中央防災会議議事次第

(1) 避難所への入居等の避難生活の段階

  • 1) 避難所の多様化

学校、公民館等の公的施設を避難所とすることは、被災者が多い場合、災害が長期化した場合等に被災者のプライバシーの確保、生活環境を維持・確保する観点から限界が指摘されており、企業の研修施設、保養施設等も含め一層の多様化を図っていくことが必要である。

  • 2) 被災者に関する情報の一元的把握

被災者の生活及び住宅の再建を迅速に進めるためには、個々の被災者の置かれている状況と住宅再建に関する意向をできる限り正確に把握することが不可欠である。そのため、被災者に対して、被災者から提供される情報がその後実施される支援策の充実、多様化につながるものであることを周知することなどにより、被災者の住宅再建に関する意向の把握に努めるべきである。
 また、避難所を利用していない被災者や地域外に避難した被災者の状況をどう把握するかも課題であり、そのためにはテレビ、新聞等マスコミを通じて関連情報を提供するとともに、所在場所等の連絡を呼びかけることが必要である。

(2) 応急仮設住宅への入居等の仮住まいの段階

  • 1) 応急仮設住宅の改善

阪神・淡路大震災においては、応急仮設住宅や災害公営住宅の建設に長時間を要し、被災者は避難所や仮設住宅での生活を長期にわたって余儀なくされた。避難所生活はプライバシーの確保も十分でない不自由なものであり、応急仮設住宅はもとより恒久的な住宅に及ぶものではない。仮住まいの期間は短ければ短いほど良いが、大規模災害が発生し大量の住宅が滅失した場合、仮設住宅の供給なしに済ますことも想定しにくい。
 仮設住宅については迅速な供給を確保するとともに、住環境の改善に努め、可能な限り仮設住宅の提供に代替する手段を準備する必要がある。このため、
1)住宅の補修に対する支援方法を充実・弾力化して仮設住宅の需要を抑制する、
2)社宅、民間賃貸住宅の活用を推進して多様化を図る、
3)用地問題の解決策として自宅跡地への建設を進める、
4)家族数に応じて仮設住宅のタイプの多様化を図る、などの提案があった。

  • 2) 既存の空き住宅ストックの活用

これまで全壊世帯に対する仮住まいの確保に関しては、応急仮設住宅の建設を中心に対応されてきた。しかしながら、既に述べたように、用地確保等の点で迅速かつ大量供給が難しい場合もあること、利用後は社会的ストックとして残らないことなどの課題も指摘されているところである。
 被災者のニーズも多様化していることを踏まえれば、今後は、応急仮設住宅を必要最小限に抑えつつ、状況に応じて公営住宅、民間賃貸住宅等既存のストックの活用を図ることが必要である。
 特に、住宅を失った被災者の立ち上がりを支援することを目的として、被災後の一定期間、家賃負担を軽減することについて検討する必要がある。

  • 3) 住宅の応急修理制度の拡充

災害救助法に基づき地方公共団体が行う応急修理は、日常生活を営むために必要な台所、トイレ等に対象を限定して、その必要最小限の機能回復を応急的に行うものである。
 阪神・淡路大震災などにおいて実施されているものの、実施世帯数、1戸あたりの実施単価はかなり小規模である。これは、施工能力の不足や応急修理の施策があまり知られていなかったことに加えて、自治体が施工業者を決定し、直接実施する形をとっていることに起因していると考えられる。
 今後は、施工業者の選択等については、被災者の選択に委ねるなどの弾力化について検討する必要がある。

(3) 恒久的な住宅の確保の段階

  • 1) 持家再建の促進

持家の再建は、地域の復興にとっては極めて重要な要因であり、社会全体として関心を持つべき重要事項である。このため、地方自治体においては地域独自の特例措置として、利率、返済期間、据置期間の特例措置、借入利子についての利子補給等を行っており、また、国においても住宅金融公庫の災害復興住宅資金貸付等により持家の再建に対する支援を講じているところである。
 二重ローンの問題に関しては、負担が大きいため支援すべきであるという考え方がある一方、既往債務を有していても新規ローンが組めるだけの資力があるという意味で、二重ローンを抱えていることのみに着目した特別な支援は不要であるとする考え方がある。既往債務の返済免除及び公共主体による肩代わりや元本に対する補助は困難であるが、新規ローンの返済や家賃の支出といった新たな住居費負担と合わせた場合に経済的に困窮するケースもあり、住宅金融公庫による既往債務にかかる返済の据置、金利引き下げなどの措置を引き続き講じていくことが必要である。
 高齢により住宅融資を受けることが困難な被災者に対する支援策としては、リバースモゲージに係る提案がある。このような提案については、土地を担保に融資を受け、返済については借受人死亡時に担保不動産を処分して清算する清算型リバースモゲージ及び清算なしで譲渡する非清算型リバースモゲージがある。前者は、阪神・淡路大震災の場合に実例があるものの、後者は依然として提案段階のものである。このようなリバースモゲージは、基本的には平時の施策として先ず検討されるべきものであるが、大災害時における施策という観点からの必要性も指摘されている。このような制度については、地価が下落した場合に担保割れリスクがあることや法制上の問題などの課題が指摘されており、さらに検討を要する。
 また、特に高齢者等の住宅の再建について、個別の再建プラン作りを支援するための専門家を養成していくことも必要であろう。

  • 2) 共助の精神に基づく住宅再建支援

大規模災害によって、住宅という生活基盤を突然奪われた被災者が自力と小額の義援金で立ち直ることは極めて困難である。むしろ大規模災害は、個人の能力を超え、自助努力だけでは到底対処できないリスクであり、それは、災害が頻発する我が国では住宅所有者共通のリスクでもある。
 しかし、住宅は基本的には個人資産であり、公的支援には一定の限界があるため、国民がお互いに助け合う共助の精神に基づく全住宅所有者の加入を義務付ける新たな住宅再建支援制度の創設についての提案があった。この提案は、大規模災害が国民共通のリスクであるとの考え及び住宅再建は被災地域全体の早期復興に資するという公共性があり、国民的な連帯意識の下、「共助」の精神に基づく相互支援制度を創設し、国がこれを支援する方策が現実的であるとする考えである。このような支援制度によって蓄積された資金は、同世代の共助であるとともに世代間の共助ともなる。このような全住宅所有者の相互扶助による住宅再建支援制度は、生活を営む上での一定限度のものを確保するためのものであり、その上の部分、即ち、標準世帯が目標とするような規模までは地震保険、さらにその上には融資制度という3階層を想定したものであるとされている。
 このような提案については、加入を強制することに国民の理解が得られるか、大規模災害の場合の対応をどのように行うか、徴収事務等を誰が負担するかなどの課題があるとの指摘があるところであるが、今後この提案について検討する必要がある。

  • 3) 地震保険制度の拡充

地震保険制度は、昭和39年の新潟地震を契機として地震の危険を担保する保険への要望が高まったのを受けて、国による再保険制度の下に昭和41年に発足した。それ以来、補償内容を半損や一部損まで拡大すること、火災保険契約に原則付帯とし、付帯しない場合は契約者の意思表示を必要とすること、引受限度額の拡大、一回の地震で支払う総支払限度額の引き上げ等の改正が実施されてきたところである。
 保険料の料率体系は、現在、地震危険度に応じて、都道府県単位で地域を4区分、建物構造で木造・非木造の2区分となっている。地震保険普及率(全世帯数に対する保険契約件数の割合。この全世帯数には、地震保険に加入できない世帯も含まれる。)は、平成10年度末で全国平均約15%であり、火災保険への地震保険付帯率は約3割に達しているものの個人財産保全の自衛手段として十分に普及するまでには至っていない。地震保険は「ノーロス・ノープロフィット」の考え方をもとに料率が設定されているが、地震災害が交通事故や疾病等他の保険事故に比べ必ずしも自分の生きている間に遭遇しない可能性が高いなどの特殊性があることから、地震リスクを感じない人達にとっては保険料の割高感を生んでいる(平成10年度末の普及率は、最も保険料が高い東京都で24%強、最も保険料が低域の一つの佐賀県で4%強という状況である)。また、木造・非木造の2区分のため、例えば、近年建てられた住宅は耐震性能が大幅に向上しているにもかかわらず、古くて耐震性能が低い住宅と同一の保険料となっているなど住宅の耐震性能が保険料に反映されていない面は否定できず、これが地震保険の普及の妨げとなっているとの指摘もある。
 したがって、建物構造による被災リスク評価を保険料に反映すべく、現行の保険料率体系を見直し、リスクをより的確に反映したものとすることが必要である。
 地域区分については、被災リスクに応じた詳細な料率設定や、市町村が防災性の向上のための諸施策を実施している場合に、市町村申請による保険料の割引を行うこと等について提案があった。この場合、保険料率の格差がさらに拡大することについてどう考えるか、また、自治体の施策による被害軽減の客観的基準をどのように設定するかなどの観点から検討する必要がある。いずれにしても、住宅の耐震性能の向上や防災意識を高めるための環境作り、さらに国民への啓蒙、普及活動を積極的に行うことが重要である。
 なお、現在は火災保険の保険料等を合計した上で損害保険料控除が認められているところであるが、保険の普及促進を図る観点から、地震保険について別枠で保険料控除制度を設けることについても検討を行うべきである。

  • 4) 公営住宅等の提供

兵庫県が震災後約1年経過した時点で実施した「応急仮設住宅入居者調査」によると、応急仮設住宅入居者のうち、震災前は、民間賃貸住宅居住が約半数、公的借家が約1割となっており、入居家賃については、月4万円以下の比較的低家賃のものが回答者の7割を超える結果となっている。一方、同調査によると、震災後の恒久住宅として約7割の者が公的借家を希望し、民営借家を希望しているのは3%にも満たない結果となっている。これは、比較的低家賃の民営借家が滅失し、その後民営借家は再建されたものの家賃水準が高く入居できないと考えた被災者が、恒久住宅として公的借家を希望したためであると考えられる。
 以上のような状況を勘案すると、従前に民営借家に居住していた被災者が資力等の理由で被災後民営借家に居住できない場合、従前から低所得で公営住宅等に居住していた被災者の場合には、被災者支援及び住宅困窮者の居住の安定を図るという観点から、これまでのように公的借家を必要に応じて提供していくことが必要である。その際、公的借家の効率的整備、民間活力の活用、既存住宅ストックの活用の観点から、新規の建設だけでなく、引き続き買い取りや民間賃貸住宅の借り上げ方式による提供などを柔軟に組み合わせていくことが必要である。

  • 5) 民間賃貸住宅の活用

民間賃貸住宅が被災者の住宅確保の選択肢として一層活用されるためには、被災者向けの民間賃貸住宅の供給を促すため事業者に対する支援を実施すること、民間賃貸住宅入居者への家賃負担の軽減を図ることなどを検討した。
 民間賃貸住宅を建設する事業者に対しては、被災地域において被災者向けの賃貸住宅を建設する場合、住宅金融公庫等の公的な低利融資を引き続き講じておくことが必要である。

(4)平時における対応

  • 住宅の耐震化の促進

大規模地震によって被害を受けた個人住宅の再建支援と並んで重要なのは、住宅の耐震性の強化であり、これが徹底していれば、地震による住宅被害のみならず、何より大切な人命の損失を防ぐことが可能になる。個人住宅の耐震診断を行い、その結果に基づき必要な耐震改修を実施することは、住宅の被害を未然に防いだり被害を最小限に抑えるうえで重要な対策であり、そのコストも再建に比べれば少なく、個人財産である住宅を災害から守る自衛手段として、なお一層活用されることが期待されるところである。
 平成7年12月には「建築物の耐震改修の促進に関する法律」が施行され、建築物の耐震改修促進のための措置が講じられることとなり、また、地方公共団体においては、独自に耐震改修等に関する助成制度を設けているところもある。しかしながら、利用実績をみると個人住宅に関する耐震補強対策が進んでいるとは言い難い。その理由として、耐震診断や耐震改修に関する助成制度を独自に設けている横浜市や兵庫県の調査によれば、耐震改修に要する費用負担の問題とともに大地震の発生とそれに伴う住宅の損壊に対する危機意識が低いことなどが挙げられ、さらには、耐震改修工事に伴い、居住空間や開口部の減少など建物の利便性、快適性が低下するといったマイナスの効果を指摘する意見もある。
 しかし、住宅を所有する者は、その意思によって持家を選択した以上、災害によってそれを失うリスクを可能な限り自助努力により回避するという意識を持つべきである。また、行政においては、耐震補強対策が住宅を災害から守る自衛手段として活用されるよう、例えば、専門家派遣や、標準的な工事の種類、内容とその概算費用、利用可能な融資制度等の情報提供を充実するなど、積極的な誘導策を継続的に実施する必要がある。同時に、充分な耐震性を有する住宅に対する住宅性能評価への反映や地震保険料への反映を通じて、耐震改修による住宅の価値の向上が市場で評価されるシステムを構築するなど、住宅所有者にとってのインセンティブを喚起するための措置の拡充が必要である。

所在地 〒100-8914 東京都千代田区永田町1-6-1 電話番号 03-5253-2111(大代表)
内閣府政策統括官(防災担当)

Copyright 2017 Disaster Management, Cabinet Office.