南関東地域直下の地震対策に関する大綱

南関東地域直下の地震対策に関する大綱


目次 前へ 次へ

第4章 総合的な災害対応能力の向上

1 住民一人ひとりの震災対策

住民は、自らの身の安全は自らが守るという防災の基本を深く認識し、平常時から南関東地域における大規模な地震に対する備えを心掛けるとともに、震災時には自らの身の安全を守るよう行動することが必要である。

(1)

このため、住民は、平常時においては、地震に関する基礎知識、南関東地域において大規模な地震が発生した場合に想定される地震の被害等を把握するとともに、自らの生命・身体・財産の被害を最小限に食い止めるため住宅の耐震診断・改修等震災の予防を図る。また、食料、飲料水等の備蓄、非常持出品の準備、家具の転倒防止、消火器の位置の確認や電気機器、ガス器具等の適切な取扱い等の出火防止対策など、各家庭での身近な震災発生時の備えを講じておくものとする。特に、生活圏域の広域化、都市活動の24時間化等の進展の著しい南関東地域においては、家族等が離散している可能性が高いことにかんがみ、震災時における連絡方法、落ち合い場所等を確認しておくほか、ラジオ、ポケベル等の震災情報の収集が可能となる機器等を可能な限り身の回りに備えるよう留意するものとする。

(2)

直下の地震は局地的に激甚な被害をもたらし、被災地のニーズが防災関係機関の応急対策活動能力を一時的に上回ることも想定されることから、住民は、地域の自主防災活動へ参加することなどにより、初期消火、近隣の災害弱者等の救助などに努めるとともに、消火活動、避難路等沿道の危険物除去など防災関係機関が実施している応急対策活動に協力することも重要である。

2 自主防災活動の充実・強化

都市化の著しい南関東地域においては、世帯構成の変化、核家族化、独居化の進展により、平素から地域住民が連帯し、地域ぐるみの防災体制を確立しておくことは非常に難しい課題であるが、阪神・淡路大震災等においても、地域住民が協力しあって救助活動・消火活動等を行い、人命を救った事例等が見られ、自主防災活動の重要性が再認識されたことを踏まえれば、これを充実・強化していくことは重要である。

(1)

関係地方公共団体は、リーダー研修の実施やマニュアル作成等を実施し、自主防災活動の基礎となる人材の育成・ノウハウの蓄積・普及に力を入れる。また、婦人防火クラブ等の活性化、事業所等の自衛消防組織との連携を推進する。

(2)

さらに、関係地方公共団体は、消火、救助、救護等に必要な資機材の整備や、避難、備蓄等の機能を有する活動の拠点となる施設の整備を図る。

(3)

国は、関係地方公共団体と協力して、住民の自主的な防災活動の普及・啓発、防災教育の推進を図るため、平常時から地域の防災拠点を活用して自主防災組織の研修・訓練等を実施し、地域住民の防災体制を確立する。

3 ボランティアとの連携

震災対策については、防災関係機関がそれぞれの防災計画に定められた予防、応急等の対策を実施することとなっているが、阪神・淡路大震災等でも見られたように、大規模な震災が発生した場合には、行政機関のみでは十分な対策を講ずるには困難な面があり、柔軟かつ機動的な防災ボランティアの役割が不可欠である。
南関東地域において大規模な地震が発生した場合にも、全国各地から多くの防災ボランティアが駆けつけ、被災地の支援活動を展開することが予想されるが、防災関係機関は、防災ボランティアの自立性、広域性等に配慮しつつ、これと連携し、積極的に応急対策活動全般を機能的・効果的に運営していかなければならない。このため、各機関において、平常時から防災ボランティアと連携するとともに、活動環境整備を進めるため、次のような施策を講じていく必要がある。

(1)

国、関係地方公共団体等においては、日本赤十字社や社会福祉協議会等の関係団体と協力して、リーダー育成等を目的とした講習・研修等や事前登録(特に、専門的な技術を有するボランティアの登録)の実施、ボランティア活動のコーディネートを行う体制の確立等防災ボランティア活動環境の整備を進め、「防災とボランティア週間」等の機会には積極的に普及・啓発を行い、震災時の備えの充実強化を図る。

(2)

国、関係地方公共団体は、関係団体と連携し、必要に応じて、防災ボランティア活動を行う団体等の平常時の研修・講習会や啓発行事、災害時における活動等様々な取組み等を把握するとともに、関係団体、防災ボランティア活動を行う団体等との信頼関係を強化し、また、団体間の連携の醸成や、様々な取組み状況等の共有を支援する。また、防災関係機関、関係団体、防災ボランティア活動を行う団体が震災時におけるボランティア活動に係るそれぞれの対応指針を作成・共有することを推進する。さらに、震災時における各機関、関係団体、ボランティア団体等との活動情報共有システム等の構築を検討していく。

4 海外からの支援の受入れ

(1)

国際化、情報化が進展している状況の下、大規模震災時には外国からの人的、物的支援の申し入れが多数寄せられるようになっており、阪神・淡路大震災の際にも、多くの国や地域、国際機関からの支援の申し入れがあり、被災地方公共団体の意向を確認した上で、必要な申し入れを受入れた。国においては、阪神・淡路大震災の教訓を踏まえ、防災基本計画において、海外からの支援受入れに関する規定を盛り込むとともに、関係省庁連絡会議において、受入れの可能性のある分野及び対応省庁と対応方針、受入れに関する手続きの流れなどについて申合せを行い、体制の整備を図っている。

(2)

南関東地域は、我が国の首都機能をはじめ社会経済活動に関する諸機能や人口が著しく集積する市街地が広範囲に広がっていることから、大規模地震が発生した場合の被害は他の地域や国民生活のみならず、世界的に波及するなど極めて甚大な影響を及ぼすとともに、多くの外国人を有するという社会環境の特殊性から、海外からの支援申し入れが集中することが予想される。このため、国は、海外からの支援受入れに関する関係省庁申し合わせ等を踏まえ、適切かつ迅速な対応に努めるものとする。

5 企業防災の促進

南関東地域には、金融、情報等のサービス産業を中心に多くの企業が集積し、高度な経済活動を展開しており、日本経済のみならず世界経済全体において大きな役割を果たしている。このため、各企業は、震災時における従業員及び顧客の安全を確保するために所要の対策を講じるとともに、企業の社会的責任を自覚し、震災時の業務機能全般の維持・復旧体制を確立して企業活動の維持を図ることが求められている。さらに、自らが立地する地域の防災活動の強化に対しても積極的な貢献が期待されている。各企業はこれらのことを十分認識し、対策を推進していく必要がある。

(1)

企業は、震災時における従業員及び顧客の安全を確保し、業務機能全般の維持・復旧体制の整備を図るため、施設の耐震化、備品や機器の転倒・落下防止対策、物資・資機材等の備蓄、震災時の連絡手段の確保、参集体制の整備等を行い、それらを明らかにした防災計画・マニュアルの作成に努める必要がある。特に、高層ビル、地下街、ターミナル駅等不特定多数の者が出入りする施設等においては、上記の対策が重要である。

(2)

また、阪神・淡路大震災における事例等に倣い、企業は自ら立地する地域の防災活動に対しても、救助・救命活動、資機材の提供、オープンスペースの開放を始めとして、人員・施設設備・土地等自らの資産を活かし、積極的な寄与を行うことが求められているため、各企業においては、このような期待にも応え得るような防災体制を確立することが必要である。

(3)

このような企業の防災対策を推進するため、国、関係地方公共団体は、企業、事業所等が講ずべき措置の広報、優れた工夫例等の収集・紹介等適切な情報提供に努めるとともに、行政と経済団体との連携を強化し、企業のトップから一般従業員に至る防災意識の高揚を図るものとする。また、企業の顧客安全対策については、各企業の責務であるとともに、国や関係地方公共団体にとっても、応急対策を講ずる上で重要な課題と考えられることから、今後とも、行政、民間が一体となって検討を進めていく必要がある。

6 災害弱者等に対する配慮

南関東地域は、都市化の進展に伴い、高齢者、障害者、外国人等いわゆる災害弱者の増加が見られることから、これらの者に対する防災上の配慮が以前にもまして重要な課題となっている。また、地理に不案内な多数の出張者、旅行者等が常時滞在しているという課題も抱えている。これら震災時に的確な防災行動をとりにくい立場にある者の安全確保を図るため、関係地方公共団体は、国、関係団体等との連携・協力の下、次のような対策をきめ細かく推進するものとする。

(1)

災害弱者が自力で行動できる条件の整備、協力体制確立を図るため、

  • 災害弱者に配慮した防災施設・設備の整備
  • 災害弱者自身の対応能力向上を図るための防災訓練・広報啓発活動
  • 災害弱者の対応能力を考慮した震災時の緊急通報、情報伝達、避難誘導等のための機器・システムの開発・整備
  • 初期消火、応急救助、避難誘導等に当たっての地域住民の協力による隣保共助体制の整備

を推進することが必要である。

(2)

特に、築年の古い建築物の密集した市街地に多い一人暮らしの高齢者や障害者に対しては、地域住民と民生委員等が連携し、日頃からこれらの災害弱者がコミュニティから遊離しないよう震災時に備えた配慮を行うことが必要である。

(3)

また、震災に対する知識が乏しく、地理に不案内で、かつ日本語の理解も十分でない外国人に対しては、平常時からの多様な言語及び手段・経路を通じて基礎的防災情報の提供等を行い防災知識の普及を図るとともに、防災教育・訓練の実施体制の整備に努めるほか、震災時における情報収集伝達ルートの整備について検討を進める必要がある。

(4)

地理に不案内な出張者、旅行者に対しては、一時避難場所等避難に関する情報や鉄道等の交通の運行や復旧状況等帰宅手段に関する情報等を提供するとともに、避難誘導等の体制整備に努める必要がある。また、家族に対してこれらの者の安否情報等を提供する方策についても検討を進める必要がある。

7 防災意識の高揚、防災知識の普及

(1)

国、指定公共機関及び関係地方公共団体は、相互に協力して、南関東地域における震災に対する備えの必要性について住民、企業等に一層の啓発を行うとともに、想定される震災の様相、ライフラインの機能障害が生じた場合の所要の自衛・代替措置等震災時にとるべき措置等震災に対する正しい知識の普及を図る。また、教育機関においては、防災に関する教育の充実に努めるものとする。さらに、関係地方公共団体においては、地震の発生に伴う崖崩れ、地盤の液状化等を念頭に置いた地震危険性の把握に努め、住民が自らの地域の地震被害の危険度を知り得るような危険度の公表等を行うとともに、震災時の行動指針等の配布、研修等を実施する。

(2)

このような取組みを行うに当たっては、国、関係地方公共団体等は、「防災週間」「防災とボランティア週間」等の機会を積極的に活用して各種防災行事の開催等を行い、日常的かつ継続的に住民及び企業等の防災意識の高揚を図っていくものとする。

(3)

なお、防災知識の普及に当たっては、報道機関等の協力を得るとともにビデオ、疑似体験装置等訴求効果の高いものを活用していく。

8 防災訓練の実施

(1)

地震の発生時における震災応急対策の実施体制を確保するとともに、併せて住民や企業等の防災意識の高揚を図るため、国、関係地方公共団体及び関係指定公共機関等は、毎年策定している国の総合防災訓練大綱に基づき、相互の緊密かつ有機的な連携・協力の下に、住民、企業等と一体となって、総合的な防災訓練を実施するものとする。

(2)

防災訓練の実施に当たっては、都市構造、都市住民の生活・行動様式等南関東地域の特殊性を十分考慮し、機動性を発揮した広域活動拠点等における広域的応急対策訓練や現地対策本部訓練、石油コンビナート等の危険物施設等における訓練及び参加者自身の判断も求められるような内容を盛り込んだ訓練など、より実践的な防災訓練の充実を図るものとする。

(3)

関係地方公共団体は、総合的な防災訓練を実施するほかに、地域住民、企業等で実施する防災訓練に対し、夜間等様々な条件や地域の特性に配慮し、各種訓練用資機材を活用した訓練を実施するよう積極的に指導・支援を行うものとする。


目次 前へ 次へ
1998.6.23
中央防災会議(事務局内担当:国土庁防災局震災対策課:E-mail:edcplan@nla.go.jp

所在地 〒100-8914 東京都千代田区永田町1-6-1 電話番号 03-5253-2111(大代表)
内閣府政策統括官(防災担当)

Copyright 2017 Disaster Management, Cabinet Office.