表示段落: 第1部/第2章/4/4-3


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4-3 震災対策の推進

 阪神・淡路大震災においては,昭和55年以前に建築された,いわゆる既存不適格住宅の倒壊等による人的被害が甚大となったことをはじめ,建築物,施設の倒壊により多くの被害が生じたほか,倒壊した建物が道路を遮断し,避難,救急救命,消火,緊急輸送等の活動に著しい支障をきたすことになった。また,老朽木造住宅密集市街地においては,建物の倒壊に加え延焼による大規模な火災が発生し被害が大きくなった。

 このため,防災基本計画において,国及び地方公共団体は,避難路,避難地,延焼遮断帯,防災活動拠点ともなる幹線道路,都市公園,河川,港湾など骨格的な都市基盤施設及び安全な市街地の整備,老朽木造住宅密集市街地の解消等を図るための土地区画整理事業,市街地再開発事業等による市街地の面的な整備,建築物や公共施設の耐震・不燃化,水面・緑地帯の計画的確保,防災に配慮した土地利用への誘導等により,地震に強い国土の形成を図ることとし,これに沿った施策を推進している。

 また,地方公共団体は,地震防災対策特別措置法に基づく地震防災緊急事業五箇年計画等を積極的に作成し,それに基づく事業の推進を図っている。

 このように地震に強い国土を形成するためには,国及び地方公共団体の取組みのみならず,個人住宅をはじめ住民や企業等が所有・管理する建築物の耐震性・安全性の確保や,防災上危険な老朽木造住宅密集市街地の解消など,住民や企業等が主体的かつ積極的に対策に取り組むことが必要であり,国や地方公共団体等においては,その促進のための各種支援を講じているが,今後さらなる取組みが必要である。

(1) 耐震基準の見直しと既存施設の改修

 構造物・施設等の耐震性の確保については,供用期間中に1〜2度程度発生する確率をもつ一般的な地震動(いわゆる「レベル1地震動」)及び発生確率は低いが直下型地震又は海溝型巨大地震に起因するさらに高レベルの地震動(いわゆる「レベル2地震動」)をともに考慮し,前者に対しては機能に重大な支障が生じず,かつ後者に対しても人命に重大な影響を与えないことを基本的な目標とすること等の考え方が防災基本計画に定められている。これに基づいて施設ごとに耐震基準の見直しが行われ,既存施設のうち耐震性の十分でないものについては耐震改修が進められている( 表2-4-3 )。

  (表2-4-3) 主な施設・構造物についての耐震基準と耐震改修の現状

(2) 地震防災緊急事業五箇年計画の推進

 地震による災害から国民の生命,身体及び財産を保護するため,平成7年7月に「地震防災対策特別措置法」が施行された。この法律により都道府県知事は人口,産業の集積等の社会的条件や地勢等の自然的条件等を総合的に勘案して,地震により著しい被害が生じるおそれがある地域について,「地震防災緊急事業五箇年計画」を作成することができることとなり,全都道府県において平成8年度から12年度の計画が策定され,総合的な地震防災対策の推進が図られた( 表2-4-4 )。

  (表2-4-4) 第1次地震防災緊急事業五箇年計画の概要

 「地震防災緊急事業五箇年計画」は,避難地,避難路,消防用施設,地域防災拠点施設等の地震防災上緊急に整備すべき施設等に関する五箇年間の計画で,平成12年度(第1次五箇年計画終了時)までに74%の事業費が全国で執行される見込みである( 表2-4-5 )。

  (表2-4-5) 第1次地震防災緊急事業五箇年計画の推進状況

a 地震防災対策特別措置法の改正

 五箇年計画により実施される事業のうち,特に住民の生命・身体の保護,災害応急対策の充実,被災者の生活の早期安定化に資する事業のうち,補助率が比較的低いものについては,同法に基づいて第一次計画についてのみ財政上の特別措置が設けられていたが,現状の整備状況や対策の重要性から,これらの事業をさらに強力に推進する必要があるために,平成17年度末まで特別措置を継続するよう同法が改正された。

b 第2次五箇年計画の作成

 同法の改正により,全都道府県においては,平成13年度を初年度とする第2次五箇年計画を早急に作成し,さらなる地震防災対策の積極的な推進を図ることとしている。

(3) 都市の不燃化等の推進

 人口の集中する市街地において大規模な火災を防止するためには,建築物の不燃化や防火帯の創設,適切なオープンスペースの確保等による延焼防止対策の推進が必要である。

 阪神・淡路大震災以降,密集市街地における防災街区の整備の促進に関する法律を施行するとともに,都市防災推進事業を創設するなど施策の充実を図っている。

(4) 防災拠点施設の整備の推進

a 広域防災拠点の整備

 大規模災害時において,広域的に連携し,応急対策,復旧・復興活動を迅速・円滑に進めるためには,情報収集や指揮,物資の集配機能等を備えた中核的施設の整備と,緊急輸送ネットワークの形成が必要である。

 内閣府では,立川広域防災基地内に災害対策本部予備施設を有しており,首都直下地震等の発生で首相官邸,内閣府,防衛庁(中央指揮所)が被災により使用不能である場合等の緊急時において,速やかに政府の緊急災害対策本部の設置・運営ができ,約500人に及ぶ参集要員が1週間執務できる体制に整備している。さらに,災害対策本部が設置される場合に直ちに準備を行えるよう,休日を含め24時間体制で要員を配置している。なお,平常時においては,職員の研修・訓練等のほか,展示,情報提供等を通じて防災知識の普及等を図る場として活用している。

 阪神・淡路大震災において,港湾が緊急物資の海上輸送や仮設住宅用地など,市民生活の復興に大きな役割を果たしたことにかんがみ,国土交通省においては,港湾において多目的な利用が可能なオープンスペース等に防災拠点を新たに整備することとしている。また,災害復旧活動の後方支援拠点等となる都市公園の積極的な整備推進を図ることとしているほか,内陸部において河川舟運等を活用した広域避難地,救援活動,資材運搬拠点等のため,道の駅等を活用し,地方公共団体,関係機関等の事業と連携し,総合的に実施することとしている。

b 地域防災拠点の整備

 平成11年度に国土庁(当時)・消防庁で行った調査によると,全国に防災センターは428施設設置されているが,地域的な偏りや各施設間の連携不足等が指摘されているところである。

 国土庁(現内閣府)では,平成8年度に地域防災拠点施設整備モデル事業を創設し,優良な防災拠点施設整備の例を示すことにより,広域的な災害にも対応できる施設の整備を質的量的に推進しているところである。平成12年度までに東京都目黒区など18箇所において施設が完成し,このほか神奈川県横須賀市等において事業を実施しているところである( 表2-4-6 )。

  (表2-4-6) 地域防災拠点施設整備モデル事業実施状況

 なお,昭和53年から平成7年度まで,主に大都市圏において防災基地建設モデル事業を実施し,大阪市など10か所の施設整備を行ってきた。

 今後,地域の中核的な市町村ごとに整備された広域的な防災センターと地域に密着したコミュニティー防災センター等との連携によって,より効果的な防災対策を講ずることができるよう研究していくこととしている。

c 防災まちづくり事業及び緊急防災基盤整備事業による防災施設等の整備

 総務省及び消防庁においては,防災まちづくり事業及び緊急防災基盤整備事業により,地方公共団体の行う防災センター,大型拠点避難施設,コミュニティ防災拠点,ヘリポート,備蓄倉庫,物資搬送拠点施設等の整備の推進を図っている。

(5) 電気・ガス・上下水道・通信網等の機能の確保

 阪神・淡路大震災においては,電気・ガス・上下水道・通信網等の施設が大きな被害を受け,その後の被災者の生活等に大きな影響を与えた。

 そこで,共同収容施設として共同溝等の整備を進めるとともに,代替性を確保するための系統多重化,拠点の分散,代替施設等の整備を図っており,さらに,被害が発生した場合に,これを最小限にするとともに迅速な復旧を可能とする体制の整備,資機材の備蓄を行っている。

(6) 液状化対策

 我が国における大規模地震では,たびたび地盤の液状化が発生しており,平成12年に発生した鳥取県西部地震においても,港湾施設等において大きな液状化の被害が見られた。液状化に対しては,民間・公共の建築物のほか,道路や電気・ガス・上下水道・通信網等について,施設の種類ごとにそれぞれ設計・施工指針の策定などが進められている。

 国土庁では,平成10年度に地方公共団体等が液状化マップを作成するための方法について解説した「液状化地域ゾーニングマニュアル」を作成し,都道府県等に配布することにより,液状化対策を推進しているところである。

(7) 津波対策の推進

 津波は,地域特性によって津波の高さや津波到達時間,被害の形態等が異なるため,地域防災計画等に基づき,地域の特性に応じて,海岸堤防や避難路等の施設整備,津波警報伝達の迅速化による避難の的確な実施等の対策が必要である。

a 津波予報の発表・伝達の迅速化

 地震を観測した場合,気象庁は震源や規模等から津波の有無及びその規模を判定して,津波の発生が予想される場合には津波予報を地震観測後3分程度で発表することとしている。津波予測に際しては,津波の数値シミュレーション技術を利用した予測技術に基づき,府県単位程度の66の予報区( 図2-4-3 )に対して,津波の高さ・到達予想時刻を具体的な数値で発表することとしている。

  (図2-4-3) 津波予報区

 発表された津波予報は,予警報一斉伝達装置やオンラインのほか,緊急防災情報ネットワークや静止気象衛星(ひまわり)を活用して,ただちに地方気象台,測候所等へ伝えられるとともに,受信端末を設置している防災関係機関や報道機関にも提供されている。また,それぞれの機関から住民,船舶などに伝達される( 図2-4-4 )。

  (図2-4-4) 気象業務法に基づく津波予報の法定伝達ルート

 海外で発生した大きな津波が日本沿岸まで伝搬し,大きな被害を及ぼすことがある。日本から遠く離れた太平洋沿岸で発生した大地震に伴う津波に対しては,気象庁は米国海洋大気庁の太平洋津波警報センターと密接な連携を取りながら,我が国沿岸に対する津波の影響を予測し,その情報を発表している。

b 総合的な津波対策の推進

 平成11年の津波対策関係省庁連絡会議(国土庁・内閣官房・警察庁・防衛庁・農林水産省・運輸省・海上保安庁・気象庁・郵政省・建設省・消防庁)において,国民の防災意識を向上させ,津波災害を軽減させるための重要課題として,

[1]

 地域に応じた津波防災対策の推進(津波浸水予測図の活用推進)

[2]

 津波予報伝達の迅速化・確実化の推進

[3]

 被害情報の早期評価・把握と防災機関の連携強化

 を確認し,申し合わせを行った。

 このため,平成10年3月に国土庁,農林水産省,水産庁,運輸省,気象庁,建設省及び消防庁が共同して,「地域防災計画における津波対策強化の手引き」を取りまとめ,津波対策強化の基本的考え方,津波に対する防災計画の基本方針及びその策定手順等を示した。

 さらに,平成11年度以降の新しい津波予報を効果的に活用し,事前に地域の津波による危険性を把握するためには,津波により浸水すると予測される区域を事前に地図上に表示することが有効であるため,同手引きの別冊として,国土庁,気象庁及び消防庁が共同して,津波浸水予測図( 図2-4-5 )の作成方法等を示す「津波災害予測マニュアル」を平成10年3月に取りまとめた。

  (図2-4-5) 津波浸水予測図の例

 国土庁(内閣府)では,当マニュアルに基づいた「津波防災マップ」の作成・普及を促進するため,津波浸水予測図の提供を行うとともに,気象庁,消防庁及び都道府県と協力して,防災担当者に対して津波対策に関する講習会を開催した。

 また,国土庁(現内閣府)では,平成11年度から運用された新しい津波予報に対応して,個々の海岸における津波浸水域を予測するためのデータベースの整備を行い,地震被害早期評価システム(EES)により個々の海岸における津波被害を早期に把握するための推計システムを開発し,平成11年度から運用している。

c 海岸堤防等の整備

 沿岸地域の住家等を津波から守るための海岸堤防(防潮堤),防潮水門,湾口防波堤等の施設が海岸保全施設整備事業として整備されており,これらを所管する農林水産省,国土交通省により「海岸保全行政事務中央連絡協議会」が設けられ,事業実施等の調整が図られている。

 また,平成9年度より,津波等による壊滅的な被害を防止するため,これら水門等の一元的な遠隔操作や地震・津波高等の情報の収集監視を行う施設やシステムの整備を行っている。

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