表示段落: 第1部/第2章/6


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6 火山災害対策

6-1 火山活動と火山災害

 我が国は環太平洋火山帯の一部に位置しているため,多数の火山を有している。いわゆる活火山とは「過去およそ2,000年以内に噴火した火山,又は噴気活動が活発な火山」を言い,日本では86火山にのぼる。活火山の活動による災害要因としては,噴火現象による直接の噴出物(溶岩,火山ガス,火山砕屑物等)によるものから,噴火に伴う現象(火山泥流,山体崩壊,津波等)によるもの,さらに火山性地震,火山性地殼変動と非常に多岐にわたっていることが特徴であるが,代表的な災害要因とその事例( 表2-6-1 )は次のとおりである。

  (表2-6-1) 我が国の火山災害事例

(1) 溶岩流

 火口より噴出した溶岩が地形に沿って流下する現象で,通過域には,破壊・焼失・埋没等の被害を与える。流下速度は,溶岩の性質によって大きく異なり,非常に遅い(時速1km以下)ものから,速いもので時速数十kmになる。

(2) 火砕流

 高温の火山砕屑物(火山灰,軽石等)が,ガスと一体となり高速で流下する現象で,その運動エネルギー及び熱エネルギーにより,通過域に壊滅的な被害を与える。流下速度は時速100kmを超える場合もあり,発生後に避難することは困難である。

(3) 火山泥流

 噴火による火口湖の決壊や融雪等により発生した泥水が岩石や木を巻き込みながら流下する現象で,地形にもよるが,時速30km〜60kmで破壊力が大きい。我が国では冬期冠雪する活火山が北海道を中心に多く,噴火による融雪が泥流発生の引き金として懸念される。

(4) 降下火砕物

 火山灰や噴石等の降下による被害は,多くの火山に共通した災害の一つである。人的被害に結びつくことはまれであるが,火山活動が長期化すると周辺住民の生活に多大な影響を与える。

(5) 火山ガス

 火山の活動に伴い火口や噴気口から大気中に放出される火山ガスの大半は水蒸気であるが,その他に硫化水素,亜硫酸ガス,塩化水素等のような有毒なものを含むことがある。

6-2 火山災害対策の概要

(1) 火山観測研究体制の整備等

a 火山噴火予知計画

 我が国における総合的な火山観測研究体制の整備は,昭和49年からの第1次火山噴火予知計画(昭和48年文部省測地学審議会(現在の文部科学省科学技術会議測地学分科会)建議)以来,数次にわたる計画に基づき進められており,第3次噴火予知計画以降,全国の火山を「活動的で特に重点的に観測研究を行うべき火山」,「活動的火山及び潜在的爆発活力を有する火山」( 図2-6-1 )に分類している。

  (図2-6-1) 第6次火山噴火予知計画による対象火山の分類

 平成10年8月には,平成11年度から15年度までの5年間にわたる計画として「第6次噴火予知計画」を関係大臣に建議した。

b 火山噴火予知連絡会

 火山噴火予知連絡会は,第1次火山噴火予知計画に基づき昭和49年6月から開催され,気象庁に事務局が置かれている。その主な任務は,関係諸機関の研究及び業務に関する成果及び情報の交換,火山噴火に際して,当該火山の噴火現象について総合判断を行い,火山情報の質の向上を図ることにより防災活動に資すること,である。

 平成12年度においては,有珠山・三宅島等の活動的な火山についての総合判断のため,定例会3回のほか,臨時会を2回開催した。さらに,学識者,関係機関の連携のもと,予知連絡会の下で開催された部会において随時火山活動を検討し,結果を気象庁が火山情報として公表した。これらの情報は,地元自治体が行う避難指示の設定・解除,危険区域内の防災作業者の安全確保等,防災対応の判断に必要な情報を与えた。

 特に有珠山噴火の2日前にあたる3月29日には,「今後数日以内に噴火が発生する可能性が高い」旨の予知連絡会見解が気象庁から緊急火山情報として発表された。これを受けて,後述の火山ハザードマップで示された火山災害危険区域内の住民に関係市町長から避難勧告・指示が発令され,噴火前に避難を行った。学識者らの火山活動評価情報に,行政,住民が連携,的確に行動したことで大きな減災効果を発揮し,人的被害を全く出すことはなかった。

c 火山情報の種類と伝達

 前述の有珠山における事例が示すとおり,火山災害の軽減を図るには,火山噴火予知の確立とともに,火山現象の状況を正確かつ迅速に関係行政機関及び付近住民に伝達することが重要である。このため,気象庁では,火山の観測の成果等に基づき,4種類の火山情報を発表している( 表2-6-2 )。これらの火山情報は,速やかに関係省庁,関係地方公共団体等の関係機関や報道機関に伝達され,これらの機関を通じて,一般住民にも伝達されている( 図2-6-2 )。

  (表2-6-2) 火山情報

  (図2-6-2) 火山情報の流れ

(2) 活動火山対策特別措置法等に基づく対策

a 対策の概要

 昭和47年以降,桜島の火山活動が活発になり,周辺地域の農作物等に大きな被害が生じたこと,また,昭和48年に浅間山が11年ぶりに噴火したことなどを契機として,昭和48年7月,住民等の生命及び身体の安全並びに農林漁業の経営の安定を図ることを目的とする「活動火山周辺地域における避難施設等の整備等に関する法律」が制定された。その後同法は,昭和52年の有珠山噴火等を契機として全面的な見直しがなされ,翌年4月,現行の「活動火山対策特別措置法」に改められた。同法に基づき,これまで桜島,阿蘇山,有珠山,伊豆大島,十勝岳及び雲仙岳周辺地域において,避難施設,防災営農施設,降灰防除施設の整備,降灰除去等の事業が実施されており,その概要は( 図2-6-3 )のとおりである。

  (図2-6-3) 活動火山対策特別措置法の体系

b 桜島火山対策

 桜島は昭和30年以降噴火活動が恒常化しており,平成12年においては爆発回数169回,鹿児島地方気象台における年間降灰量は337g/m 2 を記録した。

 桜島及びその周辺地域は活動火山対策特別措置法に基づく避難施設緊急整備地域,降灰防除地域に指定されており,同法に基づき,これまでに避難施設緊急整備事業(昭和48〜57年度),防災営農施設整備事業等(昭和48年度〜),降灰除去事業(昭和53年度〜),降灰防除施設整備事業(昭和53年度〜)等の事業が実施されてきた。

(3) 火山噴火災害危険区域予測図の整備

 火山周辺住民等の防災意識の高揚,地元自治体による適切な防災計画の樹立,適正な土地利用の誘導等のためには,各火山の活動様式や特徴的な災害要因を考慮した,いわゆるハザードマップ(火山噴火災害危険区域予測図)の整備を推進することが必要である。

 国土庁では平成4年に火山噴火災害危険区域予測図作成指針を作成するとともに,平成5〜7年度には火山噴火災害危険区域予測図緊急整備事業を行い,これに基づいて有珠山,三宅島等の10火山においてそれぞれの地方公共団体においてハザードマップが整備された。

 平成12年3月末からの有珠山噴火に際しては,周辺の地方公共団体がハザードマップを参考に事前に適切な範囲の住民避難を指示することで,噴火による人的被害を防ぐことが可能となり,その効果が示された。

 平成13年3月現在,(1)aの13の「活動的で特に重点的に観測研究を行うべき火山」のうち,海底火山である伊豆東部火山群を除く12火山全てのほか,雌阿寒岳,秋田焼山,岩手山の合わせて15火山についてハザードマップが作成・公表されている。

(4) 火山噴火災害危険区域予測図のGIS化

 ハザードマップの有効性は有珠山でも実証されたところであるが,紙地図の状態では記載できる情報量に限界があるとともに,限られた噴火シナリオを想定した火山活動を表現した図となっているため,実際に起こりうるさまざまな活動様態に応じて活用できない場合がある。そこで内閣府においては,ハザードマップを電子情報化してGIS(地理情報システム)上で取り扱い,実際の火山活動に即応したハザードマップを表示できるようにするとともに,必要に応じて防災関連施設の情報や発災後の状況等を付加し,迅速かつ的確な応急対策活動の支援をできるようにするためのシステムを開発している。

6-3 地方公共団体の火山災害対策

 有珠山及び三宅島において大規模な火山災害が発生したこと等に伴い,火山災害対策への関心が高まりつつある。これらの状況にかんがみ,火山周辺の市町村に,防災対策の現況と認識についてのアンケートを実施した。以下,その概要を示す。

(1) 火山対策に対する認識と対策〜危機意識は高まっているが対応は不十分

 「以前と比べて火山災害への危機意識が高まっているか」との問いに対し,「高まっている」(「かなり高まっている」及び「多少高まっている」の回答の合計)とした市町村は65.3%に達し,半数を越えるアンケート対象市町村において,火山災害への危機意識が高まっている。その一方,各市町村の火山災害対策の充足度については67.0%が「不十分」(「やや不十分である」及び「全く不十分である」の回答の合計)と回答している( 図2-6-4及び5 )。

  (図2-6-4) 以前と比べた火山災害への危機意識の高まり(N=124) (図2-6-5) 火山災害への危機意識と比べた対策の充足度(N=124)

 火山周辺の市町村の多くが火山対策についての危機意識を高めているが,火山対策の水準に対しては市町村自身が必ずしも満足している状況にはないことが分かる。

(2) 火山災害対策の状況〜避難場所指定等は進捗しているが,市民への啓発,訓練,ハザードマップの作成は実施率が低い

 多くの市町村において「避難場所の指定」「情報伝達機器の整備」を実施しているとともに「避難時用の食料,飲料水や毛布等の備蓄」等の施策についても3割程度の市町村が実施している( 図2-6-6 )。

  (図2-6-6) 実施済又は実施中の火山災害対策(複数回答可)

 しかしながら,火山災害に対して住民の関心を高めるために実施した施策,及び火山防災訓練については,いずれも「特に実施していない」と回答した市町村が最も多かった( 図2-6-7 , 図2-6-8 )。

  (図2-6-7) 住民の関心を高めるために実施した施策(複数回答可)

  (図2-6-8) 実施した火山防災訓練(複数回答可)

 また,ハザードマップを作成している市町村も過半数に満たず( 図2-6-9 ),作成していても,「有効な火山噴火災害対策が検討されていない」「火山の危険性によるイメージダウンが心配」等の理由でマップを公開していない市町村が作成済市町村中15.4%あった。さらに,ハザードマップを作成しない理由としては,「火山噴火災害の危険性がない,又は切迫していない」とする回答が過半を占めた。

  (図2-6-9) 火山ハザードマップの作成状況(複数回答可)

(3) 火山周辺地域の状況〜火山周辺の居住人口や観光客は多いが,対策は進んでいない

 今回アンケートの対象とした火山周辺市町村の人口の合計は約400万人である。また,火山は観光資源となっている場合が多いことから,火山噴火により危険となる地域を訪れる観光客も年間合計延べ約1000万人(観光客が来訪する1火山あたり50万人)に達している。これに対して,火山災害時に住民や観光客等に対して避難指示・勧告等を行う基準を予め決めている市町村は28.2%にとどまっている( 図2-6-10 )。また,実際に避難指示・勧告を行うこととなった場合の問題点については,「避難指示・勧告を出すタイミングが分からない」とともに,「一旦避難指示・勧告を出した後それを解除する時期が難しい」との回答が多く見られた( 図2-6-11 )。

  (図2-6-10) 住民や観光客等に避難命令・勧告等を出す基準について(N=124)

  (図2-6-11) 避難指示・勧告を出す上での問題点(複数回答可)

(4) 火山との共生 〜噴火の場合の対応もなるべく市町村内で

 火山が噴火した場合に避難が必要と各市町村が想定している区域の人口の合計は,今回のアンケートの結果においては延べ45万人となったが,それらの人々に対しても,半数を超える市町村が市町村外への避難の可能性はない(「あまり可能性はない」と「全く可能性はない」の合計62.1%)と回答している( 図2-6-12 )。火山周辺の市町村は,できる限り地元にとどまれるような火山対策を行いたいと考えている。

  (図2-6-12) 居住者の市町村への避難の可能性(N=124)

 火山に対する危機意識の高まりに応じ,火山周辺の市町村においては,避難場所の指定及び整備等の対策を講じているところである。しかしながら,アンケート調査によると,住民への啓発,訓練,ハザードマップの作成及び公表,観光客への避難勧告基準等の施策については未だ不十分であり,対策全体的にも市町村自らが満足する水準には達していない。また,噴火時の避難においても,できる限り住民が市町村内にとどまれるような対策を意向している。これらを踏まえ,今後とも,住民と火山とが共生できるような,火山対策の充実が重要である。

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