南関東地域直下の地震対策に関する大綱

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第5章 南関東地域に集積する特殊な機能に対する配慮

1 行政機能等の被災対策

東京の都心部には、国会、国の各行政機関、裁判所等が集積しており、こうした機能が震災により低下又は停止することは、国の内外にわたる大きな社会・経済活動の停滞、混乱をもたらすことが想定される。また、それらの多くの機関においては、震災時こそ高度に機能する必要があるものも少なくない。
このため、行政機能等における地震時の機能維持を図るため、施設・庁舎の構造、設備、情報・通信機器等のハードの耐震性の確保を進めるとともに、貴重な資料等のバックアップの確保等を図るものとする。
この際、各機関において応急対策活動を行う部局のみならず通常業務においても、職員の参集が困難な場合の影響等をあらかじめ把握し、機能の維持及び早期の復旧を図るための必要な対策を講じておく等、準備を推進するものとする。
なお、国等の行政機関は、国会、最高裁判所等と協力して震災対策に取り組むものとする。
さらに、第1章第3節の国土構造における震災対策に関する施策の推進を図るものとする。

2 国際交流・経済機能等の被災対策

南関東地域には多くの外国公館等が存在し、これらの機能が停止することにより、対日本、対アジアの外交機能に多大な影響を与えるおそれがある。さらに、多数の外国人が様々な目的で滞在しており、各国からの関心が高く、そのため支援の申し入れも多く寄せられることが想定される。
このため、国は、外国公館の機能維持のための情報収集、援護体制の整備を図るとともに、国、関係地方公共団体は、平常時から様々な方法により、防災知識の普及、防災教育・訓練の実施に努めるほか、FM放送、掲示板等を活用した震災時の情報収集伝達ルートの整備を推進し、外国人の災害対応能力の向上に努める。また、国は、被災者の親族等に対する入国手続きの迅速化等国外感情に配慮した対応を考慮しておくものとする。
また、海外からのヒト、モノの受入窓口となっている国際港、国際空港においては、管内の秩序維持、混乱防止のための対策を用意しておくとともに、応急復旧のための体制を確保する。
さらに、同地域には、世界経済において大きな地位を占めている金融取引、商取引等の市場も集中しており、これらの機能についてもリダンダンシーの確保、機能に支障を来した際の早期復旧体制の確立を図っていくものとする。
その他、国は、南関東地域の被災状況や経済の活動状況を外国に対し迅速かつ正確に発信していくための情報伝達体制を確保する。

3 帰宅困難者対策

(1)

南関東地域で大規模地震が発生した場合、通勤、通学、出張、買物、旅行等の理由で、自力で帰宅することが極めて困難になるような人々が多数発生することが想定される。

(2)

このような帰宅困難者に対する対応は、情報の提供や家族等との安否確認に対する支援、避難場所の提供や応急収容、代替交通の確保も含めた帰宅支援というように多岐にわたるものである。これらについては、基本的には関係する機関との連携により地方公共団体が行うものであるが、被災状況に応じて、国も積極的な支援を行うものとする。また、通勤、通学者の場合には企業や学校としての対応、買物客等については店舗等との連携における対応が重要である。さらに、大規模地震発生時に帰宅困難者になる可能性がある通勤、通学者については平常時からの一人ひとりの備えも重要である。

(3)

帰宅困難者の不安を取り除きパニックを防止するため、帰宅困難者に対して必要な情報を提供するための体制を検討し、構築しておく必要がある。このため、一時避難場所等に関する情報、鉄道等の交通の運行や復旧状況等の帰宅手段に関する情報、地域ごとの被害状況など帰宅困難者の家族の安否等に関する情報等について、関係者の連携により検討を進めていくものとする。また、通信手段の輻輳が想定される中で、自宅にいる家族等の不安を解消するための方策を推進する。

(4)

情報の提供に当たっては、マスコミ等の協力が不可欠であり、帰宅困難者の安否情報に関し、学校、企業等の単位で情報発信するメディアを決めておくというような方策について、さらに検討を進めるものとする。また、電光掲示板を所有する企業との連携等の方策についても検討を進めていく。

(5)

避難場所の提供等に当たっては、地方公共団体は、帰宅困難者の発生についても考慮しておくものとする。また、帰宅困難者が徒歩等で帰宅することが可能であるような場合には、関係地方公共団体は互いに密接な連携を図りながら、帰宅困難者を支援する必要があり、このような場合を想定し広域的な検討を進めておくものとする。さらに、帰宅困難な状態が長期間にわたるような場合には、バスなどの代替交通の確保も検討する必要があり、関係地方公共団体は、国、関係事業者等と連携して検討を進めておくものとする。

(6)

広域的な通勤者、通学者を抱えている企業、学校等においては、大規模地震発生時に備え、帰宅困難者のための食料等の備蓄や仮眠等のための設備を整備しておくことが必要である。また、通勤者、通学者一人ひとりにおいても、徒歩による帰宅ルートを平常時に確認しておいたり、通信手段が輻輳した場合の安否の確認手段を家族と申し合わせておくなどの備えを講じておくものとする。

4 文化財等の被災対策

南関東地域には、古都における歴史的風土の保存に関する特別措置法において歴史的風土保存区域として指定されている鎌倉を始め、我が国の歴史と文化において、また、世界的にも欠くことのできない文化財が数多く存在している。また、既に指定、登録されている文化財ばかりでなく、今後文化財として保護すべき物件や、地域の生活に根ざした多様な文化的資源が存在している。さらに、文化財を取り巻く環境を一体的に保護することで良好な都市環境を形成している地域や、箱根を始め文化財を拠点とするまちづくりを進め地域の活性化を図っているところも少なくない。
このため、国、地方公共団体はこうした貴重な文化財を震災から保護するため、以下の対策を推進するものとする。

(1)

文化財の震災対策を確実とするため、地域における文化財の所在情報の充実・整理を行い、文化財保護部局と防災関係機関等が情報を共有化するとともに、具体的な震災対策の検討を連携して進めるものとする。また、文化財所有者等に対する防災教育を進め、日常的な維持管理の徹底と震災時の応急対応の円滑化を図るとともに、個人所有等の文化財において適切な保護対策の取れないものについて公立博物館等への寄託を推進するものとする。

(2)

文化財の地震対策として、美術工芸品等については、落下や倒壊による損傷を避けるために展示や収蔵の方法を検討し、展示施設等には必要に応じた措置を施し、文化財建造物については耐震性能を診断し、構造補強等を行うものとする。

(3)

地震火災に備え、文化財の多くが木や紙などの可燃性の素材であることに配慮し消防用設備等を整備するとともに、事前の応急対応の体制整備及び資機材の備蓄、平常時からの訓練の実施等を一層推進するものとする。

(4)

崖崩れや倒壊物による二次被害や近隣の火災による延焼の防止などの観点から、緑地の保全等文化財周辺の環境整備における対策を講じるものとする。
この際、文化財においては、観覧等を目的に多数の人々が集まるものも多いため、参観者等の安全の確保にも配慮するものとする。

(5)

万一、文化財が被災した場合においても復旧を図ることができるように、写真、図面、調書等の記録等の整備や、有効な文化財の保護方策に関する研究を一層推進するものとする。


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1998.6.23
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