表示段落: 第1部/第1章/4/(3)


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(3) 経済社会の変化に伴う災害

[1] 都市化と災害

 世界全域の都市人口割合は1950年の29.7%から2000年には47.4%へと増加し,2030年には61.1%になると推計されている(United Nations World Population Prospects:1996年)。都市化した人口は,発展途上国を中心として災害に脆弱な大都市のスラム地域へ集中する傾向にあり,21世紀中には地球の温暖化と相まった大規模な水害やその他の災害の発生が懸念される。

 我が国の場合には,20世紀を通じて人口はほぼ3倍に増加し,それらの人口の多くは都市部において増加した。2000年(平成12年)時点において,全国人口の約3/4が市部に居住するに至っている。都市に集中する人口の圧力が極めて大きかったことから,十分な都市基盤が整備されていない地域や河川氾濫区域及び山地に近接した地域等,災害に対し脆弱な地域においても市街地が形成された。また20世紀後半,農地の宅地化が急速に進み( 図1-4-1 ),降雨の河川への流出速度がかなり速まり,都市河川への負担が大きく水害を発生させやすい状況にもなっている。

  (図1-4-1) 名古屋市の宅地・農地の変化(昭和27年〜平成10年)

 しかしながら,21世紀初頭に日本の人口はピークを打って減少し始めるものと予測されており,都市部においても,今世紀半ばまでには人口減少が始まるものと考えられる。従って,前世紀と異なり,量的な都市化圧力に対応して都市を拡大していくことよりも,コンパクトな都市への要請が高まるものと想定される(OECD対日都市政策勧告:2000年11月)。災害に対して脆弱な土地における市街地の再編成等により,災害に強い都市づくりの可能性も広がるものと期待される。

[2] 過疎化と災害

 20世紀は,上述したように都市化が進行する一方で,山林地域や農業地域から人口が流出し,耕作放棄地や無人化した地域が拡大した。ラテンアメリカ,北部アメリカ,ヨーロッパ等で顕著である。拡大した耕作放棄地や無人化地域においては,適切に自然を管理していくことが難しい面もあり,所によっては土砂流出の発生など災害につながっている。

 我が国においても,前世紀には,極めて急激な都市化と同時に,都市の利便性を享受しづらい地域を中心に人口減少が生じ,特に国土の多くを占める中山間地域等において過疎化が進行した。この傾向は21世紀中も継続し,国土の49%を占める過疎地域の人口は,1995年の797万人から2015年には602万人へ減少すると予測されている。現在,国土の60%が無人化しているが,このような地域はさらに拡大していくこととなろう。この結果,国土管理上重要な農地や森林等の管理が行き届かないことから,国土構造の脆弱性が拡大し災害の発生に結びつく可能性がある。

[3] 高齢化と災害

 世界人口の高齢化は急速に進んでおり,高齢者比率(65歳以上人口/世界の総人口)は2000年の6.9%から2050年には16.4%へ上昇する。先進国の高齢化はさらに速く,高齢者比率は2000年の14.4%から2050年の25.9%へと増加する(United Nations, The Sex and Age Distribution of the World Population:1998)。高齢者は一般的に災害弱者である場合が多く,社会の高齢化が進むと災害時の弱者対策の重要性が増すものと考えられる。

 我が国の場合も,21世紀中に人口構成が急速に高齢化し,高齢者比率は2000年の17.2%から2025年の27.4%へ,さらに2050年には32.3%へと急増すると予測されている。1995年の阪神淡路大震災の場合,犠牲者の約44.5%が65歳以上の高齢者であったと報告されており(阪神・淡路大震災調査報告:土木学会等;1999年6月),災害時における高齢者対策の重要性を強く示唆している。特に今後,高齢者のみの世帯(高齢者単身世帯及び世帯主が65歳以上である夫婦のみの世帯)が1995年から2020年までに600万世帯増加し,2020年には1,120万世帯に達することから,高齢者の所在を把握するとともに,災害時における家族,コミュニティの支援体制等を整備しておくことが重要である。

 一方,年齢が高い人ほど,大地震に備えて消火器や三角バケツ等の防災用品の準備等を行っており,総じて高齢者は災害に対する意識が高いものと考えられる( 表1-4-3 )。コミュニティの互助精神の強化など防災意識の高揚に対する高齢者の貢献が期待される。

  (表1-4-3) 大地震に備えてとっている対策(複数回答,単位%)

[4] ネットワーク化と災害

 高度情報システム等によって,世界的に経済社会の人,物,金等の諸要素が分かちがたくネットワーク化されるにつれ,個々の独立性が低下し,災害等によってネットワークの一部が破壊されただけで,ネットワーク全体の機能が停止するといった脆弱性が増加する傾向にある。

 我が国においては,例えば,1984年の世田谷ケーブル火災において,管内の加入電話,公衆電話が不通になったばかりでなく,区役所,警察,消防など公共機関,さらには金融機関などのオンラインが停止し,広域的に多大な影響を及ぼした(参考:http://xing.mri.co.jp/research/reseach/bousai)。さらに,1998年の大阪における専用回線事故でも同様の混乱が発生し,この場合には航空管制業務にまで影響し,大きな事故災害につながる可能性もあった。

 また,経済的な観点から見ると,一部の地域の災害が国境を越えて多方面に影響を及ぼす可能性が高まりつつある。例えば,G7諸国の国際資本移動の規模(直接投資及び証券投資の合計値の対名目GDP比率)は,最近では10%を越える水準にまで上昇している。大規模な災害等によりこれらの資金の流通が停止するような事態になれば,被災国のみならず世界経済に大きな影響を与えると考えられる。

  

 以上述べてきたように,21世紀中にも人類が新たな災害の脅威にさらされることは明らかであり,犠牲者と被害の軽減を図るため十分に備える必要があることは言うまでもない。

 世界的には,国連が1990年代を「国際防災の10年」と定め,国際防災の10年事務局を中心として,特に途上国における自然災害による人的損失,物的損害及び社会的・経済的混乱を,国際協調活動を通じて軽減するための活動を行ってきた。本活動を終了するに当たり,コフィ・アナン事務総長は,1999年9月に開催された第54回国連総会の事務総長報告の中で,現在,国際社会が自然災害の人的,資金的コストの急増に直面しており,犠牲者に対する救援能力を強化しつつ,その発生を防止するための効果的な戦略を考えなければならない旨指摘した。まさに「Prevention is better than cure(予防は治癒に勝る)」の思想である。

 同総会において「国際防災の10年」期間中に実施された先駆的な取組みを今後とも継続するために,2000年より「国際防災戦略(International Strategy for Disaster Reduction:ISDR)」活動を開始することを決議し,現在,国連・国際機関と連携しつつ災害対応力の強いコミュニティの形成と災害リスクの管理を目指して,防災に関する意識啓発活動等に努めている。21世紀の新たな災害の態様に的確に対応していくためにも,このような国連を中心とした防災活動に積極的に参加していく必要がある( 第4章2 参照)。

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