東京湾臨海部における基幹的広域防災 拠点整備の基本的方向

都市再生本部 首都圏広域防災拠点整備協議会

東京湾臨海部における基幹的広域防災拠点整備の基本的方向

平成13年8月27日


1. 東京湾臨海部における基幹的広域防災拠点の整備の緊急性等

(1) 緊急に整備すべき必要性

東京都心部、横浜市、川崎市及び千葉市等東京湾臨海部の後背地には、人口・諸機能が高度に集積した稠密な市街地が連担しており、一部には老朽木造住宅が密集した、防災上危険な市街地が形成されているとともに、地盤に問題を抱える地域もある。

ひとたび大規模地震が発生すると、多数の構造物等が倒壊し、延焼火災が多発すること等により甚大な被害が生ずることが、阪神・淡路大震災の被災状況からも推定されている。

また、特に東京都心部には、我が国の政治・経済等を担う重要な施設等が立地しているとともに、日中は郊外部から多くの人が通勤するなど、非常に多くの昼間人口を抱えている。

我が国が国際的に重要な立場を占める今日、我が国の政治・経済等の中枢が被災した場合、我が国のみならず、世界のパワーバランスや世界経済に多大な影響を及ぼしかねず、国家的危機に見舞われかねない。

したがって、迅速かつ円滑で効果的な応急復旧活動を展開することにより、人的・物的被害を可能な限り少なくし、早急に諸機能の回復を図る必要があるが、こうした非常に応急需要の高い地域は、現状では大規模なオープンスペースを有する活動拠点を確保することが困難である。

(2) 東京湾臨海部の優位性・有効性

東京湾臨海部は、特に多くの人口や枢要な都市機能が集中する東京都心部、横浜市、川崎市及び千葉市の近傍にあるとともに、扇状に広がる首都圏の人口集中地区の「扇の要」に当たり、応急復旧活動の機動性を確保することが期待されるほか、多様な交通ネットワークの活用やオープンスペース確保の容易性等の特徴を有している。

1 海運・水運の活用

東京湾臨海部は、東京港、横浜港、川崎港及び千葉港等の主要港湾、横浜海上防災基地が位置し、海からのアクセスによる大量輸送が可能であるほか、荒川・江戸川等主要河川を遡上し、河川舟運の利用による内陸部への人員・物資の輸送が可能である。

直下型地震が発生した場合、主要道路網及び鉄道網の寸断や避難車両、滞留旅客の帰宅等に伴う交通の集中により陸上交通が一時的に混乱することが想定されるため、その間、陸上交通ネットワークによる人員・物資の搬送は期待できない恐れがある。

このため、緊急物資等や滞留旅客の輸送、人員派遣に際しては、主要港湾が集中し、主要河川とリンクする東京湾臨海部に耐震強化岸壁等を備えた拠点を置き、海運・水運を活用することで、これらの混乱を避け、効率的な物資配送、人員派遣等が可能となる。

2 空からのアクセス

都市内道路網の被災と交通の集中が相まって交通規制が困難な場合には、阪神・淡路大震災時のように、発災当初はヘリコプターを中心とする航空輸送を活用する必要がある。

東京湾臨海部は、上記の海運・水運の活用に加え、既存の東京国際空港、東京ヘリポート、横浜ヘリポートの活用も含めヘリポートの確保が期待できる等、道路の被災に伴う交通ネットワークのリダンダンシーの確保が期待できる。

3 オープンスペース確保の容易性

基幹的広域防災拠点に必要なオープンスペースの確保に際し、東京湾臨海部は、産業構造の転換が進んでおり、稠密な市街地が広がる内陸部と比較して、オープンスペースの確保が比較的容易である。

(3) 首都圏全体の防災性向上への寄与

東京湾臨海部における基幹的広域防災拠点は、内陸部において発生した地震に対しても、被災地域外の後方支援拠点(大量輸送物資の一次集積地等)としての機能等を果たすことが想定されることから、東京湾臨海部のみならず、首都圏全体の防災性向上にも寄与するものである。


2. 東京湾臨海部において緊急に整備する基幹的広域防災拠点

東京湾臨海部の中でも、横浜市から千葉市までの沿岸部の稠密な市街地の広がりの中央部に位置し、政治や金融・経済の中心であり数多くの枢要な施設が集中する東京都心部に近接するエリアについては、国家戦略上も特に重要であることから、東京湾臨海部において緊急に整備する基幹的広域防災拠点については、東京都心部近傍で稠密な市街地を効率的にカバーすることが可能な位置に整備するものとする。

なお、整備箇所は、必要面積や交通等の条件が整っており、かつ、用地の適正確保(適正な権原の取得)等早期に整備の実現可能性がある箇所とする。


3. 東京湾臨海部における基幹的広域防災拠点の機能、施設等

(1) 備えるべき機能

首都圏広域防災拠点整備基本構想をもとに、東京湾臨海部における基幹的広域防災拠点に備えるべき機能は、以下のとおりである。

なお、必ずしも一箇所において全ての機能を確保する必要はなく、周辺施設利用による機能確保等も視野に入れる。

1 本部機能の確保

被災地の情報収集・集約、被災都県市・関係各機関との連絡調整、応急復旧活動の指揮等を行うことのできる本部機能(関係行政機関、被災都県市、指定公共機関、自衛隊・広域緊急援助隊(警察)・緊急消防援助隊等、各施設の復旧活動要員等(以下、「広域支援部隊」という。)の現地責任者等による合同現地対策本部)を有すること。

2 被災地上空の安全確保

ヘリコプター等救援機等による混雑が予想される被災地上空の安全を確保するため、適切な情報提供等を行うこと。

3 海外救援物資・人員の受入れ

海外救援物資・人員の受入れを効率的に行うため、税関や検疫、入国の手続について、アクセスポイントの設置、情報の集約等を行うこと。

4 緊急輸送物資の中継地点

被災地域外から被災地域内への医薬品・食糧・応急復旧資機材等の救援物資の集積、荷さばき、分配等を行う中継拠点となること。

5 水・食糧等の備蓄

活動要員用又は周辺被災者向けの水・食糧・医薬品・応急復旧資機材等の備蓄が可能であること。

6 活動要員のベースキャンプ

広域支援部隊、防災ボランティア等のベースキャンプとなることが可能であること。

7 医療体制の支援

救助活動と医療活動の適切な連携のための情報共有化、トリアージ(治療の優先順位による患者の振分け)の実施のための資機材・設備の提供等、災害時医療体制の支援が可能であること。

(2) 必要条件

首都圏広域防災拠点整備基本構想をもとに、東京湾臨海部における基幹的広域防災拠点に必要な条件を記述すると以下のとおりである。

1 交通手段の確保

人員・物資の緊急輸送手段のため、複数の交通ネットワーク(陸路・海路・水路・空路)が有効に確保できること。特に、臨海部の特性に鑑み、海上輸送・河川舟運との連携を図ること。

2 通信手段等の確保

災害時にも通信手段、電気・水等が確保されること。

3 一般利用の制限

応急対策活動等を円滑に行うため、被災時には一般利用の制限も可能であること。

4? 平常時利用

都市住民の憩いの場としての利用や訓練・研修の実施、研究開発、ボランティア情報の集約、海外の災害への支援等、平常時における有効利用について十分に配慮すること。

(3) 必要規模

「中央防災会議地震防災対策強化地域指定専門委員会検討結果報告」(平成4年)において設定された19個の直下型地震(M7級)や、各都県市における被害想定により設定された地震によると、東京都心部や横浜市、川崎市、千葉市といった非常に人口が集中している地域においては、死者数10,000〜30,000人、避難者数100〜300万人の甚大な被害が想定されており、非常に広域的に大規模な応急復旧活動を展開する必要がある。

こうした活動の拠点として必要な規模は、おおむね以下のとおりである。

1 本部施設等コア施設

基幹的広域防災拠点のコアとなる施設は、合同現地対策本部を設置する本部施設、初動期等において人員や物資の緊急輸送に資する空路の活用を可能とするヘリポート、海路の活用を可能とする耐震強化岸壁等及び被災地内の物流を管理し、域外から域内への救援物資の中継地点となる一次集積・荷さばき場等である。

本部施設においては、合同現地対策本部として国・被災都県市の職員、指定行政機関の職員、広域支援部隊等の現地責任者等が集結するため、総勢で150〜300名程度が使用することが見込まれる。

これらの人員が使用する建物面積は、阪神・淡路大震災や既に整備されている防災活動拠点の事例から算定すると、これらの人員用の備蓄を含め、おおむね10,000〜15,000?程度と考えられる。

また、救援物資の集積、荷さばき、分配等に必要なスペースについては、阪神・淡路大震災時の実績を勘案すると約20〜40haが必要である。

この他、ヘリポートについては、7〜9機の駐機スポットを整備することとすると、約2〜4haが必要である。

したがって、コア施設としておおむね25〜50haが必要である。

2 応急復旧活動要員のベースキャンプ

被災地外から参集する応急復旧活動要員は、阪神・淡路大震災の実績等を勘案して算出した場合、約10〜15万人となり、これらの応急復旧活動要員のベースキャンプを用意するためには、約400〜900haのオープンスペースが必要となる。

このような大規模なベースキャンプは、全てを基幹的広域防災拠点において確保することは現実的には困難であり、現場へのアクセスの容易性等も考慮しつつ、近接するオープンスペースとの連携を図る必要がある。

ただし、各都県市の地域防災計画において広域避難地として指定されている個所等は、避難生活の場となるため、こうしたベースキャンプとしての活用はほとんど不可能であることに留意する必要がある。


4. 東京湾臨海部における基幹的広域防災拠点の整備

(1) 施設等の整備

1 本部施設等コア施設

本部施設については、合同現地対策本部の設置のため、国・被災都県市の本部員、実働部隊の現地責任者等が一同に会する会議室、司令室・通信室その他機器・機材室、事務室(被災地上空の安全確保や海外からの救援物資・人員の受入れのための事務室を含む)、仮眠室のほか、物資の備蓄倉庫等を整備する。

このほか、被災時に全国から集まる防災ボランティアの活動を支援する防災ボランティア・ネットワーク拠点及び情報通信設備・情報通信ネットワークが一部被災した場合でも災害対策活動や政治・経済等の諸活動が円滑に行われるよう各種情報のデータ・バックアップ・センターとしての活用についても整備手法を含め検討する。

また、輸送中継に係る救援物資・人員及び輸送車両の滞留、物資の荷さばきのためのオープンスペース、空路活用のためのヘリポート、海路活用のための耐震強化岸壁等の整備に加え、輸送車両の取りまわしのため、前面道路幅員を十分に確保するとともに周辺環境への影響も考慮する必要がある。また、悪天候時の機能確保のため、屋根付きの大規模空間や宿泊可能な建築物が併せて利用できるよう、そのあり方、周辺施設利用の可能性も含め今後検討する。

2 活動要員のベースキャンプ

応急復旧活動要員の迅速な対応を可能とするため、ベースキャンプ等のための大規模なオープンスペースを確保することが望ましい。

なお、全ての活動要員のベースキャンプとして機能するには、非常に大規模なオープンスペースを要するため、近接する他のオープンスペース等の活用を積極的に行うものとする。

3 関連施設等

この他、医療施設等との連携が図られていることが望ましい。また、周辺状況等に応じ、液状化対策等を行うものとする。

4 平常時の有効利用

平常時の有効利用に十分配慮し、本部施設については、平常時の管理施設としての活用を図るとともに、広域支援部隊のための訓練施設や防災ボランティア等の研修施設、防災に関する研究施設等として、オープンスペースは一部広域支援部隊の訓練場等としての利用について、その必要性も含め今後検討することとする。

(2) 整備の考え方

東京湾臨海部における基幹的広域防災拠点の重要性・緊急性に鑑み、その整備に当たっては、国としても、関係各機関が連携して主導的な役割を果たすこととする。

全体としては、平常時における広域的な有効利用、被災時における防災活動拠点と、大きく切替えが必要であることや都市再生等の観点にも考慮しつつ、本部施設の整備にあわせオープンスペース等を適切に確保するため、公園等の整備手法を活用する。

また、本部施設等については、もっぱら防災体制の確保のための防災施設として整備するとともに、訓練・研修、研究開発等その他必要となるそれぞれの機能については、具体的な仕様等を想定し、必要な施設ごとに適切に整備手法を選定する。

ただし、東京湾臨海部における基幹的広域防災拠点による便益を考慮し、国・関係都県市が応分の適正な負担を行うものとする。

なお、基幹的広域防災拠点そのものが震災により機能しない事態が生じないよう、万全の対策を講じるものとする。


5. 東京湾臨海部における基幹的広域防災拠点の運用

東京湾臨海部における基幹的広域防災拠点の実効ある運用のため、今後、関係行政機関、関係都県市、指定行政機関及び被災時に活用が見込まれる民間施設管理者等が連携、協力し、運用協定を締結した上で、運用マニュアルを整備する。

同時に、施設の維持管理方法、平常時利用との関係、被災時の一般利用の制限方策についても明確化を図る。



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