「企業自らが被災した場合も対応する必要があるのか」,「企業の本来業務に優先させる必要があるのか」等について,事前に十分に協議しておく必要がある。
 また,地域貢献という観点から,京都市では,企業と自主防災組織とが協定を締結している例がある。
 京都市では,これを「地域防災ネットワーク」と名付け,平成14年11月現在,70の自主防災組織と88の企業の事業所が参加している。
 京都市では「自主防災組織と事業所の協力体制の構築は,大災害時のみならず,平常時における地域の一体感の構築にも寄与するものと期待される。このような取組を通して,地域と事業所とが緊密な関係を日常から築いていくことが大切。」と説明している。
 アメリカでは,連邦危機管理庁(FEMA)の助成を受けて,地域単位で,市民,企業,NPO,行政が協働,連携して地域防災力の評価と改善策の検討,実施を行う「プロジェクト・インパクト」が大きな効果をあげた例がある。我が国でも,「プロジェクト・インパクト」を参考にして,NPOが主催して地域における住民・企業・ボランティア・行政等を対象とした各種のプログラムを実施している事例がある。

(3)企業の防災・危機管理を評価する社会システムの構築
 防災・危機管理に対し投資することで,市場において企業の評価が高まるような環境づくりが必要である。
 ISOでは,品質管理面からはISO9000シリーズ,環境面からはISO14000シリーズがあるが,防災マネジメントに関するシリーズはない。
 しかしながら,リスクマネジメント一般については,2001年3月に日本工業規格として「リスクマネジメントシステム構築のための指針JISQ2001」が制定されている。
 このJISQ2001には第三者認証制度はなく,企業の自主的な取り組みを求めるガイドラインにとどまっている。
 なお,アメリカのカリフォルニアでは,サンノゼ大学に,「被害軽減のための事前対策パートナーシップ」〈Collaborative for Disaster Mitigation〉という非営利会社が設立されている。この非営利会社は企業の施設,生産ラインの脆弱性を発見し,改善措置を施す手助けをしており,FEMAからも設立資金が出資されている。

(4)市場における防災性能評価等の推進
 防災に直接関連する商品のみならず,防災力向上に寄与する様々な製品の機能が市場で明示される仕組みを考えていくことが重要である。
a 防災に直接関連する製品等
(a)静岡県〜技術コンクールの実施と共同開発
 静岡県は,耐震補強工法やグッズの技術コンクールを開催しているが,平成13年の最優秀賞作品をベースに,「防災ベッド」が,公募企業と静岡県静岡工業技術センターとの共同により商品化された。
(b)安否確認システム
 様々なIT関係企業において,携帯電話やインターネット等による情報通信ネットワークを活用して,従業員等の安否を確認するシステムや災害情報支援サービスが提供されている。
b 防災へ貢献する商品等
(a)保守点検技術の転用
 電力会社の送電線監視用に自社開発された機器(ソーラ電源画像転送システム: 図3−2−9 )が,災害時に画像情報を配信する簡易・安価な機器として活用されている(三宅島での降灰観測: 図3−2−10 )。

電力会社の送電線監視システム
三宅島の降灰観測システム
(b)携帯電話への情報配信サービス
 IT系のベンチャー企業が,火災・鉄道・気象など各種の情報源から収集した危機管理情報を,地域・路線・時間指定など個人毎のニーズに合わせて,24時間・365日リアルタイムにインターネット対応の携帯電話にメール配信するサービスを提供している。
 これに大手の新聞社が着目し,携帯電話に対する同社のニュース配信サービスに,ベンチャー企業が収集した危機管理情報も提供することとなった。
(c)電光掲示板付きの自動販売機
 自動販売機に電光掲示板を取り付け,時事ニュース等を配信する動きが,自動販売機運営会社により広がっている。
 特別の助成制度があるわけではないが,自動販売機運営会社は,追加投資費用は売り上げ増でカバーしようとしている。
 東京都練馬区等の自治体が,これを利用して,災害時に防災情報を提供しようとしている。これにより,ラジオ,防災無線放送等の音声メディアでは困難だった聴覚障害者に対する情報提供や文字の繰り返しによる情報提供が可能となる。
c 市場における防災性能評価〜住宅性能表示
 平成11年に成立した「住宅の品質確保の促進等に関する法律」において,住宅性能を表示する制度が設けられている。
 この住宅性能表示により,優れた住宅が市場で適切に評価されることが期待されている。
 なお,日本住宅性能表示基準によると,地震に関しては「倒壊防止」と「損傷防止」の2種類の性能があり,それぞれ3等級で評価される。また,台風等に対する耐風性は2等級で評価される。

(5)企業と防災に関する検討会議
 企業による防災・危機管理は地域防災力を向上させるための重要な課題であることから,企業と防災に関して企業関係者,有識者及び地方公共団体の間で意見交換を行い,企業防災の役割に関する施策体系を構築するため,防災担当大臣主催の「企業と防災に関する検討会議」が平成14年12月から平成15年4月の間で開催された。
 検討会議は,座長の樋口公啓日本経済団体連合会副会長(東京海上火災保険株式会社取締役会長)をはじめとした14名の委員から構成され,次の課題について,活発な議論が行われた。
[1] 従来,国,地方公共団体の役割に偏っていた「防災対策」に,企業も防災のパートナーと位置づける。
[2] 大手町・丸の内・有楽町地区,神戸旧居留地など,企業と地域が一体となった防災先駆事例を分析・評価。
[3] 「企業の自主防災」,「地域防災における企業の役割」,「行政と企業の連携」という3つの観点から,企業と防災についての新たな施策体系を構築。
○「企業」防災では,優良事例を紹介し,普及啓発(企業間相互援助協定など)。また,日常的に活用される商品,サービス等の防災性能や防災力向上への貢献度などが市場で評価される環境整備。
○「地域」防災では,官民協働型の地域防災計画(エリア・マネジメント)の提案,組織,人づくりの支援。
○「行政」防災では,“得意技”を活用した企業との連携の推進,官民連携の防災情報システムの開発等。
 また,上記と併行して,日本経済団体連合会においても,「防災に関する特別懇談会」が平成14年12月に設置され,大規模災害発生時の企業の対応のあり方について,検討が進められている。第1回会合には鴻池防災担当大臣が出席し,意見交換を行った。


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