首都圏広域防災拠点整備協議会

都市再生本部 首都圏広域防災拠点整備協議会

首都圏広域防災拠点整備基本構想


平成13年8月27日

1. 趣旨・目的

阪神・淡路大震災は、戦後我が国が初めて経験した都市直下型地震であり、稠密な市街地が連担する大都市地域の直下で発生する大規模地震の被害の凄まじさを印象づけた。我が国は地震列島とも言われており、このような直下型地震は、いつ、どこで起きても不思議ではない。

こうした地震に対応するためには、地震発生後の応急活動や復旧・復興だけでなく、地震による被害をできるだけ少なくするよう、事前に対策を講じておくことが必要である。

特に、首都圏においては、直下型地震の切迫性が指摘されているところであり、これまでに「南関東地域震災応急対策活動要領」(昭和63年:中央防災会議決定)、「南関東地域直下の地震対策に関する大綱」(平成4年:同)等により震災対策の充実を図ってきたところである。

しかしながら、戦後の混乱期や高度経済成長期に形成された密集市街地等「20世紀の負の遺産」が今なお残されているとともに、骨格的な環状道路等必要な都市基盤が整備されていないなど、災害に対して脆弱な都市構造となっている。安全・快適で、経済活力にあふれた都市の形成に向け、災害に強い都市構造へと再構築していくことは大きな課題であり、現下その途上であると言える。

このため、来るべき直下型地震に備え、都市構造や地域特性を踏まえた防災活動拠点ネットワークの整備、避難等に活用可能な公園や広場、緑地等緑あふれるオープンスペースの確保、緊急輸送等に活用可能な骨格的な都市基盤の整備など、ゆとりのある都市空間を実現する必要がある。このような防災上安全な都市への再生は、快適で居心地が良く、経済活力に満ちあふれた魅力的な都市への再生と同義である。

本構想は、首都圏における基幹的広域防災拠点の必要性を明らかにし、他の防災活動拠点とのネットワーク化と、中期的な整備構想、運用に関する基本的な考え方について定めるものである。

なお、今後、本構想に基づき、基幹的広域防災拠点の整備を進めるとともに、本構想については、経済・社会情勢の変化等必要に応じて適宜改訂するものとする。また、今後整備される基幹的広域防災拠点については、必要に応じて、「南関東地域震災応急対策活動要領」「南関東地域直下の地震対策に関する大綱」等において位置づけることとする。


2. 基幹的広域防災拠点の定義

「防災拠点」は、広義には避難地・避難所から備蓄倉庫、救援物資の集積所、がれき置き場、応急復旧活動の拠点、本部施設やその予備施設等幅広い概念で捉えられている一方、狭義には本部施設や応急復旧活動の拠点(以下「防災活動拠点」という。)の意味で用いることが多い。

「広域防災拠点」もまた同様であり、市町村域を越えた広域行政圏において、あるいは都道府県域を越えた大都市圏等において応急復旧活動の展開拠点となる施設や、被災地内への救援物資の輸送の中継拠点となる施設等を一般的名称として呼んでおり、その役割、機能、整備主体等は様々である。

本構想においては、こうしたいわゆる広域防災拠点のうち、防災活動拠点として、国及び地方公共団体が協力し、都道府県単独では対応不可能な、広域あるいは甚大な被害に対して的確に応急復旧活動を展開するための施設を「基幹的広域防災拠点」ということとする。

基幹的広域防災拠点は、被災時に国及び地方公共団体の協力の下、広域的な防災活動拠点として機能するだけでなく、平常時には都市のオアシスとして人々が憩う魅力的な都市空間として有効に利活用されるものである。


3. 想定地震と対象地域

(1) 想定地震の考え方

南関東地域における地震は、相模トラフ沿いの地震(M8級)、南関東地域直下の地震(M7級)、房総半島沖の地震(M8級)の3つが考えられるが、このうち、南関東地域直下の地震については、ある程度の切迫性を有しているとされている(「地震防災対策強化地域指定専門委員会検討結果中間報告」(昭和63年))。

一方、相模トラフ沿いの地震については、今後100〜200年のうちには発生する可能性があるが切迫性は有していないとされ、房総半島沖の地震については観測資料の不足のためその発生の可能性を考慮するとされている(同)。

以上の報告を受け、現在、南関東地域における震災対策として、「南関東地域震災応急対策活動要領」、「南関東地域直下の地震対策に関する大綱」等が決定されているところである。

したがって、本構想においては、南関東地域で発生する地震のうち緊急に対策を講ずることが必要な、切迫性の高い南関東地域直下の地震を想定することとし、「南関東地域直下の地震対策に関する大綱」の前提として報告された「中央防災会議地震防災対策強化地域指定専門委員会検討結果報告」(平成4年)において設定された19個の直下型地震(M7級)や都県市の被害想定を参考とすることとする。

なお、長期的には、相模トラフ沿いの地震による被害(関東大震災級)を想定した基幹的広域防災拠点の整備を図っていく必要がある。

ただし、本構想により整備される基幹的広域防災拠点は、南関東地域直下の地震だけでなく、相模トラフ沿いの地震等による被害に対しても有効に機能するものと考えられる。


(2) 対象地域

南関東地域において大規模な地震が発生した場合に、関係機関が効果的な連携をとった総合的な応急対策活動を実施し、広域あるいは激甚災害に対処するための基本的な役割分担等を定めた「南関東地域震災応急対策活動要領」においては、埼玉県、千葉県、東京都及び神奈川県の区域を対象地域としている。

本構想においても、埼玉県、千葉県(千葉市)、東京都及び神奈川県(川崎市・横浜市)を対象とすることとする(以下、「都県市」という。)。


4. 首都圏における基幹的広域防災拠点の必要性等

(1) 首都圏における基幹的広域防災拠点の必要性

1 都県市単独では対応不可能な激甚災害

首都圏は、特に人口や諸機能が高度に集積し、都県境を越えて稠密な市街地が同心円状に連担していることから、ひとたび大規模地震が発生すると、多数の構造物等が倒壊し、延焼火災が多発すること等により甚大な被害が生ずることが、阪神・淡路大震災の被災状況からも推定されている。

我が国が国際的に重要な立場を占める今日、我が国の政治・経済等の中枢である首都圏が被災した場合、我が国の政治・経済のみならず、世界のパワーバランスや世界経済に多大な影響を及ぼしかねない。

したがって、迅速かつ円滑で効果的な応急復旧活動を展開する必要があるが、このような激甚災害では、被災した都県市において全て対応することは人的・物的に困難であり、隣接都県市相互の支援だけでなく、全国から多くの人員や物資が投入され、情報収集活動、救助・救急活動、医療活動、消防活動、緊急輸送活動、施設等の復旧活動等さまざまな応急復旧活動が展開されることとなる。

特に初動期においては、応急対策活動の重要な機能を担う都県市の庁舎や警察署、消防署等が被害を受けたり、交通機能の麻痺のために活動要員自体の参集が困難であったりすること等により適切な初動体制が確保できず、周辺都県市や自衛隊・広域緊急援助隊(警察)・緊急消防援助隊等、各施設の復旧活動要員等(以下、「広域支援部隊」という。)に依存する恐れがある。

2 複数都県市の同時被災

首都圏においては、地震の規模、震源の位置や深さ、地盤特性によって、複数の都県市にまたがり、非常に広範囲にわたり大規模な被害が発生することも十分に想定される。

このように、複数都県市が同時に被災した状況下においては、被災した都県市それぞれにおける応急復旧活動(地域的オペレーション)に加え、それぞれの活動に付随して生ずる被災地域外から被災地域内への人員・物資の流れを適切に処理するとともに、これらの活動が円滑かつ効率的に行われるよう、応急復旧活動の広域的な作業計画の策定や、被災地外からの救援物資・広域支援部隊の現地への配分調整等を行うこと(広域的オペレーション)が必要となる。

したがって、このような広域的オペレーションを行うため、都県市の枠組みを超えて、域外からの活動要員等の活動拠点(ベースキャンプ)や人員の展開・物資の集配等のための中継地点となる、一定の空間(オープンスペース)を備えることが必要である。

なお、首都圏においては、まとまったオープンスペースが限られているとともに、被災時には、その被災地内に現在あるオープンスペースは主として避難地又はその後の避難生活の拠点として活用されることが想定されるため、活動拠点としての機能を果たすことが難しい。

また、現在都県市が整備している防災活動拠点は、原則としてそれぞれの域内の拠点となるものであり、大規模かつ広域的な応急復旧活動の展開に対応することは想定されていない。

3 海外との関係

広域あるいは甚大な被害が発生した場合、阪神・淡路大震災時同様、諸外国から人員・物資の支援の申入れがあることが想定される。こうした申入れは政府間で調整後、それぞれの受入れ先が決定されることとなるが、阪神・淡路大震災の例でも分かるとおり、被災地に直接搬送されてしまうと現場が非常に混乱することが想定される。

したがって、基幹的広域防災拠点においてその配分調整を行い、被災地における活動を展開する必要がある。


(2) 防災活動拠点のネットワーク化

都県市単独では対応不可能な、広域あるいは甚大な被害が発生した場合の応急復旧活動は、複数都県市にまたがる圏域レベルから都道府県レベル、都市レベル、地区レベルまでが連携・連動して行われる必要がある。

したがって、さまざまな応急復旧活動が適切に展開するよう調整し、指示・誘導等を行う司令塔となる基幹的広域防災拠点を中枢として、地域的オペレーションを行う防災センター(地域防災拠点)等が、通信手段の確保、陸・水・空のさまざまな交通手段の活用により連携・連動した防災活動拠点ネットワークの構築を図る必要がある。


5. 基幹的広域防災拠点の機能・条件等

(1) 基幹的広域防災拠点の機能・条件

地震発生後の応急復旧活動は、時間経過に応じて展開される。

まず、被災情報の収集と連絡、要員参集と体制確立、広域支援部隊等応急・復旧対策要員の集散、救助・救急、重篤者の搬送、医療、消防等の応急対策活動が展開され、その後、被災者の救護(避難収容)、救援物資等の輸送、がれきの処理や仮設住宅の建設等が行われる。

基幹的広域防災拠点は、時間経過による活動需要の変化に伴い、それぞれの局面において様々に活用されることが考えられるが、平常時から非常時へ劇的に様相が変化し、陸上交通等通常の交通ネットワークが十分に機能していない状況下で、非常に多くの人命を救助する等の重要な活動を行わなければならない発災後一週間程度に必要な機能等を特に重視する必要がある。

ただし、人命救助等の重要な活動の収束、平常時の流通の回復等市民生活の安定化に伴い、その後に必要となるがれきの一次集積や仮設住宅建設のためのオープンスペースとしても活用が可能である。

なお、特にオープンスペースの確保が困難な首都圏においては、一箇所においてあらゆる機能を確保することが困難であることも予測され、他の防災活動拠点との連携や近接した他の施設との一体的利用により機能を確保することも想定される。

1 備えるべき機能

基幹的広域防災拠点が備えるべき機能は、以下のとおりである。

1) 本部機能の確保

被災地の情報収集・集約、被災都県市・関係各機関との連絡調整、応急復旧活動の指揮等を行うことのできる本部機能を有すること。

このため、関係行政機関、被災都県市、指定公共機関、広域支援部隊の現地責任者等による合同現地対策本部を設置する。

特に初動期においては、被災情報が次第に明らかになっている段階であり、広域支援部隊等も時間経過に従って順次集結することが想定されることから、被災地のどこにどれだけの人員を投入するか等について迅速に調整し、的確に判断した上で、指示・誘導等を行う必要がある。

この他、広域的に利用される緊急輸送道路の早期啓開、救援物資等の輸送活動等物流管理についても適切に調整、指示・誘導等を行う必要がある。

2) 被災地上空の安全確保

ヘリコプター等救援機等による混雑が予想される被災地上空の安全を確保すること。

直下型地震の場合、震度7のエリアを中心とした狭い地域に甚大な被害が集中することが想定され、この上空に、重篤者の搬送や医薬品等緊急物資の輸送、情報収集活動、報道活動等を行うヘリコプター等救援機が集中するため、適切な情報提供等を行う必要がある。

3) 海外救援物資・人員の受入れ

海外救援物資・人員の受入れを効率的に行うため、税関や検疫、入国の手続について、アクセスポイントの設置、情報の集約等を行うこと。

海外からの救援物資や救助隊の申入れがあった際、受入れは被災都県市が行うことが原則であるが、複数の都県市が被災し、非常に混乱していることが想定されるため、受入れ窓口を設置するとともに、いくつかの空港や港湾に分散して到着する救援物資や救援隊についても情報を一元的に扱い、集結場所、ベースキャンプ、投入箇所等に関する調整を行う必要がある。

4) 緊急輸送物資の中継地点

被災地域外から被災地域内への医薬品・食糧・応急復旧資機材等の救援物資の集積、荷さばき、分配等を行う中継拠点となること。

被災地においては、ほとんどのオープンスペースは被災者が避難生活を送っていることが想定されるとともに、さまざまな応急復旧活動が展開され、非常に混乱していることが想定される。こうした状況では、救援物資を直接避難所等へ輸送するのは困難であり、一次集積場所や荷さばき場所を確保することが必要となる。

また、それぞれの被災都県市の各避難所等まで可能な限り過不足なく送り届けるには、全国・世界各国からさまざまな宛先で送られる救援物資を適切に分配する必要がある。

5) 水・食糧等の備蓄

水・食糧・医薬品・応急復旧資機材等の備蓄が可能であること。

本部機能を支える水や食糧、応急復旧資機材等を備蓄するとともに、災害時医療が迅速に行われるよう、医薬品等についても備蓄する必要がある。

なお、基幹的広域防災拠点の規模に応じて、周辺被災者向けの備蓄も可能な限り確保することが望ましい。

6) 活動要員のベースキャンプ

広域支援部隊等の応急復旧要員、防災ボランティア等のベースキャンプとなり得ること。

被災時には、被災地域内の警察や消防、施設管理者の他、全国・世界各国から広域支援部隊や防災ボランティア等の支援人員が投入される。被災地においてほぼ不眠不休の活動を行うこととなるこれらの人員は、現地においては宿泊場所等を確保することが困難な場合が多いことが想定される。

このため、それらの人員の休息・宿泊場所となり、リフレッシュできる場所を確保する必要がある。

7) 医療体制の支援

必要に応じ、災害時医療体制の補完・支援が可能であること。

特に、発災後おおむね24時間以内の重篤者の迅速な搬送のため、救助活動と医療活動の適切な連携のための情報共有化、搬送手段の適切な確保、トリアージ(治療の優先順位による患者の振分け)の実施のための資機材・設備の提供等、広域的な後方医療実施体制の確保を行う必要がある。

2 必要な条件

基幹的広域防災拠点に必要な条件は、以下のとおりである。

1) 交通手段の確保

人員・物資の緊急輸送のため、複数の交通ネットワーク(陸路・海路・水路・空路)が有効に確保できること。

被災時には、大量の人員・物資が輸送されることとなるが、その中継地点等としての機能を持つ基幹的広域防災拠点にあっては、いずれかの交通ネットワークに支障が出た場合でも、他を活用して、応急復旧活動が円滑に行われなければならない。

2) 通信手段等の確保

災害時にも通信手段、電気・水等が確保されること。

基幹的広域防災拠点は、さまざまな応急復旧活動の拠点となることから、運用に必要な通信、電気・水等のインフラを常時確保できる必要がある。

3) 一般利用の制限

応急対策活動等を円滑に行うため、被災時には一般利用の制限も可能であること。

首都圏においては、防災上非常に有用であるオープンスペースが貴重であり、避難所や仮設住宅建設地等として活用されるが、基幹的広域防災拠点は被災地における重要な活動の拠点となるものであり、周辺住民の理解の下、一般利用を制限することも必要である。

4) 平常時利用

都市住民の憩いの場としての利用や訓練・研修の実施、研究開発、防災ボランティア情報の集約、海外の災害への支援等、平常時における有効利用について十分に配慮すること。

直下型地震がいつどこで発生するとも限らないとはいえ、被災時の活用はいわば保険であり、防災以外の観点から、快適で居心地の良い、魅力的な都市への再生、圏域の災害対応能力の向上につながるものとなるよう、十分に配慮する必要がある。


(2) 緊急災害対策本部又は非常災害対策本部との関係

広域あるいは激甚災害においては、政府中枢において緊急災害対策本部又は非常災害対策本部(以下「緊急災害対策本部等」という。)が設置されることとなる。

緊急災害対策本部等においては、災害対策の基本方針を決定するとともに、想定外の事態に直面した場合には制度的枠組みを検討・決定、高度に政治判断が必要な事象等が発生した場合の最終判断等を行うこととなる。

具体的には、

・ 法律や制度的枠組みの決定

・ 非被災都道府県への応急復旧活動要員の応援要請

・ 広域支援部隊の受入れ先の指示

・ 海外への支援要請、海外からの支援申し出への対応、調整窓口

・ 国の予算の確保

等を行う。

一方、基幹的広域防災拠点に置かれる合同現地対策本部においては、都県市単独では対応できない、広域あるいは甚大な被害が生じた地域において、即地的かつ詳細な被災状況や応急復旧活動を把握し、大量の救援物資(海外からの救援物資を含む)や広域支援部隊について数量、搬送手段、配分等を調整するなどの広域的オペレーションを行うほか、初動段階で被災都県市が十分機能できない場合に直接応急復旧活動を展開する。

具体的には、

・ 応急復旧活動の優先順位の判断を行い、日々の応急復旧活動の作業計画を策定

・ 域外からの救援物資、広域支援部隊の受入れ、現地への配分調整

・ 海外からの救援物資、救助隊の受入れ、現地への配分調整

・ 広域支援部隊、海外からの救助隊の現地での活動に関する調整・必要な指示

を行うこととなる。


(3) それぞれの地域の防災活動拠点との関係

被災都県市の災害対策活動の中心となる都県市の災害対策本部等、それぞれの地域の防災活動拠点においては、現場確認等により微細な被災状況を把握し、各組織の応急復旧部隊に広域支援部隊を加えた体制でさまざまな応急復旧活動を展開するとともに、避難者の要望等に対応する。

具体的には、

・ 現場における救助救援活動、ライフライン施設の復旧活動、消火活動等の指揮

・ 住民への救援物資等の供給

・ 住民の要望への対処、情報提供

・ 各避難所の必要物資の把握

を行う。

この他、政府の地方支分局や関係各機関の施設等にあっては、地域の応急復旧活動を直接行うものもあり、地域の防災活動拠点として機能する。

このような地域の防災活動拠点は、基幹的広域防災拠点と通信手段の確保、陸・海・水・空のさまざまな交通手段の活用により綿密な連携・連動を図り、円滑かつ効率的に応急復旧活動を展開する。


6. 基幹的広域防災拠点の候補地

(1) 候補地の立地条件

1 首都圏の都市構造・地域特性から見た立地条件

首都圏においては、東京都心部に特に枢要な都市機能が集中しており、被災すれば我が国の政治・経済等に与える影響が非常に大きい。また、その都心周縁部には防災上危険な木造住宅密集市街地や住工混在地域、都市基盤整備が遅れているスプロール市街地が広がっており、災害に脆弱な都市構造となっている。

一方、交通動線をみると、陸上交通は放射・環状型の広域交通体系の整備が進みつつあるが、環状道路の整備が遅れており、一定のリダンダンシーは確保されているものの今後の整備が急がれる。

海上・水上交通については、3都県が東京湾に面しており、国内外からの大量の物資受入れが可能である。また、東京湾から遡る主要河川(多摩川、荒川、江戸川)について水上輸送の活用が可能であるとともに、緊急用河川敷道路の整備が進んでいる。

空路については、成田・羽田の両国際空港をはじめとしていくつかの飛行場・ヘリポートが常設されており、これらの連携により円滑な航空輸送が可能である。

以上のような都市構造や地域特性を踏まえつつ、基幹的広域防災拠点の機能からみた立地条件は以下のとおりである。

1) 多様な交通手段の確保

陸路・海路・水路・空路の多様な交通ネットワークの活用が可能であること。

特に、発災直後には、想定を上回る地震動により緊急輸送道路が被害を受けたり、沿道建物等の倒壊や避難車両等による交通渋滞により通行機能が一時的に麻痺することも想定し、その復旧・啓開の間の代替交通手段として、ネットワーク全体として地震に対する安定性の高い海路・水路・空路が有効に活用できる必要がある。

2) 海外からの支援受入れ

大規模災害時には、海外からの人員・物資を受け入れることが予想されるため、特に空港・港湾付近等海外からのアクセスを考慮すること。

2 複数の基幹的広域防災拠点による対応の必要性の検討

非常に多数の罹災者が発生し、非常に広範にわたる被災地において、迅速かつ効果的な応急復旧活動を展開する場合、複数の基幹的広域防災拠点による対応が必要となる可能性がある。

詳細については、今後、具体的な地震被害を想定した上で単一の基幹的広域防災拠点が機能するケースと複数の基幹的広域防災拠点が機能するケースを比較等し、広域的オペレーションの展開の迅速性・効率性等を十分に検証する必要があるが、首都圏では、直下型地震により避難者数が100万人を超えるような大規模災害に見舞われることが想定されており(阪神・淡路大震災における避難者数は約32万人)、基幹的広域防災拠点において展開される広域的オペレーションは非常に大規模なものとなるため、一箇所でこれを対処することが困難な場合もあり得る。

また、首都圏においては、まとまったオープンスペースが限られており、全ての機能を一箇所で満たすことは容易ではないことから、いくつかの基幹的広域防災拠点が連携・連動して活動することも想定される。

この場合、基幹的広域防災拠点が同一の直下型地震により同時に深刻なダメージを受けないよう、互いに一定の距離をおいた(おおむね20〜30km程度)複数の拠点での分担・バックアップを図ることが必要となる。


(2) 基幹的広域防災拠点の候補地

1 広域的な防災拠点の現状

「南関東地域直下の地震対策に関する大綱」においては、広域的な防災拠点として以下の3つが位置づけられている。

・ 立川広域防災基地(約115ha)

立川広域防災基地は、内閣総理大臣官邸のバックアップ機能(順位:1官邸、2内閣府(防災担当)、3防衛庁、4立川基地)を有するとともに、多摩地域における災害応急対策活動の拠点とされている。

官邸のバックアップ機能を有するため、災害発生時に緊急災害対策本部又は非常災害対策本部及び関係各機関が集結するための施設が整備されており、合同現地対策本部として活用し広域的オペレーションを実施することも可能である。

また、警察、消防、海上保安庁、自衛隊、食糧、医療等の各施設が併設されているとともに、被災時には隣接する昭和記念公園(180ha)と併せて約300haを確保することができ、広域支援部隊等のベースキャンプとして活用可能である。

したがって、現在においても既に基幹的広域防災拠点として機能していると言うことができる。

しかしながら、今後、地方公共団体との通信手段の確保等合同現地対策本部としての活用のための機能面の充実や運用、平常時の有効利用に関する検討を行う必要がある。

・ さいたま広域防災拠点(約9ha)

さいたま新都心に位置する地方合同庁舎に、関東管区警察局、関東防衛施設局、関東農政局、関東地方整備局等各省庁の地方支分局が集結している。関東地域の災害情報を集中的に管理することが可能であり、各機関ごとに、所管に係る圏域内の指揮命令を司ることができる。

ただし、各機関相互の連絡調整等被災時の運用協定等が整備されておらず、所管別に各機関がそれぞれに行動することになるため、実効ある広域的オペレーションの展開に向け、今後検討が必要である。

また、救援物資の集積・荷さばき、広域支援部隊等の受入れに当たっては、さいたまスーパーアリーナやけやき広場が隣接しているが、広域避難場所に指定されているため、その活用が困難であり、この他に十分なスペースの確保が困難であるなどの問題がある。

・ 横浜海上防災基地(約2ha)

広域的な海上災害の発生に対処する中核拠点と位置づけられており、海上保安庁が所管している。現在、大規模震災等に対処する防災拠点としては想定されていないが、応急復旧活動に係る海上からの支援等が可能であり、その有用性は高い。

このため、国の防災拠点として機能面の整備等を行い、大規模震災時の活用について検討する必要がある。

2 基幹的広域防災拠点の候補地

こうした広域的な防災拠点の現状及び前述の立地条件に鑑み、首都圏における基幹的広域防災拠点は、

・ 特に枢要な都市機能が集中する東京都心部、横浜市、川崎市及び千葉市に近接するエリア

・ 稠密な市街地の外延部に位置する主要環状道路である東京外かく環状道路、主要放射状道路等に隣接するエリア

・ 陸上交通が機能しない場合も海上・水上交通が利用可能な東京湾臨海部や荒川、江戸川等の主要河川に近接するエリア

・ 全国、世界からの支援受入れの拠点となる空港・港湾付近

等首都圏の都市構造の現状及び将来像を考慮するとともに、事業用地の確保や都市住民の合意等実現可能性、限られた予算の中での事業効果の発現について十分検討する必要がある。

具体的には、

・ 人口が特に稠密な東京都心部、横浜市、川崎市及び千葉市に近く、東京国際空港の利用が可能であり、東京外かく環状道路・首都高湾岸線等の主要道路に近接し、東京港等の主要港湾、主要河川による海上・水上輸送が活用できる東京湾臨海部

・ 調布飛行場の利用が可能であり、東京外かく環状道路、中央自動車道、東名高速道路等の主要道路に近接し、多摩川による水上輸送・緊急河川敷道路が活用できる首都西部

・ 東京外かく環状道路、関越自動車道等の主要道路に近接し、荒川による水上輸送・緊急河川敷道路が活用できる首都北部

・ 東京外かく環状道路、常磐自動車道等の主要道路に近接し、江戸川による水上輸送・緊急河川敷道路が活用できる首都北東部

・ 東京外かく環状道路、東関東自動車道、京葉道路等の主要道路に近接し、江戸川による水上輸送・緊急河川敷道路が活用できる首都東部

を候補地として、必要に応じ整備を図ることとする。

なお、特に首都圏全域にわたって非常に甚大な被害が予想され、長期的に震災対策が必要な相模トラフ沿いの地震(関東大震災級)への対応のため、新東京国際空港付近をはじめとする、首都圏中央連絡自動車道(圏央道)とそれぞれの主要放射道路との結節点についても、候補地として今後検討を進める必要がある。

ただし、新東京国際空港は、現状においても海外からの救援物資・人員等の税関、検疫及び入国の手続を行い、基幹的広域防災拠点への中継を行う後方支援拠点となり得る。

これらの候補地については、基幹的広域防災拠点としての整備を行わない場合であっても、その都市構造・地域特性からみた優位性・有効性に鑑み、既存の防災活動拠点、備蓄施設、医療施設等他の防災関連施設との連携と分担を踏まえた位置関係を考慮しつつ、防災活動拠点として整備し、基幹的広域防災拠点とのネットワークを構築することが望ましい。


(3) 東京湾臨海部における緊急整備

こうした基幹的広域防災拠点の候補地のうち、東京湾臨海部については、我が国の政治・経済の中枢であり非常に多くの人口や枢要な都市機能が集中する東京都心部、横浜市、川崎市及び千葉市に近接しているとともに、扇状に広がる首都圏の人口集中地区の「扇の要」に位置するものであり、特に基幹的広域防災拠点として整備する重要性・緊急性が高い。

この地域では、人口・都市機能が高度に集積した稠密な市街地が連担しているため、ひとたび大規模な震災が発生すれば人的・物的に極めて甚大な被害が想定されるとともに、我が国の国政、金融、商業、工業等経済に多大な影響を及ぼし、さらには国際政治・世界経済の混乱を招く恐れがあるなど、国家的危機に見舞われかねない。

また、東京湾臨海部は、陸上交通のみならず、海上交通を利用した大量の物資受入れが可能な港湾機能を有し、主要河川による舟運により内陸部への輸送も確保できるなどの海運・水運の活用、東京国際空港、東京ヘリポート、横浜ヘリポートのほかヘリコプターの臨時離発着場の確保が比較的容易であるなどの空路の活用により、交通ネットワークのリダンダンシーの確保が可能である。

したがって、東京湾臨海部については、基幹的広域防災拠点として可及的速やかに整備する必要がある。


7. 基幹的広域防災拠点の整備

(1) 基幹的広域防災拠点の整備

1 本部施設等コア施設

基幹的広域防災拠点のコアとなる施設は、合同現地対策本部を設置する本部施設、初動期等において人員や物資の緊急輸送に資する空路の活用を可能とするヘリポート、海路の活用を可能とする耐震強化岸壁等及び被災地内の物流を管理し、域外から域内への救援物資の中継地点となる一次集積・荷さばき場等が考えられる。

本部施設については、合同現地対策本部の設置のため、国・被災都県市の本部員、実働部隊の現地責任者等が一同に会する会議室、司令室・通信室その他機器・機材室、事務室(被災地上空の安全確保や海外からの救援物資・人員の受入れのための事務室を含む)、仮眠室のほか、物資の備蓄倉庫等が必要である。

このほか、被災時に全国から集まる防災ボランティアの活動を支援する防災ボランティア・ネットワーク拠点 及び情報通信設備・ 情報通信ネットワークが一部被災した場合でも災害対策活動や政治・経済等の諸活動が円滑に行われるよう各種情報のデータ・バックアップ・センターとしての活用も想定される

なお、輸送中継に係る救援物資・人員及び輸送車両の滞留、物資の荷さばきのためのオープンスペース、空路活用のためのヘリポート、海路活用のための耐震強化岸壁等に加え、輸送車両の取りまわしのため、前面道路幅員を十分に確保するとともに周辺環境への影響も考慮する必要がある。また、悪天候時の機能確保のため、屋根付きの大規模空間や宿泊可能な建築物が併せて利用できることが望ましい。

2 活動要員のベースキャンプ

応急復旧活動要員の迅速な対応を可能とするため、ベースキャンプ等のための大規模なオープンスペースを確保することが望ましい。

なお、全ての活動要員のベースキャンプとして機能するには、非常に大規模なオープンスペースを要するため、近接する他のオープンスペース等の活用を積極的に行うものとする。

3 関連施設等

この他、医療施設等が併設されていることが望ましい。また、周辺状況等に応じ、液状化対策等を行う必要がある。

4 平常時の有効利用

平常時の有効利用に十分配慮し、本部施設については、広域支援部隊のための訓練施設や防災ボランティア等の研修施設、防災に関する研究施設、海外の災害への支援拠点等として、オープンスペースは、公園・緑地や広域支援部隊の訓練場等としても利用できることが望ましい。


(2) 必要な規模の考え方

甚大な被害をもたらす直下型地震の規模は、一般にM7程度と言われるが、震源の深さ、地盤特性、市街地特性等により被害の大きさは変わる。

「中央防災会議地震防災対策強化地域指定専門委員会検討結果報告」(平成4年)において設定された19個の直下型地震(M7級)や、各都県市において行われている被害想定をみると、死者数10,000〜30,000人、避難者数100〜300万人となっており、非常に広域的に大規模な応急復旧活動を展開する必要がある。

こうした活動の拠点として必要な規模は、おおむね以下のとおりである。

・ 本部施設等コア施設

本部施設においては、合同現地対策本部として国・被災都県市の職員、指定行政機関の職員、広域支援部隊等の現地責任者等が集結するため、総勢で150〜300名程度が使用することが見込まれる。

これらの人員が使用する建物面積は、阪神・淡路大震災や既に整備されている防災活動拠点の事例から算定すると、これらの人員用の備蓄を含め、おおむね10,000〜15,000?程度と考えられる。

また、救援物資の集積、荷さばき、分配等に必要なスペースについては、阪神・淡路大震災時の実績を勘案すると約20〜40haが必要である。

この他、ヘリポートについては、7〜9機の駐機スポットを整備することとすると、約2〜4haが必要である。

したがって、コア施設としておおむね25〜50haが必要である。

・ 応急復旧活動要員のベースキャンプ

被災地外から参集する応急復旧活動要員は、阪神・淡路大震災の実績等を勘案して算出した場合、約10〜15万人となり、これらの応急復旧活動要員のベースキャンプを用意するためには、約400〜900haのオープンスペースが必要となる。

このような大規模なベースキャンプは、全てを基幹的広域防災拠点において確保することは現実的には困難であり、現場へのアクセスの容易性等も考慮しつつ、近接するオープンスペースとの連携を図る必要がある。

ただし、各都県市の地域防災計画において広域避難地として指定されている個所等は、避難生活の場となるため、こうしたベースキャンプとしての活用はほとんど不可能であることに留意する必要がある。


(3) 整備の考え方

基幹的広域防災拠点においては、都県市単独では対応不可能な、広域あるいは甚大な被害に対応し、国が現地対策本部を設置し、広域的オペレーションにおいて主体的役割を果たすことから、国としても、関係各機関が連携して主導的な役割を果たすことが求められる。

一方、都県市にあっても、ひとたび被災すれば合同現地対策本部として本部施設を使用したり、広域的オペレーションの対象となることから、都県市にあっても一定の役割が求められる。

したがって、今後整備する基幹的広域防災拠点の個別事情等を考慮し、都市住民との対話を重視しつつ、都市基盤の整備状況等地域の実情に合わせ、適切に整備手法を選択した上で 国・関係都県市が協力して整備し、国・関係都県市が応分の適正な負担を行う必要がある。

なお、基幹的広域防災拠点そのものが震災により機能しない事態が生じないよう、万全の対策を講じるものとする。


(4) 中期的な整備の方向

東京湾臨海部における基幹的広域防災拠点については、その重要性に鑑み、緊急に整備を行うこととする。

なお、他の候補地については、今後、中期的に、首都圏のあらゆる直下型地震に対応できるよう、複数の基幹的広域防災拠点の整備の必要性等について十分な検討を行い、首都圏全体の防災性の向上を図る必要があるが、防災対策の緊急性、被災予測の不確実性やその有効性・実現可能性を十分に考慮する必要がある。

その際、既に整備されている立川広域防災基地との関係について整理する必要がある。


8. 基幹的広域防災拠点の運用

(1) 運用協定の締結

基幹的広域防災拠点の実効ある運用のため、関係行政機関、関係都県市、指定行政機関及び被災時に活用が見込まれる民間施設管理者等が連携、協力し、運用協定を締結した上で、運用マニュアルを整備する必要がある。

特に、広域的オペレーションを行うに当たり、広域支援部隊投入の優先順位の判断方法、広域支援部隊の搬送方法、部隊展開後の指揮命令系統の明確化、関係各機関・都県市の役割分担の明確化、被災地上空の安全の確保方策、海外救援物資・人員の受入れ方策、物流管理の一元化方策等についてきめ細かな対応を定める必要があるほか、基幹的広域防災拠点と地域の防災活動拠点、活動現場まで、周波数帯の統一等関係各機関・都県市における円滑な情報伝達・共有のための措置等を講ずる必要がある。

また、施設の維持管理方法、平常時利用との関係、被災時の一般利用の制限方策についても明確化する必要がある。


(2) 訓練・研修等の実施

整備された運用協定や運用マニュアルに基づき、いざ発災した場合に、迅速かつ円滑に基幹的広域防災拠点を中心とした初動体制の立上げと広域的オペレーションの展開が行われるよう、防災活動拠点ネットワーク全体としての訓練や研修を定期的に実施することが非常に重要である。


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