1−5 情報・通信体制の整備



1−5 情報・通信体制の整備


 大規模な地震が発生した時に迅速な災害対策ができるように,気象庁からの地震情報,関係省庁等からのヘリコプターによる被災映像情報,また,地元市町村,都道府県,日本放送協会をはじめとする指定公共機関,その他の防災関係機関からの被害状況・規模に関する情報など,災害に関する第一次情報を的確に収集し,全体的な被害規模や程度を把握するとともに,総理大臣官邸,指定行政機関等へ伝達するための情報・通信体制の整備を推進するため,災害に関する情報の収集・伝達システムの整備を進めており,その概況は以下のとおりである。

(1) 情報収集・伝達システム

 地震・津波情報については,気象庁が全国約600地点の震度計と全国180地点の津波地震観測施設を設置して,地震活動等総合監視システム(EPOS),地震津波監視システム(ETOS)を整備し,地震や津波の観測データの処理・解析を行っている。
 また,消防庁においては,全国約3,400地点に設置した地震計から観測された震度情報を消防庁へ即時送信する「震度情報ネットワークシステム」を整備している。
 独立行政法人防災科学技術研究所においては,全国約1,000か所に設置した強震計によるネットワークの整備が図られており,地震発生時の初動対応等に活用されている。
 雨量・積雪等の情報については,気象庁において,局地的な気象情報の収集を行う地域気象観測システム(AMeDAS)や,気象衛星により雲の分布・高さなどの情報を収集する静止気象衛星システム(GMSS)等が整備され,観測が行われている。また,国土交通省においては,一級河川等を対象として,雨量・水位テレメータ及びレーダ雨量計並びに情報処理設備からなる河川情報システムを整備している。
 これらの地震・津波,雨量・積雪等の情報のうち,気象庁からの情報については,地震・津波等の情報は地震活動等総合監視システム及び地震津波監視システム,雨量・積雪等の情報は,気象資料総合処理システム(COSMETS)により解析,予測等が行われ,気象庁本庁に設置された全国中枢気象資料自動編集中継装置(C−ADESS)を介して内閣府,防衛庁,消防庁,海上保安庁等の中央府省庁に,各管区気象台等に整備されている気象資料伝送網(L−ADESS)からは国土交通省地方整備局及び地方公共団体に直接伝達されているほか,(財)気象業務支援センターから報道機関等を通じ,一般に提供されている。また,国土交通省から,雨量・河川水位等の情報が,インターネット,携帯電話によりリアルタイムに提供されている。

(2) 災害対策用の無線通信ネットワーク

 防災関係機関においては,災害時において有効な通信手段となる無線通信施設の整備を進めている。専ら災害対策に用いられる無線通信ネットワークとしては,中央防災無線網,消防防災無線網,都道府県防災行政無線網,市町村防災行政無線網,防災相互通信用無線等があり,その概要は次のとおりである (図2−1−2)

(図2−1−2)防災関係通信網の概念図

(図2−1−2)防災関係通信網の概念図
a 中央防災無線網
 中央防災無線網は,大規模な災害が発生した時に一般公衆回線が途絶したり,電話の殺到により通信回線が輻輳したりして,その利用が著しく困難な事態に陥った場合においても,非常災害対策本部,総理大臣官邸,指定行政機関,指定公共機関等との間で災害情報の収集・伝達が行えるようにすることを目的として整備している。この中央防災無線網は,大別して固定通信回線(画像伝送回線を含む。),衛星通信回線,移動通信回線から構成される (図2−1−3)

(図2−1−3)中央防災無線網通信系統図(平成14年3月現在)

(図2−1−3)中央防災無線網通信系統図(平成14年3月現在)
(a) 固定通信回線
 固定通信回線は内閣府からの一斉指令通信をはじめ,ファクシミリ,災害映像,各種のデータを中継・伝送する中央防災無線網の基幹回線であり,指定行政機関23機関,総理大臣官邸等の関係機関5機関,指定公共機関17機関及び立川広域防災基地内の関係機関10機関を結んでいる。
 また,国土交通省の専用回線と接続し,被災した都道府県の災害対策本部と総理大臣官邸及び国の災害対策本部を含む防災関係省庁との間で直接連絡がとれるよう通信体制を確立している。
(b) 衛星通信回線
 内閣府から遠隔地にあるために固定通信回線を結ぶことが困難な指定公共機関32機関との間に衛星通信回線を整備している。また,大規模な首都直下型の地震によって中央防災無線網を支える庁舎等が損壊し,中央防災無線網そのものが使用不能になった場合のバックアップ回線として,総理大臣官邸をはじめ内閣府等の指定行政機関,都下の指定公共機関等の48機関との間で衛星通信回線を整備している。
 さらに,国の災害対策本部と現地災害対策本部との間に映像,電話,ファクシミリの通信手段を迅速・機動的に設定するために,全国9拠点に可搬型の衛星通信装置の整備を図っている。
(c) 移動通信回線
 移動通信回線は,災害発生時に公衆回線等に障害が発生した場合にあっても閣僚,災害対策要員等との連絡を確保しようとするもので,都内3か所に基地局を整備し,閣僚,災害対策要員等の自宅のほか,関係省庁に可搬型の無線電話装置を配備して,通信回線を確保している。
b 消防防災無線網
 消防庁と都道府県との間を結ぶ無線網で,地上系及び衛星系で構成されている (図2−1−4)

(図2−1−4)消防防災無線網概念図

(図2−1−4)消防防災無線網概念図
(a) 地上系
 全都道府県に対し電話,ファクシミリによる一斉通報が行えるほか,災害情報の収集・伝達に活用されている。
(b) 衛星系(地域衛星通信ネットワーク)
 消防庁及び全国約4,200の地方公共団体等(平成13年末現在,都道府県等:848,市町村:2,709,消防:547,ライフライン等:250,その他:138)を相互に結ぶ地域衛星通信ネットワークにより,都道府県及び消防本部への電話,ファクシミリによる一斉通報,個別通信による災害情報(画像情報を含む。)の収集・伝達が可能で,地上系を補完するものとして防災通信体制の充実を図るよう推進している。
c 都道府県防災行政無線網
 都道府県と市町村,防災関係機関等との間を結ぶ無線通信網であり,地域防災計画に基づき,災害情報の収集・伝達を行うために,地上系,地域衛星通信ネットワークによる衛星系又は両方式により構成されている (図2−1−5)

(図2−1−5)都道府県防災行政無線網概念図

(図2−1−5)都道府県防災行政無線網概念図
d 市町村防災行政無線網
 市町村が災害情報を収集し,また,地域住民に対し災害情報を周知するために整備している無線網であり,市町村庁舎と屋外拡声子局や家庭内の戸別受信機を結ぶ同報系,市町村庁舎(基地局)と車載型・可搬型の無線電話装置又は無線電話装置相互間で運用される移動系及び市町村庁舎,学校,病院等の防災関係機関・生活関連機関をネットワークする地域防災系から構成されている (図2−1−6)
 有珠山噴火災害及び三宅島噴火災害において,同報無線により地域の住民に的確な避難情報等を提供し,人的被害の発生防止に効果をあげている。
e 防災相互通信用無線
 地震災害,コンビナート災害等の大規模災害に備え,災害現場において警察庁,消防庁,国土交通省,海上保安庁等の各防災関係機関との間で,被害情報等を迅速に交換し,防災活動を円滑に進めることを目的とした無線通信であり,国,地方公共団体,電力会社,鉄道会社等に導入されている。
f その他
 総務省においては,地方公共団体等における被害情報の収集や災害応急対策の実施に必要な通信手段の不足に備え,全国の総合通信局等に衛星携帯電話,携帯電話,簡易無線等の無線設備を配備し,要請に応じ貸与できる体制を整備している。

(図2−1−6)市町村防災行政無線網概念図

(図2−1−6)市町村防災行政無線網概念図
(3) 画像情報の活用

 ヘリコプター等による災害現地の画像情報は,災害の全容を的確に把握する上で極めて有効であることから,警察庁,防衛庁,消防庁,国土交通省及び海上保安庁の協力を得て,ヘリコプター映像受信設備等の整備を進め,ヘリコプター災害映像を全国のどこからでも内閣府に伝送できる画像伝送システムの充実・強化を図ってきている。
 さらに,各省庁から送られてきた現地災害画像情報を総理大臣官邸をはじめとする防災関係機関に配信する中央防災無線網画像伝送回線の整備を進めている。
 有珠山噴火災害においては,ヘリコプターによる有珠山の噴火状況,民家の被害状況,有珠山噴火非常災害現地対策本部合同会議の映像を総理大臣官邸・関係省庁等に配信し,災害対策活動に大きく寄与した。

(4) 放送による情報伝達

 災害情報を住民に周知するためには,防災無線網のほか放送の活用が有効であることから,日本放送協会及び一般放送事業者に対して災害発生時の情報伝達について協力を求めることとしている。また,市町村内を放送区域とするコミュニティ放送事業者の多くは,市町村との間で協定を結び,災害対応に関する協力体制を築いている。

(5) 安否確認の情報伝達

 災害が発生したときには,多くの者が家族や知人の安否を確認するが,安否情報の提供はその後の救援活動,復旧活動を円滑に進める上で極めて重要となる。NTTは,ネットワーク技術を活用して日本中に記録装置を分散し,全国で約800万件の安否情報の蓄積が可能な「災害用伝言ダイヤル」サービスを用意して安否確認情報を提供している。

(6) 情報・通信体制の整備に係る今後の課題等

 阪神・淡路大震災の教訓を踏まえ,各防災関係機関においては,大地震に耐え得るよう通信施設の耐震・免震対策,商用電源の停電等に備えた非常用電源の確保及び画像伝送等の機能拡充などの整備を一層推進するとともに,通信回線の多ルート化,衛星通信の導入等による通信網のバックアップ体制の強化,各防災関係機関の通信網相互の連携及び運用方法の確立等の課題にも取り組む必要がある。
 また,各防災関係機関においては,施設面における整備を進めるとともに,運用面においてのマニュアルの作成,周知徹底及びこれに基づく訓練の実施が重要であると考えられる。


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