5−2 企業防災の現状と課題



5−2 企業防災の現状と課題


 長引く景気低迷により企業の経営に余裕はなく,特に企業規模の小さい企業を中心に,目に見える収益性の伴わない「企業防災」については積極的に取り組めないのが現状と考えられる。その一方で,国際化・情報化の進展により,従来からは予想もつかなかった事件(誘拐・ネットワーク事故)が発生するとともに,企業活動の拡大・複雑化により,災害等により企業の被った損害が社会全体に大きな影響を与えるようになった。これらに伴い,自然災害をはじめ企業の直面するリスクを総合的に捉え,管理しようとする「リスクマネジメント」に対する企業の関心が増加しつつあるといわれる。
 自然災害が正しくリスクの中で位置づけられ,企業における対応が進むことが望ましいと考えられることから,企業のリスク及び自然災害に係る認識・対策の現状と課題を明らかにするため,東京都,神奈川県,静岡県及び愛知県に本社を有する東証一部・二部・ナスダック上場企業等1,949社を対象とした調査を行った(平成14年1月実施。アンケート票郵送・回収方式。有効回答数699社(回答率35.9%))。以下にその概要を示す。

(1) 火災・爆発,地震が,ネットワーク障害等新しいタイプのリスクへの認識を上回る

 リスクは「損失発生の可能性あるいは事故発生の可能性」と定義され,本来企業により異なり,またその整理の方法も多様であるが,ここでは,企業の外部・内部に原因があるかを問わず,従業員・顧客に人的損害を与え得る事象として,台風,水害,地震,火災・爆発,労災,テロ・誘拐,製造物責任,ネットワーク障害を取り上げることとした。
 上のうちから,各企業に,リスクマネジメントの対象として捉えているリスクについて尋ねた(重複回答可)。これは,企業として重視しているリスクの順番と捉えられるが,火災・爆発,地震,製造物責任の順となった (図3−5−1)

(図3−5−1)企業の重視するリスク

(図3−5−1)企業の重視するリスク(複数回答可)
 さらに,企業の規模(資本金)別に,自然災害(地震,台風,水害)及び火災・爆発を重視すると回答した企業の割合をみると,火災・爆発については規模により回答率が大きく違わないが,自然災害については,規模が大きいほど重視している企業が多くなる傾向が認められる (図3−5−2)

(図3−5−2)企業規模(資本金)別にみた各リスクを重視する割合

(図3−5−2)企業規模(資本金)別にみた各リスクを重視する割合
(2) リスク中でも自然災害への対策に遅れ,特に規模の小さな企業において対応が不十分と認識

 各リスクについて,その対応状況は現状で十分か否か尋ねたところ,テロ・誘拐,地震,水害,台風といったリスクへの対応が不十分との回答が多く,テロ・誘拐の他は,自然災害について対応が不十分とする企業が多い結果となった (図3−5−3)

(図3−5−3)各リスクへの対応が不十分と回答した企業の率

(図3−5−3)各リスクへの対応が不十分と回答した企業の率
 また,各リスクへの対策が不十分とする企業の割合を規模別にみると,企業の規模が小さい企業ほど値が高くなる傾向があり,全体的に,規模の小さな企業ほど,リスクへの対応について不満・不安を抱えていることを示唆している (図3−5−4)

(図3−5−4)企業規模(資本金)別にみた各リスクの対策が不十分とする企業の割合

(図3−5−4)企業規模(資本金)別にみた各リスクの対策が不十分とする企業の割合
(3) 具体的対策についてはソフト優先の傾向,ハード対策の実施率低い。地域との連携も不十分

 具体的対策ごとにその実施率をみると,組織体制・マニュアルの整備,訓練・教育の実施等ソフト面の対策が上位を占める一方,台風に対する「屋根・外壁の設備改善」36%,水害に対する「重要施設の嵩上げ・防水工事」26%,地震に対する「耐震性チェック」41%,「耐震補強工事の実施」30%と,ハード面の施策の実施率が低い傾向がある。また,「共助」に係る企業の役割として着目されている「地域コミュニティとの連携」については,いずれの災害でも実施度が低い (表3−5−1)

(表3−5−1)災害ごとの具体的施策の実施度

(表3−5−1)災害ごとの具体的施策の実施度(複数回答可)
 なお,地震対策として重要と考えられる「耐震性チェック」及び「耐震補強工事の実施」については,企業の規模に伴う実施率の格差が非常に大きく,規模が小さな企業における対策が進んでいないことが伺われる (図3−5−5)

(図3−5−5)企業規模(資本金)別にみた地震対策の実施割合

(図3−5−5)企業規模(資本金)別にみた地震対策の実施割合
(4) 自然災害対策が進まない原因として,情報及び社内理解の不足が認識されている

 自然災害について,対策が進まない原因につき尋ねたところ,「被害予測がしにくい」「危険分析がしにくい」といった,適切な情報の不足を訴える回答と,「予想される被害に対する社内の意識が低い」「担当責任者の日常業務が忙しい」など,社内において企業防災に取り組むことに対する経営陣・従業員の理解の得られにくさを示唆する回答が多い (表3−5−2)

(表3−5−2)対策の進まない理由(複数回答可)

(表3−5−2)対策の進まない理由(複数回答可)
(5) 企業防災推進における課題

 企業におけるリスクマネジメントの認識は相当程度進んでおり,その中でも自然災害,特に地震については大きな課題として扱われ,問題意識が高い一方で,対策が遅れている。特に,企業の規模により取組みの姿勢に大きな差があり,規模が小さい企業は,対応が進まずその成果も不十分と認識している傾向がみられる。今回のアンケートの対象は上場企業であり,企業全体の中では比較的大きな企業を対象としていることを考慮に入れれば,経営条件の厳しい中,さらに規模の小さな企業については取組みが一層不足しているものと考えられるため,行政としては,幅広い企業に対し,企業防災に関する普及・啓発活動を行っていく必要がある。
 また,自然災害に関する対策が進まない原因としては,正確な情報の不足と,社内の理解の不足を挙げる企業が多い。前者については,ハザードマップ等防災に関する正確なデータを提供することにより,企業が合理的な対策をとれるような環境を整備する必要がある。後者については,経営陣・社員に対する防災教育を進める必要があり,行政としても,各種防災関係機関からの講師派遣等により防災教育を進めやすくする環境整備に努める必要があろう。


所在地 〒100-8914 東京都千代田区永田町1-6-1 電話番号 03-5253-2111(大代表)
内閣府政策統括官(防災担当)

Copyright 2017 Disaster Management, Cabinet Office.