4 新しい防災対策に向けて



4 新しい防災対策に向けて

(1)21世紀の災害の態様
 新しい世紀を迎え,今世紀中には,地球の温暖化など人間活動により自然環境が影響を受け,災害がより多発し,又は甚大化することが予想されるとともに,継続的な地殻活動等に伴う災害等も発生する。また,高齢化など経済社会の変化に伴う災害の態様の変化も懸念される。
a 人間活動により影響を受ける自然環境
(a)地球の温暖化に伴う災害
 人類の諸活動により大気中に排出される二酸化炭素等の温室効果ガスにより,地球規模での気候変動が生じつつある。気候変動に関する政府間パネル(IPCC)第三次評価報告書(平成13(2001)年)によれば,1990年から2100年までの間に地球の平均地上気温は1.4〜5.8℃上昇するものと見込まれ,その結果として,豪雨の頻度の増加による洪水,地滑り,台風の最大風速,最大降水量の増加,エルニーニョ現象に関連した干ばつや洪水といった自然災害が増加するとしている。また,同時に海水の熱膨張や氷河の消失により,地球の平均海面水位は9〜88cm程度上昇し,沿岸低地居住者は移転を余儀なくされると予測されている。
(b)ヒートアイランド現象の進行
 大都市においては,緑地の減少による水分蒸発量の減少,建築物の高層化・高密度化に伴う人工排熱量の集中と増加等により,中心部の気温が周辺部より高くなる「ヒートアイランド現象」が出現しており,地球温暖化により,このような現象がより顕著になるものと考えられる。現在の都市構造では十分対応できないような局地的豪雨の発生の可能性もあり,今後,十分な観測・原因分析と対策の検討が必要となろう。
b 地震・火山活動の長期的動向
 20世紀中も世界各地で大規模な地震が発生し,多くの犠牲と被害を被ったが,21世紀中も幾つかの地域が地震の活動期に入り,大規模地震が発生することは否めない。
 我が国の周辺では,4つのプレートが押し合っており,プレートのもぐり込みによる巨大地震(海溝型地震)が周期的に発生している。特に駿河湾トラフ沿いで発生する大規模な海溝型地震(東海地震)は発生の切迫性が高い。また,海洋プレート内及び境界付近で発生するとされる南関東直下の地震についても,ある程度の切迫性を有している。この他の地域においても,ある程度周期的に大規模地震が発生するものがあるとの研究もあり,耐震化の促進,避難地・避難路の確保など全国的に地震防災対策に取組むことが肝要である (特に,東海地震等及び南関東直下型地震への対応については第2章4−1参照)
 また,火山についても,噴火の周期性が明らかになっていない火山も多いが,21世紀中にも幾つかの火山が噴火するものと想定されることから,今後も観測研究体制の整備や災害に強いまちづくりなど火山対策の充実に努める必要がある (火山対策全般,特に富士山ハザードマップの作成については第2章4−3参照)
c 新たな災害の原因となる社会経済の変化
(a)都市化と災害
 世界全域の都市人口割合は昭和25(1950)年の29.7%から平成12(2000)年の47.0%へ,さらに平成42(2030)年には60.3%に達すると推計されている(United Nations, "World Urbanization Prospect": The 1999 Revision)。都市化した人口は,発展途上国を中心として災害に脆弱な大都市のスラム地域へ集中する傾向にあり,21世紀中には地球の温暖化と相まった大規模な水害やその他の災害の発生が懸念される。
 我が国においても,平成12年現在,全国人口の約3/4が市部に居住している。都市に集中する人口の圧力が非常に大きかったため,十分な都市基盤が整備されていない地域や災害に脆弱な地域にも都市化が進んだ。また,20世紀後半には農地の宅地化が急速に進み,降雨の河川への流入速度が早まり,都市河川への負担が大きく水害を発生させやすい状況になっている。
 しかしながら,最近時点で東京大都市圏の都心人口の再増加と,外縁化の一段落がみられ,長期的にも平成18(2006)年に日本の人口はピークに達して減少に転じると見込まれるなど(国立社会保障・人口問題研究所の平成14年1月中位推計),量的な拡大から,コンパクトな都市化への要請が高まり,災害に強い都市づくりの可能性も広がるものと期待される。
(b)過疎化と災害
 20世紀は,上述したように世界的に都市化が進行する一方で,山林地域や農業地域から人口が流出し,耕作放棄地や無人化した地域が拡大した。我が国においても,極めて急激な都市化と同時に,都市の利便性を享受しづらい地域を中心に人口減少が生じ,特に国土の多くを占める中山間地域等において過疎化が進行した。全国土の48%を占める過疎地域には,昭和35(1960)年には1,305万人が居住していたが,現在では全人口の6%,754万人が居住するに過ぎず,平成27(2015)年には555万人にまで減少するものと予測されている。また,過疎地域のコミュニティの基礎単位である集落約4万8千のうち約10%において,人口減少や高齢化の進行等により,地域住民相互の助け合いや農林地等の維持・管理等が困難になっている。
 現在,国土の60%が無人化しているが,このような地域がさらに拡大する結果,国土管理上重要な農地や森林等の管理が行き届かないことから,災害の発生に結びつく可能性がある。また,高齢化や助け合い機能の低下に伴い,このような地域における災害対応がより一層難しくなることが懸念される。
d 新たな災害の態様をもたらす社会経済の変化
(a)高齢化と災害
 我が国の人口は前世紀中に急速に高齢化してきたが,今世紀もこの傾向が継続し,65歳以上人口の比率は,平成12年の17.4%から,平成37(2025)年には28.7%,平成62(2050)年には35.7%にまで達するものと見込まれている(国立社会保障・人口問題研究所の平成14年1月中位推計)。阪神・淡路大震災においては,犠牲者の半数近くが65歳以上の高齢者であったと報告されており,災害時における高齢者対策の重要性を強く示唆している。特に今後,高齢者のみの世帯が大きく増加するものと見込まれることから,高齢者の所在の把握や,生活再建に向けた家族・コミュニティ等の支援体制を整備しておくことが重要である。
(b)ネットワーク化と災害
 高速交通機関や高度情報システム等によって,世界的に経済社会の人,物資,資金等が分かちがたくネットワーク化されるにつれ,災害等により一部の地域が被害を被り機能を停止しただけで,他の地域の経済活動に必要な物資,情報の供給が滞るなど,その影響が広範囲に及んだり,ひいてはネットワーク全体の機能が停止する脆弱性が増加する傾向にある。
 例えば,平成13(2001)年9月11日の米国・ニューヨークでのテロ事件に伴い,邦銀の海外支店等も被害を被るとともに,ニューヨーク証券取引所,ナスダック等の取引所が閉鎖され,世界経済への影響が懸念されたため,金融庁,日本銀行では対策本部を設置して体制を整えるなど,経済的に枢要な地域における大規模災害・事故が,たちまち世界中に波及することが懸念されている。

(2)「自助」,「共助」,「公助」の適切な役割分担に基づく防災対策の必要性
 前項で述べたような長期的課題に対する防災対策を着実に進める必要があるが,我が国経済社会が抱える中期的課題として,ボランティア,NPO等の活動が未だ限定的であること,公的部門が非効率であることが指摘され,「民間でできることは民間で」「地方でできることは地方で」を原則に,簡素で効率的な政府の構築が求められている(「構造改革と経済財政の中期展望」,平成14年1月25日閣議決定)。
 防災政策についても,このような方針を踏まえ,防災に関わる各主体の役割の再確認と見直しが求められており,その基本的考え方について述べれば,以下のとおりである。
 災害から国民の生命,身体及び財産を守ることは行政の最も重要な役割の一つであるが,個々の住民や企業が平常時より災害に対して備えを強化し,一旦災害が発生した場合には自分の身を守り,さらにはお互いに助け合うことも非常に重要である。
 このため,今後の防災対策においては,国民・企業が自らを災害から守る「自助」と,災害時に国民・企業が互いを助け合う「共助」と,国,地方公共団体等行政による施策「公助」との適切な役割分担に基づき,国民,企業,地域コミュニティ・NPO及び行政それぞれが相応しい役割を果たすことが必要である。
[1] 「自助」については,国民一人ひとりが「自らの身は自らが守る」ことを基本として,非常持ち出し品の整備,訓練への参加等日頃からの災害への備えの充実,安全性の高い家具等商品の選択,住宅の耐震化等を進める必要がある。また,企業についても,その従業員と顧客を災害から守ることは基本的な役割であり,計画の策定等防災に対する備えを充実させていく必要がある。
[2] 「共助」については,発災時に地域住民が連携して,初期消火,情報の収集伝達,避難誘導等の活動が円滑に行われることが重要であり,地域コミュニティ・自主防災組織への積極的参加が望まれる。防災ボランティアについても,ボランティア団体同士や行政との連携等により,被災地における救援活動において大きな役割を果たすことが期待される。また,企業活動が拡大・複雑化して社会に与える影響が大きくなっていることから,企業が災害時に人員・資材等を地域社会に提供したり,平常と同様の企業活動を営むことにより円滑な地域経済の復旧等の役割を果たすことが期待される。
[3] 「公助」については,行政として平常時から災害に強い国づくりのための基盤整備の推進,防災・危機管理体制の確立に努めるとともに,「自助」及び「共助」が円滑に行われるよう,情報公開による国民・企業との防災に関する情報の共有と併せて,正しい防災知識を会得する機会の提供等普及・啓発の推進,住宅への耐震診断・改修への支援,防災ボランティアの活動環境整備を推進する必要がある。なお,「公助」は,国民が義務として納めた税金で行われるものであるから,対象となる行為そのものに公共の利益が認められるか,あるいはその状況を放置することにより社会の安定の維持に著しい支障を生じるかを吟味する必要がある。


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