5−3 地方自治体における風水害対策推進のための基礎資料について



5−3 地方自治体における風水害対策推進のための基礎資料について


 国土庁(現内閣府)は,平成12年12月,今後の風水害対策の推進を講じていく上での基礎的資料とすることを目的として,全国の市区町村における豪雨時の洪水・土砂災害等に対する予防対策の実態に関するアンケート調査を実施した。
 その中で,避難勧告の定量的な発令基準については,洪水・冠水に関しては約3割,土砂災害では約2割5分の市区町村でしか設定されておらず,導入が不十分であることが分かった。
 以上の点をふまえ内閣府では,平成14年2月,台風第11号等の大型の台風や集中豪雨があったにもかかわらず大きな被害が生じなかった平成13年度の災害事例について,各地方公共団体が避難勧告を行う際に用いた基準や,住民が自主的に避難する際に用いた災害情報等のヒアリング調査を行った。

(1) 避難勧告基準等の作成

a 基準等の種類
 市区町村長は,災害が発生しまたは発生するおそれがある場合に人の生命または身体を災害から保護するため,避難のための立退きの勧告または指示を行うことができる(災害対策基本法第60条)。
 先進的な市区町村では,過去の災害経験から,避難勧告・指示に先立ち避難準備の呼び掛けを実施している。
 また,全ての災害の危険性を市区町村が判断することは実際上不可能であり,住民の自主的な判断に基づく避難も重要な災害対策として位置付けられ,自主避難すべき兆候等を定めておくことが有効である。
b 事前調査
 避難勧告基準等を作成する前に豪雨時にどのような被害が起こりそうであるか事前に想定を行う必要がある。被害想定は,次のような資料に基づき実施し,必要に応じて専門家の指導を得て実施する。
 ・市区町村の災害履歴(昔からの伝承を含む)
 ・気象注意報・警報および洪水注意報・警報の発令基準
 ・土砂災害危険箇所の分布
 ・河川洪水シミュレーション結果(国直轄の1級河川について順次整備中)
 ・河川洪水および内水氾濫の危険箇所と予想浸水深さ(地形図や土地分類図などを利用)
 ・居住者,避難所,公共施設等の分布
 ・地区ごとの住民コミュニティの活発度合い(広報手段や避難誘導方法に考慮)
 ・他市区町村の主な災害事例
c 災害ごとの基準例
 先進的な市区町村で用いられている基準の具体例を以下に示す。各市区町村の実状に応じて定量的な基準を設定することが望ましい。ただし,機械的に運用して良いものではなく,基準の精度および受け手である住民の反応などを考慮した運用を心掛ける必要がある。
 [1]土砂災害
 定量的基準を持つ市区町村の多くは,昭和44年消防庁通知による警戒態勢をとる場合の基準雨量例を用いている。また,独自に土砂災害発生監視システムを作成し,定められた実効雨量をもとにきめ細かく基準を設定している事例もあった。

(表2−5−4)土砂災害に関する昭和44年消防庁通知による警戒態勢をとる場合の基準雨量例

(表2−5−4)土砂災害に関する昭和44年消防庁通知による警戒態勢をとる場合の基準雨量例
 [2]河川洪水
 定量的基準としては,一定の河川水位を超えかつ一定の時間雨量を超えるときに発令するという事例がある。出動水位や計画高水位は河川ごとに定められており,参照雨量は河川の豪雨時の挙動を踏まえて設定する必要がある。

(表2−5−5)河川洪水に関する避難勧告基準等の例

(表2−5−5)河川洪水に関する避難勧告基準等の例
 [3] 内水氾濫
 時間雨量が一定の値を超えるとき,または,排水ポンプを停止するとき(排出先の河川水位が一定値を超える)といった定量的基準がある。こうした基準は過去の災害履歴から設定されることが一般的である。

(表2−5−6)内水氾濫に関する避難勧告基準等の例

(表2−5−6)内水氾濫に関する避難勧告基準等の例
d 避難所の指定
 過去の災害において避難所が土砂災害に見舞われた事例や1階が浸水した事例がある。風水害に対する安全性を確認した上で避難所を指定・運用する必要がある。

(2) 避難勧告基準等の運用

a 事前周知
 避難勧告基準等を作成した場合,防災マップ等を利用するなど住民に対して事前に十分に周知しておく必要がある。
b 発令体制
 住民に対して的確に避難勧告等を発令できるよう,市区町村の防災担当者が気象注意報・警報および洪水注意報・警報の発令を察知できる仕組みを導入するなどの体制を備える必要がある。
c 情報収集
 気象庁による降雨データおよび河川管理者による水位データは,各市町村において入手可能であると思われるが,避難勧告等の発令を判断するためには,豪雨や河川水位の今後の予測および災害現場の状況を的確に把握することが不可欠である。先進的な市区町村においては,防災担当者が以下のような相手と電話で直接に情報交換できる体制が整っている。
 ・地元の気象台
 ・河川管理者(国,都道府県)
 ・河川上流および近隣の市区町村
 ・気象情報会社(必要に応じて契約する)
 ・災害情報モニター(必要に応じて自主防災会長やタクシー会社などを指定する)
 ・消防本部(電話回線と応対者を確保する)
d 避難勧告等の発令
 住民が避難に要する時間を考慮し,時間的な余裕を持って避難勧告等を発令する必要がある。こうした点からも避難準備呼びかけの実施が有効である。また,豪雨災害は,内水氾濫,中小河川による洪水,大規模河川による洪水の順番で起こるケースがあるが,河川洪水の危険性が増して避難勧告を発令した時点で既に内水氾濫により腰の高さまで浸水があり避難行動自体が危険な事態となることも考えられる。こうした事態とならないよう,被害の進展をよく理解した上で避難勧告等を発令する必要がある。
e 住民への広報
 避難勧告等の発令を住民に広報する際,過去の災害事例において広報が雨音で聞こえなかった,発令を知っていたが避難しなかったなどの問題点が指摘されている。市区町村の実状に合わせて,以下の方法を併用することが望まれる。
 [1] 従来の広報
 街頭スピーカー(防災行政無線),サイレン・半鐘,広報車などであり,多くの市区町村で導入されているが,雨音で聞こえにくい,受け手が切迫感を感じないなどの問題がある。
 [2] マスコミの活用
 市区町村がラジオ放送やテレビ放送(テロップ表示を含む)を要請する。気象注意報・警報発令時あたりから随時,関連情報を放送すれば,住民の関心が高くなり,広く避難勧告等の発令を周知することができる。
 [3] 対面広報
 特に独居高齢者などの災害時要援護者に対しては,消防団や自主防災組織による対面声掛けが最も有効かつ的確な方法である。
f 住民の避難誘導・収容
 避難経路上の要注意箇所に水防団・消防団の協力を得て,必要に応じて警戒要員を配備する。また,独居高齢者などの災害時要援護者に対しては,予め選定した者が避難を援護する仕組みを導入することが望ましい。
g 避難勧告等の解除
 一度避難した住民が雨が収まったと判断して帰宅し被災するケースがある。そのため,避難勧告等を解除する基準も設け,住民に対して的確に広報する必要がある。
h 基準等の改定
 災害を経験した場合,新しい知見が発表された場合,土地利用が大きく変化した場合などに避難勧告基準等の改定を行う。


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