表示段落: 第1部/第3章


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第3章 国民の防災活動

 災害から国民の生命,身体及び財産を保護することは行政の重要な責務の一つであるが,一人ひとりの国民が「自らの身の安全は自らが守る」という自覚を持ち,平常時より災害に対する備えを心がけるとともに,災害発生時には自発的な防災活動に参加する等防災に寄与するよう努めることが重要である。

 災害発生時の応急対策は,迅速かつ的確な対応が要求されるため,行政機関による活動だけでなく,消防団・水防団,自主防災組織,ボランティア,さらには企業などによる防災活動が重要な役割を担っている。

1 消防団,水防団

1-1 消防団

(1) 消防団の組織

 消防団は,消防組織法の規定により設置された市町村の消防機関で,ほとんどすべての市町村に設置されており,平成12年4月1日現在,全国で3,639団となっている。

 消防団活動を担う消防団員は,通常は各自の職業に従事しながら火災等の災害が発生したときは「自らの地域を自ら守る」という郷土愛護の精神をもって活動している特別職の地方公務員(非常勤)で,平成12年4月1日現在,全国で95万1,069人となっている( 図3-1-1 )。

  (図3-1-1) 消防団員数の推移

 消防の常備化が進展している今日においても,消防団が地域の消防防災において果たす役割はきわめて重要であり,消防本部・消防署(常備消防)が置かれていない非常備町村にあっては,消防団が消防活動を全面的に担っている。

(2) 消防団の活動

 消防団は,常備消防と連携しながら消火・救助等の活動を行うとともに,大規模災害時等には多くの消防団員が出動し,住民生活を守るために重要な役割を果たしている。

 平成12年においても,有珠山噴火災害では避難誘導や避難後の火元確認や出火防止対策などに奔走するとともに,女性消防団員が避難所を回ってお年寄りに声をかけるなど避難した方々の心のケアに一役買い,精神的な支えとなった。また,三宅島等伊豆諸島においては,地震で崩れやすくなったブロック塀等による二次災害防止のため,崩れかけた瓦礫の整理などの活動に従事した。

 日常においても,各家庭の防火指導や防火訓練,巡回広報等住民生活に密着したきめ細かな活動を行っており,地域の消防防災の要となっている。

(3) 消防団の充実強化

 消防団については,都市化による住民の連帯意識の希薄化等近年の社会経済情勢の変化の影響を受けて,団員数の減少,団員の高齢化,サラリーマン団員の増加等が進み,10年前の平成2年と比べて団員数は4.6%減少,団員の平均年齢は1.7歳上昇して36.7歳,また,40歳以上の団員の占める割合は9.8ポイント増の35.1%となっている。

 こうした中で女性団員が着実に増加しており,平成12年4月1日現在,1万176人が活躍し,地域の防災活動において重要な役割を担っている。このような状況に対応し,地域における消防団活動の一層の充実を図るため,[1]施設・設備の充実強化,[2]各種媒体を通じたPRの実施,[3]消防団と地域の自主防災組織等との連係及び[4]消防団員の処遇の改善を図る措置等を講じている。

 なお,消防施設及び人員の配備の指針となる「消防力の基準」(消防庁資料)が平成12年1月に全面改正され,消防団に関しては,これまでの活動実態を踏まえ,消火や火災の予防等に加え,地震・風水害等の災害の防除や地域住民に対する啓発等の活動が消防団の業務として明記された。

1-2 水防団

(1) 水防団の組織

 水防は古くから村落等を中心とする自治組織により運営され発展してきた歴史的経緯等から,第一次的水防責任は市町村(あるいは水防事務組合,水害予防組合)が有している。

 水防法ではこれらの団体を水防管理団体として定め,水防事務を処理させることができることとしており,平成12年4月1日現在,全国で3,256の水防管理団体が組織されている。

 水防団員は,消防職団員とともに水防管理団体(水防管理者)の所轄のもとに水防活動を行うこととなっており,平常時は各自の職業に従事しながら,非常時には水防管理者の指示により参集し水防活動に従事している。平成12年4月1日現在,専ら水防活動を行う水防団員は17,730人となっている( 図3-1-2 )。

  (図3-1-2) 水防団員の推移

(2) 水防団の活動

 洪水,高潮等による災害を防止するための水防活動は的確かつ迅速な行動が最大限に求められることから,事前の綿密な計画と十分な準備が必要である。

 このため,都道府県は,[1]水防上必要な監視,警戒,通信,連絡,輸送,[2]水防管理団体相互間の協力応援,[3]水防に必要な資機材・設備の整備及び運用などについて定めた水防計画を策定している。

 水防団は,災害発生時の洪水や高潮等の被害を最小限にくい止めるための活動のほか,水防月間や水防訓練その他の機会を通じて広く地域住民等に対し水防の重要性の周知や水防思想の高揚のための啓発,訓練及び危険箇所の巡回・点検等の活動を行っている。

(3) 水防団の充実強化

 水防団員数は,最近の水防そのものに対する認識の低下と相まって減少傾向にあることに加え,大都市周辺における地域外勤務による昼間不在あるいは季節的地域外勤務による長期不在のため,現実に出動できない団員の増加等が進んでいる。

 このような状況に対処するため,水防管理団体は,毎年,情報伝達訓練,水防技術の習得,水防意識の高揚等を目的とした水防団員等に対する水防演習を実施している。

 また,水防団の活動に関する住民へのPRと水防団への参加を呼びかけるとともに,水防団員の処遇等の改善措置が図られている。

2 住民による自主防災活動の推進

2-1 自主防災組織の設置状況

 自主防災組織は,地域住民が「自分たちの地域は自分たちで守ろう」という連帯感に基づき自主的に結成する組織で,平成12年4月1日現在,全国3,252市区町村のうち2,472市区町村で設置され,その数は9万6,875で,組織率(全国世帯数に対する組織されている地域の世帯数の割合)は56.1%となっている。この組織毎の都道府県毎の値を示すと 表3-2-1 のとおりである。

  (表3-2-1) 都道府県別自主防災組織の組織率(単位:%)

 このほか,「婦人防火クラブ」,「幼年消防クラブ」や「少年消防クラブ」が設置され,全国で様々な活動を行っている。

2-2 自主防災組織の活動

 自主防災組織は,平常時においては防災訓練の実施,防災知識の啓発,防災巡視,資機材等の共同購入等を行い,災害時においては,初期消火,住民等の避難誘導,負傷者等の救出・救護,情報の収集・伝達,給食・給水,災害危険箇所等の巡視等を行うこととしている。

  

 平常時の自主的な防災活動

 神奈川県横浜市港南区の「ひぎり自主防災懇談会」は,小学校・中学校の通学区を範囲にした防災拠点の住民を対象に,毎年,「防災フェアの開催」,「新聞紙を燃料にした炊き出し等の訓練」,「防災ウオーク」,「救急救命等の講習会」,「広報誌の発行」等,地域の防災力の向上に向けた自発的な取り組みを行っている。

  

2-3 自主防災組織の充実強化

 自主的な防災活動が効果的かつ組織的に行われるためには,自主防災組織の整備,災害時における情報伝達・警戒体制の整備,防災用資機材の備蓄,大規模な災害を想定しての防災訓練などの積み重ねなどが必要である。

 「自主防災組織の充実を図ることは市町村の責務」としている災害対策基本法の趣旨を踏まえ,特に市町村においては,今後とも[1]テレビ等による啓発及びリーダー研修会による指導,[2]防災活動用の資機材整備のための助成,[3]防災に関する情報の積極的な提供などの施策の促進と,住民が参加しやすい環境づくりに努め,防災組織の育成と活動の一層の推進を図っていく必要がある。

  

 自主防災組織への支援

 総務省消防庁では,コミュニティ防災資機材等整備事業などにより,市町村の行う自主防災組織活動を支援している。

 静岡市においては,市内のすべての町内会に組織されている自主防災組織を対象に,「避難路や危険個所の確認」,「防災資機材の取扱訓練」,「防災指導員制度の導入」,「防災技能者の育成」,「防災座談会」,「防災委員研修」,「啓発パンフレット配布」及び「防災マップ配布」等を通じて災害時の対応能力の強化を図っている。

  

3 防災とボランティア

3-1 災害時におけるボランティア活動の環境整備

(1) 災害時におけるボランティアの位置付け

 我が国において,災害時におけるボランティア活動の重要性については,雲仙岳噴火災害や阪神・淡路大震災等で多くのボランティアが自主的な救助活動を展開し,災害対策を迅速かつ的確に展開する上でボランティア活動の果たす役割の重要性があらためて認識された。

 このような状況を背景として,国においては,ボランティアの活動環境の整備等のため,次の施策を講じている。

 平成7年7月改訂の「防災基本計画」で,「防災ボランティア活動の環境整備」及び「ボランティアの受入れ」に関する項目が設けられた。

 平成7年12月改正の「災害対策基本法」で,国及び地方公共団体が「ボランティアによる防災活動の環境の整備に関する事項」の実施に努めなければならないことが法律上明確に規定された。

 平成9年2月の閣議決定で,国内において災害時の社会奉仕活動に従事している者が不慮の死を遂げた場合,一定の条件を満たすときは内閣総理大臣が褒賞を行うこととした。

 平成10年12月施行の「特定非営利活動促進法」において,ボランティア団体等のNPO(民間非営利組織)が法人格(特定非営利活動法人)を取得する途が開かれることとなった。

(2) 各機関における取組みの例

 国や地方公共団体においては,ボランティアの活動環境のより一層の整備を図るため,次の取組みを行っている。

[1] 国における取組み

 大規模災害時の公共土木施設の被害情報の迅速な収集と施設管理者への連絡等をボランティアとして行う「防災エキスパート制度」

 土砂災害に関して行政への連絡等を行う「砂防ボランティア制度」と,土砂災害に関する危険箇所の点検,調査等を行う「斜面判定士制度」

 地震発生後,建築技術者による被災建築物の応急危険度判定を行う「被災建築物応急危険度判定制度」

 山地災害に関する情報収集活動等を行う「山地防災ヘルパー制度」

 郵便振替口座の預り金をボランティア団体等へ寄附することを総務大臣に委託する「災害ボランティア口座制度」

 全国の災害ボランティア団体の活動内容等と地方公共団体における災害ボランティアとの連携施策の内容に関する情報をデータベース化する「災害ボランティアデータバンク」

[2] 地方公共団体における取り組み

 各地方公共団体においては,ボランティア活動に関する「地域防災計画での位置づけの明確化」,「受入れ窓口の整備」,「事前登録制度の整備」,「講習会の実施」等の措置を講じている。

(3) 今後の課題に向けた取り組み

 内閣府が平成13年1月に東京都豊島区で開催した「防災とボランティアを考えるつどい」(ボランティア団体等との共催)において,「活動の問題点を洗い出す」目的で行ったシンポジウムで,全国から参加いただいた約30名のボランティア等からは,[1]法令や規約等に基づいて行動しなければならない行政機関や団体等の立場への理解が不足していた,[2]ボランティア活動について被災地住民に説明しないまま行動しようとして反感を受けた,[3]それぞれのボランティアが自分たちの看板や独自性にこだわると連携がうまくいかない,等の問題点が提起された。

 ボランティア活動の一層の推進を図っていくためには,前述のボランティアからの問題提起等を踏まえ,[1]ボランティア活動本部等の迅速な立ち上げと円滑な運営のための行政等とボランティアの連携,[2]ボランティア相互間の調整等の能力を有するコーディネーターの確保,[3]企業・団体等の支援活動との連携,[4]健康管理,などの課題に関しボランティア活動に関わる関係者間での意見交換等を重ねながら,活動環境の整備に取り組むことが重要である。

3-2 防災とボランティアの日・防災とボランティア週間

 阪神・淡路大震災において,ボランティア活動が果たす役割の重要性があらためて認識されたことを踏まえ,平成7年12月15日の閣議了解で「防災とボランティアの日」(1月17日)及び「防災とボランティア週間」(1月15日〜21日)が創設され,この週間において,国及び地方公共団体その他関係団体の綿密な協力のもと,講演会,講習会,展示会等の行事が全国的に実施されている。

 平成13年1月に実施された行事を例示すると,次のとおりである。

[1]

 兵庫県は,阪神・淡路大震災の6周年行事として,1月17日に神戸市で「1.17ひょうごメモリアルウオーク」を開催し,一般市民が参加しての「山手ふれあいウオーク・防災訓練」等を行った。

[2]

 福岡県は,1月17日に,講演とボランティア関係写真展等を内容とする「防災安全講習会」,1月19日に,災害対策の検証と実効性の確保を図るための「災害図上訓練」を行った。

[3]

 内閣府は,1月20日〜21日に東京災害ボランティアネットワーク等との共催で,東京都豊島区(池袋)において「防災とボランティアを考えるつどい」を開催し,「シンポジウム」,「負傷者対応訓練」などの行事を行った。

3-3 平成12年度における災害時のボランティア活動事例

(1) 北海道有珠山噴火災害(平成12年3月)

 この災害におけるボランティア活動は,3月31日に設置された「北海道有珠山福祉救援ボランティア活動対策本部」(北海道庁)及び伊達,豊浦,長万部の各現地対策本部を中心に展開された。

 7月31日までのボランティア等は延べ8,500名余で,避難所の世話・警備・管理,被災者の心のケア,情報発信,広報誌配布,物資輸送・配布,引越し手伝い,除灰作業等の活動を行った。

 なお,その後においても,ボランティアによる「湯たんぽ配り」や激励訪問等が繰り返されている。

(2) 東京都三宅島等での火山及び地震活動(平成12年6月)

 三宅島の場合は,7月22日〜23日に,東京災害ボランティアネットワークを中心に136名のボランティアが現地で,各家屋の火山灰の除去作業等の活動を行った。また,住民の島外避難後は,東京災害ボランティアネットワーク及び避難先となっている各地域の福祉ボランティア等が中心となって,避難している方々の電話帳の作成,広報誌の発行,地域でのふれあい集会の開催等の活動を行っている。

(3) 東海地方での大雨による被害(平成12年9月)

 洪水発生直後の9月12日には「愛知・名古屋水害ボランティア本部」(愛知県庁)が設置されるとともに,14日に名古屋市,大府市及び新川町等に「ボランティアセンター」が設置された。延べ19千人余のボランティアが駆けつけて,家具の移動,がれきや土砂の撤去,清掃,避難所の世話,子供のケア,高齢者の介護等の活動を行った。

(4) 鳥取県西部地震(平成12年10月)

 鳥取県においては,災害直後から鳥取県社会福祉協議会及び関係市町村の社会福祉協議会を中心にボランティアセンターが開設され,延べ5,200名を越えるボランティアが駆けつけた。託児所の支援,高齢者・障害者の介護,避難所の世話,家具・部屋・ブロック塀などの片づけ,屋根のシート張り,泥の撤去,家屋周辺の清掃等の活動を行った。

 また,鳥取県及び島根県の「砂防ボランティア」(延べ40名)が,地震発生の翌日から二次的な土砂災害を防止するための活動を行った。

(5) 芸予地震(平成13年3月)

 広島県呉市等においては,災害直後からボランティアセンターが開設され,延べ1,200名のボランティアが駆けつけ,がれきの除去,屋根のシート張り,家屋周辺の清掃等の活動を行った。

 また,愛媛県,広島県,山口県及び高知県の「砂防ボランティア」(延べ82名)が,地震発生の翌日から二次的な土砂災害を防止するための活動を行った。

4 企業防災活動

4-1 企業防災の役割

 災害に見舞われた企業は必ず経済的影響を受け,その影響は一企業のみならず,政府やコミュニティ,一般住民までもが長期的に影響を受ける。しかしながら,景気の低迷,業績低迷による管理コストの削減に伴い,目に見える収益性の伴わない「企業防災」に対して,企業としては積極的に取り組めないのが現状である。企業ではコンピュータ化が進み業務も効率化されるなどのビジネス環境の変化に伴い,防災対策及び災害時の対応策では,従来の考え方では対応できない段階に来ている。特にいわゆるIT革命による取引時間の短縮や電子決済の普及により,非常時の通信回線の確保や電子情報のバックアップ等の防災対策が必要である。

 平成7年7月に改訂された防災基本計画に位置付けられている企業の防災活動には,[1]従業員,顧客の安全確保,[2]事業活動の維持と社会経済の安定,[3]地域防災活動の貢献,の3つの重要な役割を位置づけているが,具体的に実践されている企業はどの程度あるか精査し,不備な点は改善する努力が必要である。

(1) 従業員,顧客の安全確保

 従業員,顧客の安全対策は,施設の耐震化,備品・機器の転倒・落下防止対策,避難路の確保などハード面と従業員の防災教育,マニュアルの周知徹底,防災訓練などのソフト面の二つに分けられる。

 特に,ソフト対策に関しては整備が遅れているのが現状であり,今後は,計画書及びマニュアル,チェックリストなど必要なものを整備していく必要がある。

 それ以外にも,従業員の家族や,取引業者に対する安全対策や安否確認なども盛り込む必要がある。

(2) 事業活動の維持と社会経済の安定

 事業活動を維持する事が,雇用の確保や取引企業の混乱(事業活動維持・倒産等)を防止し,長期的には被災地内外の社会経済の安定や早期復旧・復興につながる。[1]事業活動を維持するための具体的な取り組み,[2]事業活動の中断を最小限にとどめるための対策,[3]取引先,顧客に対する影響を最小限にとどめるための対策等を事前に準備しておくことが重要である。

(3) 地域防災活動の貢献

 企業は,自社の災害対策だけでなく,コミュニティの一員としての役割を果たすことも大切である。企業の持っている資源や特性(業種・業態)を生かし,[1]災害時の物資の支援,[2]行政,住民,ボランティアとの連携,[3]平常時からの災害をテーマにした地域住民との交流などが,これからの企業の課題である。

4-2 企業防災の現状

 平成13年1月,内閣府は委託調査により,企業防災に対する社員の意識の現状と防災計画,マニュアルの現状を把握するために上場(一部・二部・店頭公開)企業全業種3,482社に対して,アンケートを実施した。しかしながら,回収率は6.3%にとどまり,企業の防災意識の低さを露呈する結果となった。以下は,回収分について結果をとりまとめたものである。

 企業防災計画,マニュアルの存在,内容,保管場所等について質問した( 図3-4-1 , 図3-4-2 , 図3-4-3 )。

  (図3-4-1) 企業防災計画,マニュアルの存在を知っているか

  (図3-4-2) 企業防災計画,マニュアルの内容を理解しているか

  (図3-4-3) 企業防災計画,マニュアルの保管場所がわかるか

 企業防災計画,マニュアルの存在については,一般社員にも浸透しているが(74%),内容については,一般社員(41%),経営者(60%)の理解及び浸透度が低い。また,保管場所についても同様の傾向が見られ,管理者がいない場合は防災計画,マニュアルが機能しない可能性がある。

 企業防災計画,マニュアルに記載されている目次の項目については,従業員,顧客の安全確保はほぼ網羅しているが,事業活動の維持と社会経済の安定については,半数程度が記載されておらず,地域防災活動の貢献に至っては4分の1程度しか記載されていない( 図3-4-4 )。

  (図3-4-4) 企業防災計画,マニュアルに記載されている目次の項目

 企業防災計画,マニュアルの想定している災害規模については,阪神・淡路大震災後,各企業が見直しを行ったにもかかわらず,3分の1程度の企業が震度5程度しか想定していない。長期的なライフラインの寸断など大規模災害を想定していないことが伺える( 図3-4-5 )。

  (図3-4-5) 企業防災計画,マニュアルの想定している災害規模

 特に,8割の企業は本社が使用可能という前提での防災計画,マニュアルになっており,自社の建物が倒壊した場合,別の場所で業務を継続するといった体制が整っていない。

 企業防災計画,マニュアルの想定している災害対応の時間については,発災直後(数分後)及び応急対応(72時間後)の従業員,顧客の安全確保を中心とした内容にとどまり,事業活動の維持と社会経済の安定を図るための復旧(数ヶ月),復興対応(数年)に関する記載が少ない( 図3-4-6 )。

  (図3-4-6) 企業防災計画,マニュアルの想定している時間

 特に,壊滅的に被災した場合の企業の方向性を示す復興計画が,ほとんどの企業で想定されていない。

4-3 企業防災の課題

 今までの企業防災の考え方は,災害を防止し被害を少なくするための予防対策と,発生直後に対応するための応急対応が中心に行われてきた。しかしながら,これからは事業を復旧,再開するための計画も防災計画,マニュアルとして準備することが重要である。今後,ますます「グローバル化」「情報化」「ネットワーク化」「IT化」が進んでいくと考えられる。その結果,ほんの数分間のビジネスの中断が自社の金銭的な損失だけではなく,周りの企業や地域社会全体に大きな影響を与える可能性が高いのである。神戸の事例をみても,地震災害による経済的影響は長期的に企業,行政,住民に爪あとを残している。

 また,企業には営利活動組織としての位置付けだけではなく,地域社会に貢献するという企業使命に基づき,災害時に企業の持つ資源(人・物・金・情報)を提供したり,支援したりする体制を整える必要があり,コミュニティの一員としての役割を果たすことが期待される。地域防災活動は一行政・一企業・一個人の取組みだけではなく,企業が行政との相互協力により,積極的にコミュニティを支援することにより災害に強いコミュニティが出来上がる。この為にも企業は災害に見舞われても社員の安全を確保し,事業を継続し,組織として存続し続ける対策をとる必要がある。

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